『レッド・ファミリー』― 南北統一への願いを込めてキム・ギドクが描く究極の家族愛
- 2014年10月08日更新
ギドク節に絶妙なユーモアと素直な温かさを散りばめた、新鋭イ・ジュヒョン監督
韓国に暮らす仲睦まじい一家。しかし、その正体は北朝鮮のスパイが演じるニセ家族だった――。センセーショナルな作品を放ち続けるキム・ギドクが、南北統一への切なる願いを込めて脚本・編集・製作総指揮を担った一作が、この『レッド・ファミリー』だ。ギドク本人より監督に抜擢されたのは、本作が長編デビューとなる新鋭イ・ジュヒョン監督。シリアスなテーマに絶妙なユーモアを散りばめ、心の痛覚を刺激するギドク節はそのままに、素直な温かさにあふれた異色の感動作を撮り上げた。ギドク自身も「わたしが予想した以上の出来栄え」と絶賛したという本作は、2013年の第26回東京国際映画祭で圧倒的な反響と支持を受け「観客賞」に輝いた。
人も羨む理想的な家族。その正体は“アカ”の他人同士!?
美人で聡明な妻(キム・ユミ)、誠実な夫(チョン・ウ)、威厳に満ちた祖父(ソン・ビョンホ)、かわいい孫娘(パク・ソヨン)。人も羨む理想的な4人家族だが、実は北朝鮮からの使命を遂行するために家族として韓国に潜り込んだ、“アカ”の他人同士。ひとたび家の中に入れば、妻役のスンヘをリーダーとする工作員グループ「ツツジ班」として、母国の命令を遵守するスパイの顔に一転する。そんなツツジ班の隣人は、年中ケンカが絶えないダメ一家。毎日のようくだらないことで言い合う彼らを「資本主義のバカたち」と毒づくスンヘたちだが、本音でぶつかり合い泣き笑いする家族の姿に、いつしか憧憬の念を持ち始める。そんなある日、夫役のジェホンの妻が脱北に失敗し事態は暗転し始める……。
理想の家族とダメ家族の交流に、南北の今を映し出す
工作員たちに馴れ合いは許されない。常に互いを監視し、規制しあい、その彼らをまた別の工作員が監視し続ける。母国への忠誠と大義のために任務を遂行している彼らだが、心の奥にあるのは人質に取られている家族の命だ。そんな生活に隣人一家が入り込んでくることで、ニセ家族の心にも次第に変化が生まれる。2つの家族の交流はコミカルだが、そこには南北朝線半島の今の姿が投影される。朝鮮戦争の記憶を持つ祖父母たち、イデオロギー教育を受けた親世代に比べ、思想教育を受けていない孫たちは隣国に対しての反感もさほど強くはない。家族という設定はこうした世代感の違いを自然な形で浮き彫りにし、同時に南北統一への希望を若い世代へ託したキム・ギドクの本意が垣間見える。
究極の選択の末に待ち受ける、衝撃のラストシーン
やがて心を開きはじめた隣人同士は、家の間にある垣根を自然に越えて行き来するようになる。それと同時にニセ家族同士も、階級を越えて互いに心を開きはじめるが、当然ながらツツジ班は母国から危険視されるようになる。さらに失態を犯したことで彼らは絶体絶命の窮地に立たされる……。最後に待ち受けるのは「究極の選択」だ。本当の愛に気付いた彼らが選び取る答えはどうしようもないほど切なく悲しいが、同時にとても温かい。この衝撃的な結末はぜひ映画館で確かめてほしい。
▼『レッド・ファミリー』作品・公開情報
(2013年/韓国/100分)
原題: RED FAMILY
監督: イ・ジュヒョン
製作・脚本・編集:キム・ギドク
出演:キム・ユミ、チョン・ウ、ソン・ビョンホ、パク・ソヨンほか
配給:ギャガ
コピーライト:©2013 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
※2014年10月4日(土)新宿武蔵野館他全国順次公開
文:min
- 2014年10月08日更新
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