女の子をよりリアルに描きたいという思いは強くありました―『おんなのこきらい』 加藤綾佳監督インタビュー
- 2015年02月20日更新
音楽と映画の若き才能が激突する映画祭「MOOSIC LAB 2014」で、準グランプリ、観客賞、最優秀女優賞、男優賞の4冠に輝いた『おんなのこきらい』が大好評公開中だ。
デザイン会社に務める23歳のOLキリコは、自他ともに認める超絶カワイ子ちゃん。かわいいと思われることに命をかけるキリコは、男性からはモテモテだが女性からは嫌われ、家では過食と嘔吐を繰り返す“こじらせ女子”。そんなキリコが和雑貨デザイナーのコウタと出会い……。
注目の実力派女優・森川葵を主演に迎え、80s直系のキャッチーなニューウェーブサウンドとキュートなヴォーカルが魅力の「ふぇのたす」が音楽を担当した本作は、女の子の生態をリアルに描くポップで辛辣なガーリームービー。多くの批評家たちをも唸らせた本作の製作秘話や見どころなどを、若干26歳の加藤綾佳監督にインタビューしました。
「わたしがふぇのたすの曲で脚本を書き、最後はわたしの脚本を読んでふぇのたすが主題歌を完成させてくれるという共同作業になりました」
― 本作のストーリーは、「MOOSIC LAB 2014」への出品のために考えられたのですか?
加藤綾佳監督(以下、監督):もともと、自分のことをすごくかわいいと思っている女の子が主人公の映画を作りたいという構想はあったんです。「MOOSIC LAB 2014」に出品してみないかというお話をいただいてから、ミュージシャンとストーリーを同時進行で考えていた時にふぇのたすの存在を知って。歌詞や曲の世界観がテーマと合うなと思ってこのストーリーで企画を進めることになりました。
― 映画に使用する曲は、どのように決めたのですか? また、ふぇのたすさんの世界観と作品のストーリーを融合していく作業とは、実際にどのようなものでしたか?
監督:脚本を書く前の段階で、ふぇのたすが映画に使用可能なデモ曲をたくさん送ってくださって、その中から選曲させていただきました。選んだ曲に合わせてセリフや展開を書いて、それをふぇのたすに送って読んでいただいて……というやりとりを何度か繰り返しました。エンディングで流れる『女の子入門』という主題歌は、もともとワンコーラスだけの曲だったものを、映画用に2番の歌詞を書いてくださったんです。わたしがふぇのたすの曲で脚本を書き、最後はわたしの脚本を読んでふぇのたすが主題歌を完成させてくれるという共同作業になりました。
― 映画全体のガーリーでポップな雰囲気は、ふぇのたすさんの世界観に合わせて考えられたものなのですか?
監督:ふぇのたすの世界観と、自分のやりたいことの両方を合わせた感じです。ふぇのたすの曲にお菓子とか食べ物がよく出てくる印象があったので、そういったところを取り入れたりしました。カフェ店員の格好をしてもらうなどして映画自体の雰囲気にふぇのたすを近づけた部分もありますし。でも、ふぇのたすって、曲は可愛いですがライブはすごくかっこいいっていうおもしろさがあるんです。
― 主演の森川葵さんはじめ、キャスティングが絶妙でした。どの俳優さんも、特に見た目の印象が役にぴったりだと思いながら拝見しましたが、どのように決められたのですか?
監督:見た目重視でキャストを選んだところはありますね。葵ちゃんは所属事務所のウェブサイトを観ていた時に、ぱっと目に入ってきて「この子だ!」って直感しました。以前から面識があった俳優さんはコウタ役の木口健太くんとサヤカ役の井上早紀ちゃんくらいで、あとの方はほぼ書類で決めたんです。以前の作品ではオーディションを行ったこともありますが、その方の持っている演技を作品に合うよう演出するのが監督の仕事だと思っているので、演技力はわたしの中でそんなに重要視していないんです。
― 脚本段階で想定していたキリコ像と、森川葵さんが実際に演じられたキリコに違いはありましたか?
監督:違いというよりも、キリコに関しては現場で葵ちゃんと話し合いながら作り上げていった部分が多いです。はじめにキリコに関する約束事だけをいくつか決めておいて、そこに沿って葵ちゃんと一緒にキリコ像を膨らませていきました。
監督:例えば、髪を切ってからのシーンでキリコが鏡に向かって笑うところ。髪を切る前のキリコは笑う時も歯を見せて笑わないけれど、ここからは歯を見せて笑おうか、とか。そういったポイントになる約束事だけは最初にいくつか作って、それに合わせて撮影を進めていきました。葵ちゃんは演じるというより、自然とキリコとしてそこにいるような女優さんで、彼女の中に湧いてきたキリコとしての感情やセリフも取り入れていきました。
― キリコのセリフに「何も知らないくせに」「分かってないくせに」という言葉がよく出てきます。キリコの孤立感や、キリコ自身が周りを受け入れない感じが伝わってくるセリフだと思ったのですが、監督自身はどういう意図を込めたのですか?
