「スプリング・フィーバー」主演俳優:チン・ハオさん、チェン・スーチョンさんインタビュー・・・中国で映画製作を禁じられたロウ・イエ監督の撮影現場とは?
- 2010年07月20日更新
カンヌ国際映画祭において、脚本賞を受賞したロウ・イエ監督「スプリング・フィーバー」。第19回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭に登壇のため主演俳優であるチン・ハオさんとチェン・スーチョンさんが来日されました。中国で映画制作を禁じられたロウ・イエ監督との撮影現場、同性愛者を演じる役作りについて、語っていただきました。目の覚めるようなルックスでありながら、質問に対しては誠実に言葉を選び対応する姿がどこまでも真面目。狂おしいまでの欲望が描かれる本作とは違う魅力を見せてくれました。
「何か自分のやりたいことそれをやりぬくために他のすべてを犠牲にしてもいいという信念。それをロウ・イエ監督は持ってる」
‐(ロウ・イエ監督は)中国での映画の制作が禁じられたというふうに伺っていますが、それにも関わらずこの映画に出演をした理由をお聞かせください。
チン・ハオ(以下チン): 自分は俳優として、ロウ・イエ監督にお話をいただいて、中国の伝統的な道徳観念からして、それに出るべきか、出ないべきかっていうのは迷うところではありましたけれど、ロウ・イエ監督というのは、非常に優秀な監督ですし、そういうすばらしい監督の作品に出ないわけにはいかないだろうっていう風に思いました。
チェン・スーチョン(以下チェン) : 禁じられてるっていうことは(国の)政治的なことで、そして映画っていうのは世界に通用する言語なのです。政治的なことと、芸術的なことっていうのは、全く同じではないですよね。
チン: ロウ・イエ監督は貧乏も映画のためなら厭わないし、どんなことがあっても映画のためならやりぬくと思うんです。日本の渋谷もすごいけれど、北京も(ものすごいスピードで)豊かになっている社会です。(その中で)何か自分のやりたいことを、やりぬくこと、それをやりぬくために他のすべてを犠牲にしてもいいということ、どんな苦しみにあっても乗り越えていこうというその信念をロウ・イエ監督は持ってると思うんです。その点に僕は感動しましたね。
チェン: ロウ・イエ監督に対する印象っていうのは、一番にまず純粋さが挙げられると思います。普通の生活をしながら、映画への道を突き進んでいくっていうところが魅力的なところなんです。ジョージ・ルーカスみたいに、一本とったら、後何年もずっと全然何もしないで済むような人とは違い、中国のアート・フィルムの監督っていうのは大変なんです。
世界水準、中国人監督ロウ・イエ監督の求めるもの。自由とセリフを超えた内面世界。
– 同性愛の部分が多すぎるような気がしましたが、この作品を通し、(ロウ・イエ監督が)訴えているものはなんでしょう?なにかもっと大きなもの、人間の孤独や愛といったものなのでしょうか?
チン: そういう風に言っていただいてとても嬉しいです。これは愛の映画なので、異性愛も同性愛も同じでですね、異性愛も同性愛も愛の範囲の中に入るわけだから、それを排除しないっていうこと、すべての愛の映画だってことが言えると思います。
チェン: ロウ・イエ監督が基本的にいつも求めていたいもの、それはつまり自由であること、その自由をどういう風に求めていくかっていうことを、映画の中で模索しているんだと思います。日本は本当に自由です。街を見ているといろんなものの存在が許されている。歌舞伎町にもちょっと足を踏み入れてみましたけれども、そこでは法律スレスレのいろんな店がありますよね。ロウ・イエ監督は、自由を得たいということ、そして映画でもってそれを追求していくんだと思います。
‐目の位置、声のトーン、セリフを出すときのタイミングがすごく計算されつくしているような、反対から言えば自然だなと言えるような印象を受けました。ロウ・イエ監督の演技指導というのは具体的にはどのようなものだったのですか?
