『果てなき路』—幻影と現実の境目を彷徨う、終わりなきロマンティック・ミステリー。
- 2012年01月14日更新
ニューシネマの伝説的な映画監督、モンテ・ヘルマン。1971年公開の『断絶』は現在でも多くの熱狂的なファンに支持される作品だが、興行的には惨敗。彼の代表作は同時に彼をメジャー映画から遠ざける原因ともなった。以来、「呪われた映画監督」などというトホホな呼び名を付けられ、1989年の『ヘルブレイン/血塗られた頭脳』を最後に長編作品も途絶えてしまっていた。しかし、その間も世界は決して彼を忘れることはなく、クエンティン・タランティーノは『レザボア・ドッグス』を、ヴィンセント・ギャロは『バッファロー’66』を、当初はヘルマン監督作として企画していたのだという。2010年にはヴェネチア国際映画祭で生涯功労賞を授与されるなど、多くの映画人から常にリスペクトされ続けてきた人物なのだ。
そんなヘルマン監督が、その名のとおり(HELLMAN=地獄男)地獄からの帰還を果たし、御歳79歳にして実に21年ぶりとなる最新長編作品『果てなき路(みち)』をオールデジタルで作り上げた。映画製作現場を舞台に、野心的な若手映画監督と彼を魅了する謎の女、そこで起こる事件を描くロマンティック・ミステリーは、そのタイトル通り決して答えには辿り着けない謎と、不思議な官能美に彩られた極上のフィルム・ノワールとなっている。
アメリカ人の映画監督ミッチェル・ヘイヴン(タイ・ルニャン)は、かつてノースカロライナで起こった事件を題材にした映画「ROAD TO NOWHERE」の製作にとりかかる。映画の核となるヴェルマ役の女優探しをしているとき、無名女優のローレル(シャニン・ソサモン)を偶然見つけ、彼女に会いにローマへと向かう。抗いがたい魅力を持つローレルの虜となったミッチェルは、作品ごと彼女に翻弄されていく。一方では事件の真相を追う保険調査員のブルーノ(ウェイロン・ペイン)が何かに気づき始め、映画の撮影現場も次第にもつれ出す。劇中で撮影される映画の基となった事件、撮影されている映画作品のストーリー、さらに撮影現場でのスタッフや役者たちの人間模様。3つの世界の境界線が次第に曖昧となって行き、物語はフィクションとノンフィクションの間を彷徨いはじめる。おそらく、真剣にストーリーを追えば追うほど混乱してしまうはずだ。できれば力を抜いて感覚的に観た方が良い。なぜならどんなに凝視しても、謎は常にぼんやりとした影として存在し続け、決して自分から親切な答えを提示してはくれない。様々な妄想とともに胸を掻き立てられることがこの映画の魅力だ。
フィルム・ノワールと呼ばれる作品には男の運命を惑わせる魅惑的な女性「ファム・ファタール」が付きものだが、このローレルという女優は、監督との初顔合わせだというのに水でざぶざぶ顔を洗い、髪をちょっとだけ整えて普段着そのもので現れる。ナチェラルでいながら謎の女ヴェルマと同様に不可解な影があり、関わる男性を破滅へと導いてしまう。その佇まい自体が妙に官能的だ。そして小悪魔的な女優に夢中になる若き監督ミッチェルこそ40年前、『断絶』に演出中の女優ローリー・バードに恋をしたヘルマンそのもので、監督はこの作品を彼女に捧げている(ちなみにバードは『断絶』の撮影後に、アート・ガーファンクル宅で自殺)。映画の撮影現場のシーンには自身の経験をふんだんに投影し、かねてからの念願だったカントリー界の大ベテラン、トム・ラッセルに映画音楽を書いてもらうなど、まさにヘルマン監督のやりたかったことの集大成と呼べる作品だ。出演陣の多くが、役者のほかにミュージシャンという肩書きを持っているとういうのもヘルマン監督作品らしい。本作公開を記念して『断絶』もニュープリントで再上映されるというので、是非とも合わせてチェックするべし。
▼『果てなき路』作品・上映情報
2011年/アメリカ/121分/デジタル
原題:ROAD TO NOWHERE
監督:モンテ・ヘルマン
脚本:スティーヴン・ゲイドス
製作:メリッサ・ヘルマン、モンテ・ヘルマン、スティーヴン・ゲイドス
製作総指揮:トーマス・ネルソン、ジューン・ネルソン
撮影:ジョセフ・M・シヴィット
音楽:トム・ラッセル
音楽監修:アナスタシア・ブラウン
編集:セリーヌ・アメスロン
VFX:ロバート・スコタック
美術監督:ローリー・ポスト
出演:シャニン・ソサモン、タイ・ルニャン、ウェイロン・ペイン、クリフ・デ・ヤング、ドミニク・スウェイン、ロブ・コラー、ファビオ・テスティ
宣伝:VALERIA
配給:boid
提供:キングレコード
コピーライト:(C) 2011 ROAD TO NOWHERE LLC
●『果てなき路』公式サイト
※2012年1月14日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開!
●ニュープリントで甦る伝説のロードムービー『断絶』も再上映!
▼『断絶』ニュープリント版 作品・上映情報
1971年/アメリカ/102分
原題:TWO-LANE BLACKTOP
監督:モンテ・ヘルマン
脚本:ウィル・コリー、ルドルフ・ワーリッツァー
製作:マイケル・S・ローリン
撮影:ジャック・ディアソン
音楽:ビリー・ジェイムズ
出演:ジェームス・テイラー、デニス・ウィルソン、ローリー・バード、ウォーレン・オーツ、ハリー・ディーン・スタントン
コピーライト:(C) 1971 Universal Pictures and Michael Laughlin Enterprises Inc. All Rights Reserved.
※2012年1月14日より、渋谷シアター・イメージフォーラムにてモーニング&レイトショー公開!
文:min
- 2012年01月14日更新
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