『聖将の鍬』 思春期ハイセンス×山段智昭さん×石栗みどりさん 座談会
- 2010年06月18日更新
自主映画制作団体「思春期ハイセンス」が手がけた初長編映画『聖将の鍬』が、2010年6月19日(土)に高田馬場BABACHOPシアター(東京)にて上映されます。
「作品ごとにスタッフの役割を決定する」という独特の方針をとっている「思春期ハイセンス」は、佐田錦之介さん(代表)、村井瑛二さん、村松光さん、石江ケイシさんの4名からなる制作団体。『聖将の鍬』は、監督を村井さん、脚本・照明を佐田さん、演出・撮影を村松さん、音声を石江さんが、それぞれ担当しています。
『聖将の鍬』の上映を記念して、「思春期ハイセンス」の佐田さん、村井さん、村松さん、出演者の山段智昭さん、石栗みどりさんに、座談会形式でインタビューをしてまいりました。←の写真、前列左から、石栗さん、山段さん、後列左から、村松さん、佐田さん、村井さんです。
お話を伺った場所は、「思春期ハイセンス」の生地であり聖地でもある佐田さんのご自宅! さて、どんな秘話の数々が飛びだしたのか、ゆっくりと耳を傾けてみてください。
インタビューの最後には、みなさんからの動画メッセージもありますよ!
― 『聖将の鍬』が生まれた経緯は?
佐田錦之介さん(以下、佐田) 監督の村井さんが、かつて仕事で農業のドキュメンタリーに関わって、その関係で知りあった農家のかたが、僕たちの映画の撮影に畑を使ってもよい、とおっしゃってくださったんです。そういった理由で、農業をテーマにしたシナリオをはじめ、僕がオリジナル脚本を数本書いたのですが、メンバーで話しあった結果、「鍬が盗まれる(コメディ・タッチの)物語にしよう」ということに決まりました。
― 日本史に詳しいかたは、「聖将」という単語を見ただけで、乃木希典将軍を連想すると思いますが、乃木将軍ゆかりの鍬を題材にした理由は?
佐田 たまたま日露戦争について調べていたときに、「聖将」こと乃木将軍の資料を読んだのをきっかけに、「乃木将軍の鍬にしちゃおう」と思いついたんです。謎めいた雰囲気が出るのでは、と思いました。
― 本作は、「思春期ハイセンス」が初めてキャストを外部から募集してオーディションで決定した作品です。山段さんは主人公の畑中仁を、石栗さんは仁の幼なじみの水島観子を、それぞれ演じています。おふたりは、どのような経緯で本作への応募を決めたのですか?
山段智昭さん(以下、山段) 僕は2009年の秋頃から俳優活動をしていて、ほかの映画にも出演しているのですが、インターネットのオーディション情報専門のウェブ・サイトで本作のキャスト募集告知を見つけました。コメディという点と、ストーリーのおもしろさに惹かれて、仁役に応募したんです。
石栗みどりさん(以下、石栗) 私も山段さんと同じで、いつもチェックしているオーディション情報サイトの募集告知を見たのがきっかけです。「思春期ハイセンス」のホームページを見て、「チームで活動している」という雰囲気が素敵だなぁ、と思って、観子役に応募しました。
― 山段さんを仁役に、石栗さんを観子役にキャスティングした決め手は?
村井瑛二さん(以下、村井) もともとの脚本では、仁はおとなしい性格のキャラクターでした。
オーディションに現れたときの山段さんは、不良っぽさが感じられるワイルドな雰囲気でしたから、当初の仁のイメージとは違ったんですが、「おとなしいキャラクターでなくてもよい。仁役には、この人しかいない」と(直観的に)思って、山段さんに決定したんです。
一方、観子役については、メンバーのあいだで、揉めに揉めました(苦笑)。村松さんと僕は、石栗さんでいきたいと考えていましたが、佐田さんはほかの候補者を推していたんです。
村松光さん(以下、村松) 村井さんと僕は、石栗さんの画的な(華やかな)部分を推していたのですが、佐田さんは「観子にヒロイン性を求めていない」と主張していました。(画的な)かわいらしさは観子にはいらない、というのが佐田さんの意見だったんです。
佐田 当初、僕が思い描いていた観子は、明るく元気でふくよかなキャラクターだったんです。もちろん、石栗さんは明るくて元気な演技ができるかたですが、(容姿の)イメージが違いました。
村井 メンバーで話しあっても観子役が決まらなかったので、最終的には、僕がキャスティング・ディレクターとして石栗さんに決定しました。
石栗 村井監督に決定権があって、よかった!(笑)
― 本作のキー・パーソンといえる「鍬を盗まれる老人の村田著衛門」を演じた新倉益夫さんについて聴かせてください。
佐田 新倉さんは、東京の多摩地方を拠点に剣劇の公演をしている「小倉一座」の座長さんなんですよ。
村井 村田家でのシーンは、一般のかたのお宅をお借りして撮影したのですが、著衛門役はそのお宅に住む(俳優でない、一般の)おじいさんにお願いする予定だったんです。
でも、いざそのかたに脚本を持っていったら、「難しくて、できない」と断られてしまいました。クランク・インまで2週間しかなかったので、そのおじいさんに、「著衛門役を演じてくれる人に、心当たりはありませんか?」と訊ねたんです。
そうしたら、そのかたが「遠い知りあいで、多摩で剣劇をやっている人がいる」とおっしゃったので、「小倉一座」にたどりつきました。当初、座長の新倉さんは、「著衛門役は座員の誰かに」とおっしゃっていましたが、最終的には、自ら引き受けてくださいました。
― 撮影が開始されたのは、2010年2月20日。スタッフとキャストが社会人ということで、土日を中心に約2ヶ月かけて撮影されました。撮影現場での印象的なエピソードは?
