第12回東京フィルメックス 『CUT』舞台挨拶、Q&A — アミール・ナデリ監督、西島秀俊さん、常盤貴子さんが登場!
- 2011年11月30日更新
アミール・ナデリ監督、西島秀俊さん、常盤貴子さんが登場!
2011年11月23日、第12回東京フィルメックスの特別招待作品であり、本映画祭の審査委員長をつとめるアミール・ナデリ監督の『CUT』上映が有楽町朝日ホールで行われ、ナデリ監督と主演の西島秀俊さん、常盤貴子さんが上映前の舞台挨拶および上映後のQ&Aに登場した。
ナデリ監督自身の深い映画への愛と、現代の映画界への憤りを秀二としてみごとに体現した西島さんだが、そもそもこの映画がスタートしたきっかけは2005年の東京フィルメックスでの2人の運命的な出会いによるものだ。この日、6年がかりで迎えるジャパンプレミアとあって、登壇者の3人は感無量の面持ちだったが、とくにナデリ監督は終始にわたり興奮気味な様子で会場を盛り上げた。そんな、熱気あふれる3人のトークをほぼノーカットでお届けします!
上映前の舞台挨拶
ナデリ監督と出会ってから6年間、ずっとこの日を待っていました(西島さん)
アミール・ナデリ監督(以下ナデリ):今夜は私のキャリアにとってとても重要な日です。この場に至るまでに6年間という歳月がかかりましたが、西島秀俊さん、常盤貴子さんをはじめ、素晴らしい俳優たち、そして素晴らしいクルーと一緒に仕事をすることができました。(ここからスタッフや関係者の名前を一人ひとり挙げて丁寧に感謝の意を述べる監督)
常盤貴子さん(以下常盤):『CUT』は私にとって、いろいろな挑戦が詰まった映画です。イラン出身で、ニューヨーク在住で、日本映画をこよなく愛する監督の作品だからこそ出来た、新たな挑戦を観ていただきたいと思います。ある意味、映画界に殴り込みをかけたような激しい、でも凄く魂のこもった映画です。
西島秀俊さん(以下西島):2005年にナデリ監督とお会いして、映画を作ろうと言ってから6年間、ずっとこの日を、この時を待っていました。この映画には僕の魂がこもっていて、(今日の)700人の観客に観ていただくことで、何か大きな流れが生まれることを願っています。この中から「われこそは秀二だ」という方が現れて、映画の新しい可能性を切り開いて貰えることを心から祈ります。
ナデリ:もし、今までの西島さんと常盤さんの演技をご覧になっているならば、一切忘れていただきたいと思います。新しい目で、心で彼らの演技を観てください。
ここで映画の上映時間となったが、なかなかステージを去ろうとしないナデリ監督。そんな監督を常盤さんが引っ張って舞台袖に連れて行くという一幕があり、観客たちの笑いを誘った。
『CUT』上映後のQ&A
作品上映後には登壇者の3人がふたたびステージに登場。映画の余韻がさめやらぬなか、作品を鑑賞したばかりの観客と質疑応答がおこなわれた。
ナデリ:秀二も映画の中で言っていましたが、かつては娯楽映画と芸術映画が一致していた時代があったと思います。秀二も私も娯楽映画は素晴らしいと思うし、娯楽性と芸術性を併せ持った作品も数多く存在します。しかし、現在の映画はテクノロジーを利用した金儲けの道具に成り下がっているのではないでしょうか。日本をはじめ、世界中の才能ある若い監督たちが映画を作りたいと思っているのに、上映する場所が無い。現在のシネコンの文化の中で映画が殺されてしまった。これは非常に恥ずかしい状況です。
撮影はトランス状態の中で行われていました(常盤さん)
西島:正直、どのシーンも大変でしたが、やはり最後の100発のパンチのシーンです。3日くらいかけて順を追って撮影していましたので、肉体的にも精神的にもかなり追いつめられた状態でした。あそこは本当にきつかったです。
常盤:作品をご覧になって感じられたかもしれませんが、あるトランス状態の中で撮影が行われていて、その状況が一番大変でした。「みんな、ちゃん戻ってきて!」というような感じが私としては怖かったです。
ここで質問を通訳されたナデリ監督は、何度もパンチをする仕草をしながら興奮気味に話し出す。
通訳:……たぶん通訳の失敗だと思います。監督はご自分だったらどういう時にパンチするかという回答をされました。すみません……。
会場からは温かな笑いが起こり、監督には、あえて質問の訂正をせずにそのまま回答が通訳された。
ナデリ:世界の若い映画の作り手が映画を諦めようしたらパンチしようと思います。もしその若者が映画資金を集めることが出来なければパンチです。もし映画を完成させて映画祭に応募したけれども200本の作品の中に埋もれて上映されなかったらパンチします。映画館が閉館するたびにパンチものだと思います。借金をして映画を作ったけれど恥ずかしい結果になり、自殺をしようと思っている人がいたらパンチします。どの瞬間も私はパンチをしたいような怒りに満ちあふれています。
