『キャロル』-1950年代、自分の心に正直に生きた美しき女性の愛の物語
- 2016年02月10日更新
原作は、『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』で知られるパトリシア・ハイスミスが別名義で発表し、ベストセラーとなった小説。1950年代のニューヨークを舞台に、生活レベルも年齢も違う2人の女性の愛の物語が描かれる。2月28日に授賞式が行われる第88回アカデミー賞には、主演女優賞(ケイト・ブランシェット)、助演女優賞(ルーニー・マーラ)など計6部門ノミネートされている。『エデンより彼方に』のトッド・ヘインズ監督。
見えない力に導かれた運命の出会い
1952年、クリスマスで賑わうニューヨークの高級デパートでアルバイトをするテレーズは、美しい年上の金髪女性に目が釘付けになる。毛皮を纏った上品な女性の名はキャロル。その視線に気付いたキャロルは、テレーズに娘のクリスマスプレゼントを選んでもらう。
キャロルが忘れた手袋をきっかけに2人は会うようになる。実は、彼女は幸せとはいえない結婚生活を送っており、離婚により娘を奪われようとしているのだった。キャロルへの思いが、単なる憧れから別の感情へと変わっていくことに気づくテレーズ。そしてキャロルもテレーズに惹かれるようになり、2人は思いつくまま旅に出る。
枠に捉われず心に正直に生きる強さ
一歩間違えると「“性に保守的な時代の女性同士の恋”という、困難な状況を隠れ蓑にした不倫映画」になりかねない。キャロルは、単に飾りでいることを求める夫と離婚したいと思っているのだが、この夫の描写が弱くそれほど横暴には見えないため、彼女が少々勝手な女性に見えてしまうのがその一因だろう。
だがそれを打ち消すのは、常識という壁に阻まれながらも相手に惹かれる純粋な自分の気持ちを認め、大切にしようとするキャロルとテレーズの姿だ。これは、恋愛という場面に限らず現代に生きる私たちの指針となるのではないだろうか。自由が保障されている時代、国に生きているのに、枠に捉われ本当の心を隠しているのではないかと、ふと自問自答してみたくなる。
50年代初めのノスタルジックな雰囲気に酔いしれる
溢れ出る思いを表情に込めたキャロル役のケイト・ブランシェットの演技には、目を奪われるものがある。また、サナギから蝶になるように成長するテレーズを演じた、ルーニー・マーラの存在感も引けをとらない。
もちろん本作の魅力はそれだけではない。美しくエレガントなキャロルの、そして素朴だが可愛らしいテレーズのファッション、ペリー・コモやジョー・スタッフォードの楽曲、数々のインテリアなど、当時の雰囲気にたっぷりと浸ることができる。セットの装飾は50年代初期に使われていた色を元に、特定の色の範囲内で仕上げたという。多くの素晴らしい要素に溢れた、しなやかで芯のある女性映画といえるだろう。
▼『キャロル』作品・公開情報
(2015年/アメリカ/カラー/118分)
原題:CAROL
原作:パトリシア・ハイスミス
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー、サラ・ポールソンほか
提供:ファントム・フィルム/KADOKAWA
配給:ファントム・フィルム
●『キャロル』オフィシャルサイト
コピーライト:© NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
※2016年2月11日(木・祝)より全国ロードショー
文:吉永くま
- 2016年02月10日更新
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