石栗 私はペーパー・ドライバーだったんですけど、本作では原付に乗るシーンが多かったんです。クランク・インの前は、この撮影を機に乗れるようになるかなぁ、と(気楽に)考えていたんですけど、実際に運転してみたら、もう散々で大変。夜に運転の練習をする時間をとってもらって、村井監督と村松さんの特訓を受けたんですけど、それでも、散々なことに変わりはなくて(苦笑)。
山段さんをうしろに乗せて運転するシーンがあったんですが、そこでウィリーして、山段さんが落ちちゃったんです。すごく恐かったんですけど、私より山段さんのほうが、ずっと恐かったと思います(苦笑)。山段さんは優しいので、「大丈夫」と言ってくださったんですけど。もう二度と原付は運転しません。懲りました(苦笑)。
― 映画を自主制作する魅力は?
佐田 「チーム」として映画を作るのが僕のポリシーで、(制作に携わる全員が)気持ちでつながることがおもしろい、と思っています。自分たちの作品をコンテスト等に意欲的に応募していきたいとは考えていますが、商業映画を目的に映画を作っているチームではないと言えるかもしれません。
たとえば、今回の『聖将の鍬』には、山段さんと石栗さんをはじめとした、外部から募集した役者さんが出演してくださったわけですが、キャストも含めてチームであり、みんなで作っているからこそのおもしろさがあります。
村井 技術的な面で言うと、自主制作映画をそのまま商業映画として出すのは難しいですが、物語の題材的には、『聖鍬の鍬』は商業映画にも出せると思っています。一方で、商業映画には決して出せないような内容の映画を作ることもできる、という(自由な)ところが、自主制作のおもしろさだと思っています。
― 「思春期ハイセンス」の今後の活動予定は?
佐田 2010年の夏に短編映画を1本、撮る予定です。そのあと、村松さんが監督・脚本・演出を務める作品を撮る予定です。
― 山段さんと石栗さんが、今後、役者としてチャレンジしたいことは?
山段 村松さんや佐田さんがこれから撮りたいと考えている作品について話を聞いたら、とても興味がある内容だったので、また「思春期ハイセンス」の作品に出たいですね。もちろん、役者として、ほかにもいろいろな活動をしたいと思っています。
石栗 佐田さんがおっしゃっている、「チームや仲間として、みんなで作品を作る」ということに、私もとても魅力を感じます。商業でお仕事をしたこともありますが、私自身は「仲間と一緒に、ひとつのものを作る」というところからスタートしたので、これからもそういうスタンスでやっていきたいです。
「思春期ハイセンス」が大きく育って、この団体のお抱え女優として、私も食べていけるようになるのが理想ですね(笑)。
― 『聖将の鍬』をこれからご覧になるみなさまへ、メッセージをお願いします。
村松 脚本におもしろいしかけがあるので、そこを見てほしいです。また、仁と観子が原付のふたり乗りをするシーンはとてもお茶目で、僕は演出担当として、そういったシーンのコンテをしっかりと書いたので、ぜひ観ていただきたいです。原付が走っているさまを、軽トラックのうしろから撮影したところなど、なかなかできない撮影方法ですので、おもしろいと思いますよ。
佐田 全体的にのほほんとした物語で、自主制作映画にありがちな暗い話ではありません。だからといって、普通の商業映画にもなかなかない物語だと思います。脚本を担当した僕としては、気楽に楽しんで観ていただけたら嬉しいと思っています。
石栗 この映画の撮影中、俳優をしている友人に「撮影がすごく楽しい」とメールをしたんです。そうしたら、その友達は、「現場が楽しいと、その楽しさがカメラにも乗ってくるはずだから、よいね」と言ってくれました。
私は心から楽しかったし、山段さんやほかの出演者、もちろん、「思春期ハイセンス」のメンバー、全員が楽しんで作った作品です。撮影が終わるのが淋しいと感じるくらい楽しく作った、よい意味での手作り感が出ている映画なので、そういった雰囲気が、観てくださるかたにも伝わればよいな、と思っています。
