『欲動』― 神秘の島バリを舞台に杉野希妃が撮りあげた性愛と生死
- 2014年11月23日更新
女優、プロデューサー、監督として国際的に活躍し、アジア・インディーズ映画界のミューズと称される杉野希妃。そんな杉野にとって、長編監督作では初の劇場公開作品となる『欲動』が11月22日より新宿武蔵野館でレイトショー上映される。三津谷葉子と斎藤工という大人の色気を湛えた二人をW主演に迎え、神秘の島バリを舞台に“性愛”と“生死”という命題を女性監督ならではの繊細な感性で描き出す。第19回釜山国際映画祭の「Asia star award 2014」最優秀新人監督賞を受賞作品。
死に向かい心のバランスを失う夫 抑えがたい欲望に生を感じる妻
勢津ユリ(三津谷葉子)と千紘(斎藤工)の夫婦は、千紘の妹・九美(杉野希妃)の出産に立ち会うためインドネシアのバリ島を訪れる。しかし、心臓に重度の疾患を抱える千紘にとって海外への旅は肉体的に負担を伴うものでもあり、その苦痛は千紘の精神をさらに不安定にさせる。バリ観光の途中、立ち寄ったカフェで千紘が発した言葉をきっかけにユリと千紘は口論となり、死への恐怖からイラ立つ千紘は、看護師であるユリに「人の死に慣れたお前が嫌だ」と感情的に言い放つ。その言葉にユリは傷つき、カフェを飛び出してしまう。
あてもなくさまようユリに、カフェにいた日本人男性の木村が声を掛ける。誘われるままに連れて行かれたのはナイトクラブ。大音量の音楽と雰囲気にむせ返りながらも次第に開放感を感じ始めるユリに、地元のジゴロ・ワヤンが絡み付くような視線を送る。危うさを感じたユリは逃げるようにクラブの通路へ出て行くが、そこでは木村が青年と激しく身体を貪り合っていた。驚きながらも魅入るユリにワヤンが強引に迫る。必死の抵抗で逃げたユリだったが、その心の奥では抑えがたい欲望が目覚めるのを感じていた……。
すれ違う夫婦の複雑な心理と、肉体的な官能美を女性監督の繊細な感性で描く
夫の病気に気丈に向き合うユリに対し、千紘は妻の落ち着いた態度が気に入らない。自分の死に対して取り乱さないユリにイラ立ちを募らせ、一方、追いつめられたユリは得体のしれない渇望が自分の中で育っていくことに気付く。互いに愛情を持ちながらも、溝を深めて行く夫婦。本作では、男女の複雑な心理描写を女性監督ならではの繊細な感性で描き出し、主演の三津谷葉子と斎藤工はそれに呼応するように理性では説明しがたい感情を体現する。その演技とともに、二人の肉体的な官能美と内面から溢れ出すような色気に目と心を奪われる。注目すべきは、やはり二人のベッドシーン。千紘の心臓が心配になるほど激しくも、女性監督ならではのエロティシズムというべきか、美しく刹那的で胸を打たれる。
人を解放させる? 神秘的なバリの自然と民族音楽・舞踏
バリ島では、女性を相手にして生計を立てるジゴロという男たちの存在が有名だ。そのせいか、他国の女性を性的に解放する場所というイメージをもつ人もいる。筆者自身は行ったことがないが、本作をみているとバリの神秘的な自然と雰囲気に、えも言われぬ開放感をおぼえるのは否めない。劇中に差し込まれるガムランという民族音楽やケチャという踊りも、(意味はわからずとも)異国情緒と不思議な高揚感にみちている。インターナショナルタイトルの『Taksu』とはバリの言葉で、「何かを表現するときの精神的な境地」という意味があるそうだが、人の心の奥底にある静かで激しい本能を呼び起こす力がバリという島にはあるのかもしれない。
▼『欲動』作品・公開情報
(2014年/日本/97分)
インターナショナルタイトル:TAKSU
監督・コプロデューサー:杉野希妃
エグゼクティブプロデューサー:重村博文、藤本款
プロデューサー:小野光輔、山口幸彦
脚本:和島香太郎
撮影:Sidi Saleh
編集:Lee Chatametikool
音楽:富森星元
出演:三津谷葉子、斎藤工、杉野希妃、コーネリオ・サニーほか
配給宣伝:太秦
コピーライト:©2014『欲動』製作委員会
●『欲動』公式サイト
※2014年11月22日(土)より新宿武蔵野館にてレイトショー!!
文:min
- 2014年11月23日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2014/11/23/29705/trackback/