『Beautiful Islands(ビューティフル アイランズ)』

  • 2010年07月10日更新

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気候変動の影響で、住民がこれまでと同じように暮らすのが困難になっている、みっつの島がある。

ひとつめ。ツバル ― 南太平洋に浮かぶ立憲君主制国家で、その人口は約1万人と、ヴァチカンに次いで少ない。ヤシの木が生い茂り、紺碧の海が眼前に広がるその景色は、まさに楽園。海抜が最高でもわずか5mで、地球温暖化による海面上昇の影響から、「世界で最初に沈む国」と言われている。

ふたつめ。ベネチア ― 「水の都」と呼ばれるイタリアの海上都市で、街そのものが世界遺産に指定されている。中世にはベネチア共和国の首都として栄えた、歴史と伝統工芸と美にあふれる街。隣接するベネチア湾で高潮が起こると、街が広範囲で水没する。地球温暖化の影響による海面上昇が進んでおり、将来的には、街自体がアドリア海に沈むと懸念されている。

みっつめ。シシマレフ ― アラスカ最西端に位置する、永久凍土の島。約600人の住民は狩猟を生活の柱としていて、猟銃の手入れは家庭でも欠かせない。近年、地球温暖化の影響で永久凍土の土壌が溶け始めており、住民の約2割が家を失った。島に残っている住民たちは、この地を離れて移住する決断を迫られている。

海南友子監督は、3年かけて世界を3周して、このドキュメンタリーを実現させた。

当初、海南監督は、「気候変動の影響に苦しんで、逃げ惑う人々を撮るつもりだった」という。

しかし、海南監督が実際に3つの島を訪れてみると、住民たちは「気候変動との共存」を選んで、自分たちが住み慣れた愛する土地で、今後、どのように生きていけばよいかを模索していた。

ツバルの公用語はツバル語だが、英語教育にも力をいれていて、取材を受けている子供たちは、笑顔を輝かせて、ツバルの魅力を英語で語る。学校では、「この島が、いつか沈むかもしれない」ということを現実的な問題として教えていて、子供たちはその事実を認識しているが、同時に、家族と共にツバルに暮らしている自分たちを幸福に、誇りに、感じている。

至宝のソプラノ歌手マリア・カラスが、海運王のアリストテレス・オナシスと愛を語りあったといわれている、ベネチアの高級ホテル「ダニエリ」では、高潮の情報が入ると、ロビーに段差のある簡易的な通路を設置して、宿泊客を迎える。街のレストランは、水没している1階に来店した客を2階へ案内して、食事を供する。住民たちは、高潮に備えて長靴を履く。

永久凍土が溶けて氷が割れたことにより、氷のあいだに落ちた人が命を失う事故も起きているシシマレフ。住民たちは移住を決意せざるをえない状況に立たされているが、この地を離れても狩猟を続けることができるのか、なにより、先祖代々暮らしてきた土地を離れなければならない胸の痛手とどう向きあえばよいのか、課題と問題は尽きない。

海南監督が映したみっつの島の姿は、静かで穏やかである。これらの島に生きる人々の表情には、自らの住む土地に対する誇りがあふれている。気候変動に冷静に対処している彼らは、家族と共に、仕事をしたり、学校へかよったりしながら、「ごく普通に」生活をしている。

地球温暖化への危惧と提議を声高に論じている映画ではない。だからこそ、「ごく普通に生きている人々」の土地が失われようとしている事実が、目を背けることのできない現実として、観る者の心の底に、確かな形として芽生える。

▼『Beautiful Islands(ビューティフル アイランズ)』作品・公開情報
日本/2009年/106分
監督・プロデューサー・編集:海南友子
エグゼクティヴプロデューサー:是枝裕和
撮影:南 幸男
撮影技術・録音:河合正樹
整音:森 英司
アソシエイトプロデューサー・編集:向山正利
製作:ホライズンフィーチャーズ 海南オフィス
配給:ゴーシネマ
宣伝:アルシネテラン
コピーライト:(c)Kana Office. All rights reserved.
『Beautiful Islands』公式サイト
※2010年7月10日(土)より、恵比寿ガーデンシネマ(東京)、シアターキノ(北海道)、伏見ミリオン座(愛知)他にて、全国順次ロードショー。

文:香ん乃
改行

  • 2010年07月10日更新

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