『ちょっとの雨ならがまん』『ファー・イースト・ベイビーズ』先行上映イベント— “あの時代”の熱気がスクリーンに蘇った夜 〜続き〜

  • 2018年07月27日更新

『ファー・イースト・ベイビーズ』— 90年代アンダーグラウンドシーンの空気がパッケージされた作品の魅力

映画『ファー・イースト・ベイビーズ』メイン画像2作目の上映は、94年公開の『ファー・イースト・ベイビーズ』。安田監督が、演劇界の奇才・飴屋法水(東京グランギニョル/M.M.M. /テクノクラート)をはじめとするアンダーグラウンドシーンのアーティストたちとの出会いから着想を得たという長編劇映画デビュー作だ。ウクレレバンドのガソリン兄弟を主人公に、彼らの友人ワクタが大切にする木彫りの「おばあちゃん」が盗まれたことから、ひと夏の平穏な空気が一変する様を描いていく。

映画『ファー・イースト・ベイビーズ』サブ6本作には、飴屋のほか、東京グランギニョル、M.M.M.、テクノクラートのメンバーや、G.I.S.M.の横山SAKEVI、頭脳警察のパンタと石塚俊明といったアーティストたちが本人として登場する。さらに、全編モノクロの映像の中で、テクノクラートのマシンと美術家・三上晴子のオブジェが異様な存在感を放ち、仮想と現実が戯れるように物語が紡がれる。公開当時は107分の作品だったが、再上映に向けて90分に再編集したバージョンが上映され、上映後には、前衛家、文筆家、即興演奏家として活躍する吉田アミ氏と安田監督が登壇し、制作の裏側などを語った。


「この作品から“94年感”みたいなものをスゴく感じて」(吉田氏)
「特別な空気感とエネルギーを持った時代をちょっとでも体感してほしい」(安田監督)

吉田アミ氏(以下、吉田):『ちょっとの雨ならがまん』がパンクなら、これはサイバーパンクといっていいのかな。ガソリン兄弟とか、出演している方々は飴屋法水さんの劇団の役者さんが多いですよね。出演者たちが本人役で出ている理由はなんですか?

安田監督(以下、監督):もともと僕が全員のファンで、彼らが戯れている感じをそのまま映画にしたいと思ったんです。ガソリン兄弟は、最初に東京グランギニョルの舞台『ライチ光クラブ』で拝見して、いいなと思って。それから一緒に仕事をする機会もあって、出演していただいたんです。

映画『ファー・イースト・ベイビーズ』サブ4吉田:劇中に登場するのは飴屋さんの大崎のアトリエですか? 音がめちゃめちゃ良くて鳥肌が立ちましたけど、マシンの音は本物?

監督:そうです。当時は飴屋さんが住まれていて、美術としてマシンも含めてご協力いただけないかということでお願いしました。マシンの音や役者のセリフも含め、ほぼすべてが同録の音です。映像は、別の映画で使用されるはずだった白黒フィルムを、その企画が急遽中止になったので譲ってもらって。

映画『ファー・イースト・ベイビーズ』サブ5吉田:私は、この作品から“94年感”みたいなものをスゴく感じて。80年代の世紀末思想はわりと明るかったけど、95年にはサリン事件が起きたり、本当に世紀末に向かっているのを感じたのが94年くらい。劇中で、少年たちがバカ騒ぎしながら人を殺したり……実際に殺したのかどうかわからないですけど。過ぎ去って行く季節のような刹那的なものに、あの時代を思い出しました。20歳の時に作った作品と30歳で作った作品と、監督のなかで違いはありますか?

監督:うーん。自分で久々に観て、技術的なものも何もかも役者とか飴屋さんのマシンとかにおんぶに抱っこでイタいなと思うし、今は少し冷静だけど、当時は飛ばし飛ばしでまともに作品を観ていないんですよね。ただ、2作品ともその時は最高におもしろいと思って監督していたし、一心不乱に作っていたので。正直に言うと、いまだに客観性は全く持てていないです。

吉田:それしかできない必死感が「青春そのもの」を記録したものですからね。その若さに、目を逸らさずに今回公開に至ったことは、なにやら勇気づけられるものと、切実への共感があります。ラスト近くで、ガソリン兄弟の3人がフリーマーケットの会場を走り回って、おじさんに怒られているシーンがありますよね。あれは実際に怒られているんですか?

監督:時効だと思うから言いますけど、怒っているおじさんは仮面ライダーシリーズで死神博士を演じていた俳優の天本英世さんなんですよ。たまたま現場にいらして、「どこの組の撮影隊だ!」ってスゴい怒られた。録音マンだけが捕まってしまって。だから怒っている声がしっかり入っているんだけど、そのまま使っちゃった(笑)。本当にすみません。

吉田:でも、ほんとうに、こんな形で、2018年にこの作品が観られるのはスゴく幸せですよね。奇跡みたいな。

監督:いや、稚拙な作品だし申し訳ないです。でも、自分の意志とは別に、当時のカルチャーや雰囲気をちょっとでも次世代の人に体感してもらえたらいいと思って。『ちょっとの雨〜』もそうですけど、特別な空気感とエネルギーを持った時代なので。

飴屋法水氏と5人の出演者たちがサプライズ登場!