山段 どんでん返しのある物語なので、そこを楽しんで観ていただきたいです。
村井 準備の段階からとても時間をかけて、撮影場所にもなるべく妥協をせず、メンバーで分業して作った作品です。その結果、ひとりで作るよりも、個々の力が出た映画になったと思っています。(「思春期ハイセンス」がこれまで撮った作品の中で)最もお金も時間もかかっている映画です。そういった頑張った部分がつまっていて、画に表れていると思います。
内容的には、気楽に楽しんで観ていただければ嬉しいです。
▼思春期ハイセンス プロフィール
2004年、大学の仲間である佐田錦之介と村井瑛二が「青春」をテーマにした映画を撮るべく自主映画制作団体「思春期ハイセンス」を立ち上げる。
以降、東京多摩地区(京王線沿い)を拠点とし精力的に映画制作に取り組む。
主な作品として
・コント形式の短編集(『殺笑ステータス(2004年)』)
・放浪する壊れた男を描いた(『破滅を抱いて南へ向かう(2007年)』)
・もやもやしている社会人のロードムービー(『悪くない天気だ(2008年)』)
(※いずれも本上映会にて上映予定)
「好きなものを好きなように撮る」というスタンスを保ち、PV制作やネットTV配信等、さまざまなジャンルで活動中。
2008年に村松光、2009年には石江ケイシが加入し、初の長編作品となる「聖将の鍬」プロジェクトがスタート。今夏に短編作品、冬には村松初監督作品の撮影が予定されている。
●「思春期ハイセンス」公式サイト
▼山段 智昭(さんだん ともあき) プロフィール
1985年1月28日生まれ。京都府出身。
2009年より上京し、精力的に役者活動を行っている。
【出演作品】
『20世紀少年<最終章>僕らの旗』(柔道部門下生)
『童貞放浪記』(パチンコ宣伝店員チラシ配り、居酒屋客)
『FULLFREE』(主人公のバイト先の先輩)
『B-ON』(ヤンキー高校生:牧)
『やくたたず』(谷大輔)
『聖将の鍬』(畑中仁)
改行
▼石栗 みどり(いしぐり みどり) プロフィール
1975年生まれ。大阪府出身。
宝塚歌劇に憧れ、高校より舞台活動を開始。
女優としてストレートプレイやミュージカルの舞台、テレビドラマ・映画に出演、また東京ディズニーランド他にてダンサーをつとめる。
子供ミュージカル教室では振付、演出、指導を行う。
現在は、8月に熊本県で公開が決定している新作活弁映画ほか、出演作品の撮影を控えている。
●web連載「トーキョーワッショイ『朝市コラム』」
●ブログ 「midori iro days」
★自主映画制作団体「思春期ハイセンス」作品上映会★
●日時 2010年6月19日(土) 10:00~15:00
●場所 高田馬場BABACHOPシアター(東京)
●タイムスケジュール
・さいしょの部(11:00~12:00)
11:00~14:00 『聖将の鍬』(新作)
11:40~12:20 『悪くない天気だ』
・つぎの部(12:40~14:10)
12:40~13:00 『殺笑ステータス』
13:00~13:25 『破滅を抱いて南へ向かう』
13:25~14:10 『聖将の鍬』(新作)
※入場無料のカンパ制。『聖将の鍬』以外の上映作品は、当日、変更の可能性あり。
▼『聖将の鍬』作品情報
日本/2009年/40分
監督:村井瑛二
脚本・照明:佐田錦之介
演出・撮影:村松光
音声:石江ケイシ
出演:山段智昭 石栗みどり
新倉益夫 後藤亜姫 辻和朗
大島明子 上田竜矢 他
制作:思春期ハイセンス
コピーライト:(c)思春期ハイセンス
●「思春期ハイセンス」公式サイト
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●『聖将の鍬』 作品紹介
取材・編集・文:香ん乃 スチール・動画撮影:細見里香
改行
- 2010年06月18日更新
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