監督:たしかに、いろいろな人にキリコは言っていますね。正直に言うと、今、指摘を受けて初めてこのセリフを多用していることに気がつきました(笑)。キリコって本当は繊細でなかなか自分を出せない女の子で、かわいくしているのは彼女の強がりだと思うんです。でも本心では、キリコは自分の事をかわいいと思っていない気がしていて……。弱い自分を見せたくないからこそ自分を取り繕い、結果的に誰からも理解されない。でも、それでもいいって思ってしまっている。そんなキリコ像を思い浮かべながら、無意識に書いていたセリフです。
「ただのポップでかわいい映画にはしたくなかったので人物設定やストーリーはかなり考えました」
― 撮影スタッフはどのように集められたのですか?
監督:もともと一緒の映画の現場で出会ったスタッフがほとんどです。男性スタッフが多かったので、女の子ならではの世界観や複雑な感情が伝わらなくて大変でした(笑)。撮影用の小物の並べ方ひとつでも「そこはそうじゃなくて」ってわたしが直しても、違いが分からないって言われたり。実際に映画が完成するまでなかなか理解してもらえてなかったんですよ。
― かなり辛辣でリアルに女の子の生態が描かれていて、同性として共感する部分が本当に多かったです。それぞれの役でモデルにした方はいるのですか?
監督:モデルはめちゃめちゃいます(笑)。一見リアルに女の子を描いているような映画でも、現実世界はもっともっと複雑だと思うんです。自分なりに、女の子をよりリアルに描きたいという思いは強くありました。ただのポップでかわいい映画にはしたくなかったので人物設定やストーリーはかなり考えました。
― ユウトがキリコからのメールをチェックしている後ろで、サヤカがダーツを投げて自分に注意を向けさせるシーンとか、女の子のあざとさ全開で観ていて「きーっ」ってなりました(笑)。
監督:全編ほぼ出ずっぱりの葵ちゃんが、あそこのシーンにだけ登場しないんです。後ほど仮編集であのシーンを観た葵ちゃんも「うわぁ……!」って声を上げていました(笑)。でも、こういう女の子特有のあざとさも、男性スタッフにはなかなか理解してもらえなかったんですよ。「何でここ、サヤカわざとらしいの?」って(笑)。
― 完全にわざとだと分かる行動に、男性がコロっと引っ掛かる。もっとも女性をイラつかせるパターンですね(笑)。実際に作品を観た方からの反応はいかがでしたか?
監督: 男性からは『おんなのこきらい』というより、『おんなのここわい』だねって言われたり(笑)。女性からは共感したという意見をたくさんいただいたんですが、年代によって共感ポイントが違っていたのがおもしろかったです。例えば、キリコと同年代の方はキリコに共感したという意見が多かったけれど、もう少し年代が上の方だとキリコの上司であるまゆみさんに共感したという方も多くて。コウタに対しても、若い女の子からは「かっこいい!」っていう意見が多かったけど、もう少し恋愛経験を積んだお姉さま方だと「最低!」という意見になったり(笑)。
― 製作過程で最も苦労したところは?
監督:一番はスケジュールがタイトだったことですね。ロケ場所もいろいろな所があって移動もありましたし、撮影期間は約2週間だったのですが夜中まで撮って朝まで作業をしてという感じでした。さらに、木口くんがクランクインの日に盲腸になってしまって……。本当ならキリコとコウタの砂場でのやりとりのシーンは、天候などの懸念もあって撮りこぼしにならないように前半に撮るはずだったんです。でも、急遽予定を組み直してあのシーンでクランクアップにすることなりました。
― 木口さんには申し訳ないですが、作品にとってはプラスに働いた事件だったのでは?
監督:結果的にあのシーンが最後になって良かったと思います。葵ちゃんと木口くんも、「撮影の前半に撮影していたらあそこまで感情をもっていけなかったかもしれない」って言っていました。
― 最後に、作品をご覧になった方、これからご覧になる方にメッセージをお願いします。
監督:もともとはMOOSIC LABのために作った作品でしたので、映画祭の上映で観ていただくのが最後だと思っていたのが、今こうして劇場公開を迎えてより多くの方に観ていただけるのが夢のようです。劇場に足を運んでくださる方、作品に関わったすべての方に感謝しています。男女問わず、さまざまな年代の方に観ていただいて、少しでもおもしろかったと思っていただければうれしいですね。
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★『おんなのこきらい』作品・公開情報
2014年/日本/80分
監督・脚本・編集:加藤綾佳
主演:森川葵、木口健太、谷啓吾ほか
音楽:ふぇのたす
配給:SPOTEED PRODUCTIONS
コピーライト:©2014 Gold Fish Films / MOOSIC LAB
※2015年2月14日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
取材・編集・文:min スチール(インタビュー):hal
- 2015年02月20日更新
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