2人のトークが一段落したところで、司会者から会場に飴屋氏が来ていることがアナウンスされた。急遽ステージに現れた飴屋氏に客席もザワつき、驚きと興奮の声が漏れる。映画の完成以降、きちんとした形で顔を合わせるのは初めてという安田監督の表情は少し緊張しているようにも見えた。

さらに、飴屋氏の提案で会場に来ている出演者たちもステージに上がることに。安田監督が、会場にいる出演者たちの名前を呼ぶ。「ワクちゃん!源ちゃん! キース! ショウちゃん! モコちゃん! この機会だから、一緒に恥かきましょう!」その声に促され、さっきまでスクリーンの向こう側にいた5人の出演者がステージに並ぶ。まるで時を越えてやってきたような不思議な光景だ。照れくさそうに笑顔を浮かべた出演者たちと飴屋氏が、再上映の感想を語った。

和久田理人氏:いろいろ思い出してイタくなったけど(笑)、やっぱりかっこよかった。当時は飴屋さんのアトリエに入るだけでも緊張感があって、その雰囲気が出ていたのが一番良かった。

キース氏:皆で毎日きゃーきゃー言いながら過ごした空気を思い出しました。憧れというか……畏れていた(笑)横山さんや、PANTAさんが兄貴の家に来て撮影したり。タイムスリップしたような気分でした。

鈴木源一郎氏:自分のシーンとか、全然覚えていなかったので新鮮でした。『ちょっとの雨なら〜』は初めてだったけど、2作並べて観ると「同じだな」と思いました。

ミズタニモトコ氏:何十年も経って大きなスクリーンで観れて、嬉しかったです。

ショウ氏:映像がスゴいですね。初めての映画で、監督にどういう役柄かを聞いたら「いいからやって」って言われたことを思い出しました(笑)。

飴屋氏:映画は残るから恐ろしいですね。マシンも今は無いし、僕は基本、演劇じゃん。だから残ってないけど、こうやって残っちゃっていることが良くも悪くも恐ろしいですよ。冒頭に、僕が当時飼っていた死んだネコが出てきて、超動揺した。不意打ちですよ。一部、三上晴子と一緒に作った作品もあって、三上も死んじゃったから。動揺しますよね。

この日、残念ながらメインキャストの石川成俊氏とガソリン兄弟を演じた棚橋ナッツ氏、上野仁氏、佐野秀介氏は会場に来られなかったが、思わぬ同窓会的な展開に会場全体が温かい空気に包まれ、観客たちの大きな拍手と共に上映イベントは幕を閉じた。


“あの時代”をスクリーンで感じてほしい

トークの中で、安田監督は作品について「今観ると稚拙でイタい」という言葉を度々口にした。しかし、両作品から溢れる情熱のほとばしりと剥き出しの好奇心は、当時にしか絶対に撮れなかったものだろう。もちろん、これらの作品の根底には、時代を鋭角に切り取る安田監督の類いまれなる感性が息づいていて、だからこそ観る者を魅了する。8月18日(土)から始まる本上映では、監督の主催するP.P.P.project作品からもう1本ラインナップに加わるという。 “あの時代”を知っている人も、知らない人も、劇場のスクリーンでぜひこれらの映画を体感してほしい。きっと時代を越えた新鮮な驚きをもって、強く脳裏に焼き付くはずだ。

(取材・編集・文:min イベント撮影:hal)

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『ファー・イースト・ベイビーズ』予告編映像

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▼『ファー・イースト・ベイビーズ』作品・公開情報
映画『ファー・イースト・ベイビーズ』サブ3映画『ファー・イースト・ベイビーズ』サブ1(1993年/日本/ビスタ/DCP)
出演:石川成俊、棚橋ナッツ、上野仁、佐野秀介、和久田理人、柴崎賀宜、飴屋法水、SAKEVI(G.I.S.M.)、 PANTA(頭脳警察)、石塚俊明(頭脳警察)、鈴木源一郎、キース、ショウ、ミズタニモトコ、永福町姉妹、宮崎マサヤ、友谷英孝
監督・編集:安田潤司
脚本:安田潤司、唐原理恵
撮影:諸沢利彦 照明・撮影助手:長井和久 撮影助手:青木正
録音:鈴木昭彦 録音助手:井口奈己
美術・操演・特殊メイク・ケータリング:石毛朗
美術協力・マシンオペレート:飴屋法水、石川成俊
監督補:西山洋一 制作主任:大坪草次郎
宣伝美術:佐々木暁
配給:P.P.P.project + silver gelatin
© 2018 P.P.P.project

『ちょっとの雨ならがまん』『ファー・イースト・ベイビーズ』公式サイト

※2018年8月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

  • 2018年07月27日更新

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