チン:ロウ・イエ監督は非常に俳優に対して信頼を置いてくれていて、すごく自由にやらせてくれる監督なんです。もちろん撮る前に充分に色々お互いにそのシーンについてはするんですが、セリフはごく少なくなっていました。そういう中で(重要なのは)、セリフに頼るのではなくて、視線とか、語気、言葉の調子を通して、それぞれの人物が持つ内面のものを表現できるのかということ。それができるのであれば、外国人にもよく分かる映画になるのだと思います。ロウイエ監督がそういう風にさせてくださったということは僕らにとっては幸せなことでした。
「同性も異性も愛することに変わりはない。」
‐役作りについてどのようにされましたか?劇中に実在するゲイバーを使用したシーンがありますが、特に同性を愛する役の役作りのためにしたことなどありますか?
チン:(映画の中で)クラブは女装している人達がいっぱいいましたけれども、撮影中、僕以外は全て実際にあの店にいる人達です。あそこのクラブのオーナーはゲイなんですけれども、以前はそうではなかったそうなんです。彼は女友達と別れてから、台湾の男性と知り合って、一線を越えたんです。超えてしまうと、いきなり目の前が広がったような気がした。だから、君たちもどうぞと言われたんだけれど、ちょっと無理ですと答えました。
チェン:僕ら二人とも同性愛者ではないけれど、ワンピン役を演じているウー・ウェイはカミングアウトしている同性愛者で、今回、彼から学ぶことが多かったです。どういう風に男を好きになるのかと聞いてみたところ、「君が女の子をいいなって思うような感じで、男の子をいいなって思い始めただけなんだ」と言っていました。全く同性も異性も変わりないんだと、彼の言葉を聞いて思ったんです。
チン:俳優として脚本を受け取ったと同時に、ジャンという人物をどういう風に演技していくのかは基本的なものをとらえて撮影に入っていくわけなんですが、だいたい半月位経って、ロウ・イエ監督が「ジャンの斜めから世の中を見ているような感じ、漂っているような雰囲気は出ていると思うので、すごくいいと思う。ただ、ジャンがすごく痛みを感じていることを付け加えたらいいんじゃないか」という話をしてきました。ですから完全に脚本に最初にあった脚本に基づいて行ったんではなくて、だんだん付け加えていった。そしてよりキャラクターを色づけしていくっていう作業を俳優の僕だけではなく、スタッフ皆が一緒にこのキャラクターを作り上げていきました。
チェン:僕はこの役作りのために色んな本を読んだんですけれど、遺伝子について、染色体には6種類あるということを勉強しました。完全な同性愛から完全な異性愛の間にはいくつかのレベルがあるわけなんです。その中で遺伝子からいうと、多分僕は絶対的な異性愛者だと思うんです。ですから僕がどんな演技ができるかと言うと、女友達とのシーンは僕の経験で持ってそれは演技ができる。でも僕はチン・ハオとの演技のところは、女性とのこれまでの経験をもって演技することはできないのです。僕は彼を女性だと思って演技をしました。世界と言うのは多様化していると思うんですけれど、他人の存在、他人を認めること、他人を傷つけないこと、それが本当に世界を形作るということなんだと思います。多様化を認めることをこの映画を通して勉強しました。
恒例「セレブ」の靴チェック
さて、お二人の靴を拝見。黒のスーツに白のシャツのシンプルないでたちのチン・ハオさんは素足に黒の皮靴。中国の石田純一?対照的に渋谷の若者らしいカジュアルスタイルのチェン・スーチョンさんはカラフルなスニーカー。こちらはフランスで購入されたのだそうです。
チン・ハオさん | チェン・スーチェンさん |
● 「スプリング・フィーバー」公式サイト
監督:ロウ・イエ 脚本:メイ・フォン 出演:チン・ハオ、チェン・スーチョン、タン・ジュオ、ウー・ウェイ、ジャン・ジャチー 配給、宣伝:UPLINK
11月6日(土)より渋谷シネマライズ他にて、全国順次公開予定
取材、編集、文:白玉 スチール撮影:南野こずえ 取材:秋月直子
- 2010年07月20日更新
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