『シュトルム・ウント・ドランクッ』〜大正の世に理想を抱いた若きアナキストたちが、極彩色で今蘇る〜

  • 2014年08月16日更新

大正時代、関東大震災前後に実在した無政府主義結社「ギロチン社」。理想と幻想を抱いた若きアナキストたちの青春群像活劇を「アンモナイトのささやきを聞いた」(1992年)の山田勇男が監督。映画・舞台で活躍中の中堅・若手俳優をメインキャストに据え、まわりに小劇場界の重鎮や、アンダーグランドシーンをにぎわせてきたミュージシャンらを配し、豪華な異色のキャスティングを実現。奥行きのある美しさと力強いビジュアル、遊びある演出で異彩を放つ、唯一無二の作品となった。
2014年8月16日(土)より2 週間、ユーロスペースにて公開 ほか全国順次公開
©シュトルム・ウント・ドランクッ製作委員会. all rights reserved.WordPress Theme by Minimal WP


関東大震災、甘粕事件。若きアナキストたちに押し寄せる激動の波。
大正11年、冬。放浪の旅を終えた中浜哲(寺十吾)は、旧友・古田大二郎(廣川毅)と再会。中浜と古田、さらに貧しく職にあぶれた若者たちは人知れず集結し、無政府主義結社「ギロチン社」を誕生させる。そんな彼らの近くには常に、蕎麦屋を名乗る謎の女・エミル(中村榮美子)の姿があった。ギロチン社のメンバーは、革命を目指し、ピストルを持ってテロルを企むも、ことごとく失敗。酒や色に溺れながら、理想と幻想を抱いて悶々としていた。そんな折、関東大震災が勃発。震災に乗じて社会運動家の大杉栄(川瀬陽太)、伊藤野枝(川田夏実)らが甘粕大尉(あがた森魚)により惨殺される。復讐に燃えるギロチン社のメンバーは、次々と襲撃事件を起こすが…。


実在した大正のアナキストたちを、意外な切り口で。
大正に実在したアナキストたちの話である。こういった実在の人物や事件を作品にする場合、様々な手段や手法がある。だれの目線で描くのか。また、人物の人柄・思想、人間関係、震災や襲撃事件の扱い方によっても、大きく作品の方向性が変わる。本作に登場するアナキストたちは、人間臭く、ひねくれておらず、愛嬌がある。まるで「隣のお兄さん」といった匂いを放ち、どうにも恐ろしさがない。呑気ですらある。しかし生きる実感を求めることには必死だ。必死ゆえに空回りし、若さゆえに計算が行き届かず、失敗を繰り返す。彼らは成果は上がらずとも、めげることなく生き生きと楽しげだ。そんなアナキスト集団を演じる俳優たちが、みなぴたりとハマってのびのびと演じている。しかし甘粕事件を機に、かれらの呑気さに暗雲が立ちこめていく。その様がとても哀しい。また、本作は松浦エミルという謎の女性を登場させることで、より独特な世界観を生んでいる。


宝探しのようなキャスト。そしてこだわり抜いた独自の大正。
メインキャストは知る人ぞ知る劇団「少年王者舘」の中村榮美子と、劇団「tsumazuki no ishi」を主宰する寺十吾(じつなしさとる)。ギロチン社のメンバーにも、注目株の活きのいい俳優がそろった。そしてさらに、その他のキャストが面白い。インディーズ音楽好き、アンダーグラウンド演劇ファンには垂涎ものの独特な出演者が次々と登場する。有島武郎役の佐野史郎などメジャーな出演者もいるものの、 あっと驚く人が、これでもかというほど映り込んでいて、宝探しのように楽しめる。さらに本作は意匠をこらしたビジュアルが見どころ。視覚でたっぷりと極彩色の大正時代を味わえる。こだわり抜いた独自の大正は、どこを切り取っても絵になる美しさだ。また随所に前衛的な遊びを取り入れ、ポップというには渋みが強く、キュートというには泥臭い、インディーズならでは輝きを放っている。


▼『シュトルム・ウント・ドランクッ』作品・公開情報
監督: 山田勇男
脚本:山田勇男、高野慎三
出演:中村榮美子、寺十吾、廣川毅、吉岡睦雄、銀座吟八、小林夢二、上原剛史、海上学彦、礒部泰宏、松浦祐也、山本亜手子、藤野羽衣子、宮内健太、井村昂、山本浩司、川瀬陽太、佐野史郎、あがた森魚、流山児祥、天野天街、宍戸幸司、白崎映美、つげ忠男、原マスミ、知久寿焼、夕沈、ジンタらムータ、黒色すみれ、谷口マルタ正明、石丸だいこ、黒田オサム、シバ、坂本弘道 ほか
撮影・照明:四宮秀俊/美術:水谷雄司/音楽:珠水/企画:高野慎三/プロデューサー:古屋淳二
2013年/138分/カラー/16:9/HD/3.0chステレオ
配給:ワイズ出版

●『シュトルム・ウント・ドランクッ』公式サイト
2014年8月16日(土)より2 週間、ユーロスペースにて公開 ほか全国順次公開
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文:市川はるひ

  • 2014年08月16日更新

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