『セシウムと少女』〜音楽、アニメ、見慣れた街。中央線カルチャーがぎっしり詰まった、女の子の冒険ファンタジー
- 2015年04月25日更新
音楽・ファッション・マンガ……様々な文化を生んできた、東京・中央線沿線の街々。この中央線文化の魅力をたっぷりと注ぎ込んだご当地ムービーが誕生! 阿佐ヶ谷に住む17歳の少女が、7人神様と過去や現在を駆け巡る冒険ファンタジー。阿佐ヶ谷が誇る名飲食店や見慣れた風景がふんだんに登場し、ナレーションには原マスミ、主題歌に知久寿焼など、中央線文化に寄り添ってきた人気ミュージシャンが多数参加。さまざまな作風のアニメを挿入したり、キュートな新人女優を主演に迎えたりと、お楽しみがいっぱい。でもタイトル通り、3.11以降の福島原発問題に切り込んでいく社会派作品でもある。ポップでシリアスでノスタルジック。大切なものがぎっしりと詰まった、まさに玉手箱のような作品だ。4月25日(土)からユジク阿佐ヶ谷で公開。© 2015 ふゅーじょんぷろだくと All Rights Reserved.
阿佐ヶ谷の街で摩訶不思議な神様たちと出会った、女子高生ミミちゃんの、愛と冒険と青春の物語。
ミミちゃん(白波瀬海来)は中央線が走る阿佐ヶ谷で暮らしている17歳。抜群の記憶力で成績優秀だけど、学校では浮いた存在であり居心地が良くない。東日本大震災の3日後、東京にセシウムの雨が降り注いで以来、チクチク痛む舌の異変に不安を感じたり、九官鳥“ハクシ”が逃げてから老人ホームで暮らす静おばあちゃんの容体が悪化したりと、悩み多き日々を過ごしていた。ある日、阿佐ヶ谷の街で雷神のらーさん(長森雅人)、風神のふーさん(飯田孝男)と出会ったミミちゃんは、彼らに「本当に神様なら九官鳥を探して」と頼む。そして海神のうみさん(川津祐介)を訪ね、大黒天の大ちゃん(山﨑恵史)、阿修羅のあーちゃん 、田の神のたーさん(山谷初男)、芸能の神・ミッキー(なんきん)らと合流。総勢7人の神様たちと九官鳥“ハクシ”を探す中、その名の由来である北原白秋が暮らした1940年代の阿佐ヶ谷にタイムスリップ。そこで白秋に憧れる16歳の静おばあちゃんと出会い、素晴らしい青春のひと時を過ごす。現代に戻ってきたミミちゃんを待っていたのは、九官鳥“ハクシ”の行方だけでなく「ミミちゃん自身の青春とは何か」という大問題。果たして悩み多きミミちゃんは、ハッピーエンドを迎えられるのか……?
贅沢なアニメーション、昭和初期のデザインコラージュ、そして音楽。ぎっしり詰まった中央線文化の楽しみ。
「中央線ご当地映画」ともいうべき本作は、現在の街を登場させるだけでなく、北原白秋をはじめ多くの文化人が住んだという昭和初期の阿佐ヶ谷の様子までも描く。さらに東京を観光するかのように、当時のポスターや絵葉書と実写をコラボさせ、ファッションや文化を紹介しながらグングンと世界観を広げていく。また、本作のもうひとつの特徴でもあるのは、たっぷりと挿入されたアニメーション。7人の神様にもそれぞれテーマの短編アニメが制作され、鈴木伸一や水尻自子など、名うての作家が参加している。もちろん中央線カルチャーといえば音楽も忘れてはならない。劇伴音楽演奏には、中央線文化の音楽シーンに馴染み深いミュージシャンが多数参加。主題歌の「セシウムと少女」を独特な歌声で聴かせるのは、根強いファンを持つ知久寿焼。本作は、中央線文化ならではの材料をふんだんに盛り込み、贅沢に楽しませる作品となっている。
シリアスで社会派な面も前向きにみせていく。ヒロインたちの魅力、原マスミのナレーション。
楽しさいっぱいの本作だが、シリアスで社会派な面も併せ持つ。東日本大震災以来問題になっている放射線による健康不安、市民に明らかにされない情報、経済優先の政治への批判をおり込み、徐々にメインテーマに押し上げてゆく。この一作に才谷監督は「やりたいこと」と「やるべきこと」をぎゅっと詰め込んでいる。このバランスを保つ演出として、軽妙な語り口の原マスミのナレーションが生きている(中性的な魅力とも評される声をもつ原マスミは、やはり中央線文化と歩んできたアーティストだ)。さらに味のある中高年の俳優が周りを固めている中でヒロインミミちゃんを演じた白波瀬海来、そしておばあちゃんの青春時代を演じた金野美穂らのキュートな笑顔と初々しさが、一貫して作品を明るく前向きな印象にしている。監督の才谷遼は、映画館の館主としても長年映画に携わり、学生時代は岡本喜八監督に師事していたという素地はあったものの、本作で還暦過ぎての監督デビューを果たした。これはまさに、中央線文化の底力を象徴する作品といえるだろう。
▼『セシウムと少女』作品・公開情報
2015年/日本/カラー/G
監督・脚本:才谷遼
撮影:加藤雄大
照明:山川英明
録音:山方浩
美術:寺尾淳
編集:川島章正
出演:白波瀬海来、長森雅人、飯田孝男、川津祐介、山谷初男、なんきん、内田量子、山﨑恵史、中川弘子、金野美穂、花ヶ前浩一 ほか
ナレーション:原マスミ
主題歌:知久寿焼
配給:(株)ふゅーじょんぷろだくと
●『セシウムと少女』公式サイト
4月25日(土)からユジク阿佐ヶ谷で公開
© 2015 ふゅーじょんぷろだくと All Rights Reserved.
文:市川はるひ
- 2015年04月25日更新
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