故 ジョン・カサヴェテスを思い作った映画(ナデリ監督)
ナデリ:映画が死につつある、失われつつあるという危機感から生まれたと言えます。私はジョン・カサヴェテスの最後の映画で一緒に仕事をしましたが、彼は脚本を書くことにも、編集し完成させていくにことにも苦しんでいました。そして、完成した映画を置いて彼は亡くなったが、その映画は誰にも見向きされませんでした……。私は、パートナーと共に脚本を書き、ジョン・カサヴェテスの映画作りと、世界の映画史についての映画を作りたいと思いましたが、一方では悪い状況で亡くなったカサヴェテスを思うと、主人公には死んでほしくないという思いもありました。
そこでこの企画をやめようかと思った時、西島さんに出会ったのです。話をしていくうち、彼がシネフィルで非常に映画を愛していて、カサヴェテスの映画も愛しているということが分かり、そこから扉が開きました。映画の企画が歩きはじめ、資金が集まり、この映画が完成しました。私は20年ほど世界中で日本映画について教えるということを行ってきましたので、日本で映画を作りたいと思ったのです。秀二というキャラクターは私であり、また西島さんでもあると思います。そこにあるのは、古き良い日本映画の文化を守っていきたいという気持ちです。そこから世界へ向けて発信出来れば、おそらく映画を救えるのではないか、またここから新しい始まりがあるのではないかという期待があります。
ナデリ:確かに集めるのには苦労しました。あまり詳しくは話しませんが、まずはフッテージを買う交渉をしなくてはなりません。これが実現出来たのは、若くて野心的なプロデューサーたちのおかげです。
毎晩、ベッドの中で目をつぶり映画を浴びる(ナデリ監督)
自分の人生を変えた人物を、知らないうちに演じていたことは、人生最大の衝撃でした(西島)
ナデリ:映画の中では100本の映画を挙げていますが、実は103本あるのです。秀二は100本の映画のために100発のパンチを受けることになっていたので「実はあと3本あるんだ」と西島さんに言わなければいけなかった(笑)。私は毎晩、ベッドの中で目つぶり映画のシーンを思い浮かべ、映画を浴びるということをしています。薬がなくても、何か精神的なものやエネルギーで自己治癒していくことが日本人にも出来るのではないかと思います。良い映画こそが良薬です。
西島:映画ファンとして、圧倒的に衝撃を受けたのはジョン・カサヴェテス監督で、そこから自分の人生がもう一回スタートしたと思うくらいの体験をしました。今は、どれだけカサヴェテスのことが好きで、どれだけそのせいで自分の人生がえらい方向に向かっているかという思いもあって、好きなのか嫌いなのかさえよく分からないのですが、釜山映画祭でナデリ監督が「実はこれはジョン・カサヴェテスについての映画である」と突然告白されて。自分の人生を変えた人物を、知らないうちに演じていたことは、人生最大の衝撃でした。やはりジョン・カサヴェテス監督の作品は自分の中で特別です。
常盤:私は昔の日本映画が大好きで、よく女優で映画を選んで観るんです。高峰秀子さん、若尾文子さん、岡田茉莉子さん……大好きな女優さんがいっぱいいます。それからコン・リーさんが大好きで、中国映画も好きです。1本挙げるなら『紅夢』(チャン・イーモウ監督/1991年)です。
ナデリ:この映画で挙げた100本に『紅夢』は入っているよ!
常盤:えっ! すみません。英語字幕で観たから気づいていなかった。
またもや会場からは笑いがこぼれ、ナデリ監督が常盤さんに嬉しそうに握手を求めた。
3人の映画愛に満ちたトークも、残念ながらここで終了時間に。最後にナデリ監督は客席に向かって投げキッスをして会場を後にした。
【STORY】映画監督の秀二(西島秀俊)は、亡くなった兄が自分の映画資金のためにヤクザの世界で借金をしていたことを知る。自責の念に駆られながら、殴られ屋をすることで借金を返済しようとする秀二は、殴られるたびに自分の愛する映画作品を思い浮かべ、その苦痛に耐える——。
※映画『CUT』は12月17日よりシネマート新宿ほかにて公開
(C) CUT LLC 2011
▼第12回 東京フィルメックス
期間 2011年11月19日(土)~27日(日)※現在は終了しています
会場 有楽町朝日ホール 他
主催 特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
● 第12回 東京フィルメックス公式サイト
取材・編集・文:min 取材・編集協力:みのり スチール:hal
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●映画の達人-映画プロデューサー市山尚三さん
- 2011年11月30日更新
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