『ソーローなんてくだらない』―「早漏の改善」をきっかけに、人生について考える起爆剤の役割を果たす極上の人間ドラマ

  • 2011年09月17日更新

1週間限定のアンコール上映。東京都内での劇場公開は最後かも!? 
今すぐ、ポレポレ東中野へ駆けつけて!

『ユリ子のアロマ』で一躍、注目を集めた吉田浩太監督。彼の新境地ともいえる『ソーローなんてくだらない』のアンコール上映が決定した。2011年9月17日(土)より、ポレポレ東中野にて1週間限定のレイトショーである。「青春Hセカンドシーズン」の1作として作られた本作は、8月の初回公開時も1週間のレイトショーだったが、異例の動員数を記録した。本年の9月末にロンドンで開催されるレインダンス映画祭のメイン・コンペティションにもノミネートされている本作、8月に見逃したかたも、既に観て度肝を抜かれたかたも、ポレポレ東中野へ駆けつけて、早漏に悩む主人公の姿をその目に焼きつけていただきたい。「早漏を改善したい」という目的をきっかけに、主人公は自分自身の「在りかた」そのものと対峙していくことになる。

「ソーロー=早漏」— 女性にはぴんとこないかもしれないが、男性には深刻極まりない問題なのである

レンタルDVDショップでアルバイトをしている安岡晴生(芹澤興人)の悩みは「早撃ち」——数十秒ともたない早漏持ちの彼は、日々、スマートフォンのストップウォッチ機能で時間を計りながら、「なんとかして、もっともたないものか」と自家発電に努めている。だが、努力も虚しく、達するまでの時間は一向に延びない。早漏の改善方法をインターネットで調べると、「協力してくれるパートナーが必須」と解説してあった。晴生には恋人もセックス・フレンドもいない。しかし、シェア・ハウスの同居人、ノン(梅野渚)ならいる。家賃の肩代わりと掃除を条件に、晴生はノンに協力を要請した。ノンは嫌々ながら、手袋をして「しごき役」を引き受けることになるが……。

このあらすじを読んでひいた人、ちょっと待った。生々しい先入観に嫌悪感を催して目を逸らしたら、極上にリアルな人間ドラマを見逃してしまうことになる。

晴生は典型的な「ダメ男」。アルバイト先の後輩たちには、「本職は役者だ」と言って、クールでストイックな人物を装っているが、実際には役者の活動をしていないのも同然。「かつて少しだけ俳優業をしていた」という過去のささやかな栄光と、「本来の自分は格好よい男なのだ」という虚勢にすがって、無為で怠惰な毎日を送っている。

医療事務の資格を取得したら引っ越したいと考えているノンは、「自宅にいる素の晴生」を知っている。だらしない彼に日々呆れつつ、「しっかりしなさいよ!」と罵倒してはばからない。しかし、ノンはノンで、「自分の人生はこれでよいのだろうか」と葛藤している。自堕落でええかっこしいの晴生が身近にいるから余計に、自身の生きかたと現状に対する不安も膨張する。

「早漏の改善」を発端に、自分自身の「生きかた・在りかた」を模索する

家族のように近しいけれど、互いに恋愛感情をいだいていない男女が、「物理的に触れあうこと」をきっかけに、奇妙な化学反応が起こる。「恋に発展するのだろう」と安直に考えるのは性急。そこに恋があるかどうかは、観る人それぞれの判断と想像力に依るところが大きい。ただ、「早漏の改善」を発端に、自分の現在と将来について、晴生とノンが追いつめられていく様子は、観る者全員がまのあたりにする。スクリーンを見つめながら、「このふたりの人生は、これでよいのだろうか。いや、よくない」と考えるだろう。エンド・クレジットを迎えたあと、その疑問を自分自身にぶつけざるをえないと愕然とする人は多いに違いない。

「今、これから、自分はどうするべきか」と常に考えている人はもちろんだが、敢えてそこを無視して罪悪感と焦りを抱えている人にこそ、この映画は起爆剤の役割を果たしてくれる。早漏に悩む男の滑稽な姿を見て笑っていたはずなのに、観終えてみたら、「生きかたと在りかた」について必死に頭をめぐらしていると気づくだろう。そのとき、脳内で悩んでいる主人公は、晴生でもノンでもなく「自分自身」にほかならない。

▼『ソーローなんてくだらない』作品・公開情報
(2011年/日本/102分)
ビスタサイズ/ステレオ/HDV(一部劇場を除く)
監督・脚本:吉田浩太
出演:芹澤興人 梅野渚 安田沙耶 小西平祐 千葉ペイトン
製作:松下順一
企画:高崎正年
プロデューサー:小貫英樹 奥野邦洋
アシスタントプロデューサー:松下達郎
音楽:朝真裕稀
撮影:関将史
録音:島津未来介
助監督:山岡直人
スチール:内藤基裕
制作プロダクション:東京レイダース
製作:アートポート
配給・宣伝:アートポート
コピーライト:(c)2011アートポート
『ソーローなんてくだらない』公式サイト
※2011年9月17日より、ポレポレ東中野にて1週間限定アンコール・レイトショー。
■上映期間中、吉田浩太監督やキャストの登壇するトークショーが開催されます。詳細は、ポレポレ東中野の公式サイトをご参照ください。

文:香ん乃

  • 2011年09月17日更新

トラックバックURL:https://mini-theater.com/2011/09/17/soro/trackback/