『ちょっとの雨ならがまん』『ファー・イースト・ベイビーズ』先行上映イベント— “あの時代”の熱気がスクリーンに蘇った夜

  • 2018年07月27日更新

映画『ちょっとの雨ならがまん』『ファー・イースト・ベイビーズ』先行上映イベント_メイン画像
安田潤司監督が1980〜90年代に制作した幻の映画『ちょっとの雨ならがまん』と『ファー・イースト・ベイビーズ』のデジタルリマスター版が2018年8月18日から東京・新宿K’s cinemaほか全国で順次公開される。その公開に先駆け、7月12日(木)に東京・池袋の新文芸坐にて、大根仁氏(映像ディレクター)×ISHIYA氏(DEATH SIDE、FORWARD ボーカル)、吉田アミ氏(前衛家、文筆家、即興演奏家)×安田監督といった豪華2組のトークゲストを招いた先行上映イベントが開催された。『ファー・イースト〜』上映後のトークには飴屋法水氏ほか映画の出演者たちが飛び入りで登場する場面もあり、会場は終始盛り上がりをみせた。※写真左から大根仁氏、安田潤司監督、ISHIYA氏


『ちょっとの雨ならがまん』— 初公開から34年を経て語られるハードコア・パンクシーンの軌跡

映画『ちょっとの雨ならがまん』メイン画像映画『ちょっとの雨ならがまん』石井聰亙この日、最初に上映されたのは『ちょっとの雨ならがまん』のオリジナルバージョン。本作は、安田監督のデビュー作であり、70年代後半のパンクムーブメント“東京ロッカーズ”以降、さらに過激な表現を求めて台頭した80年代のジャパニーズハードコア・パンクシーンの黎明期を記録した貴重なドキュメンタリー映画だ。G.I.S.M.、GAUZE、THE COMES、THE EXECUTEら“ハードコア四天王”のほか、INU、FUNAを経て人民オリンピックショウとして活動していた町田町蔵(現・町田康)、『狂い咲きサンダーロード』(80)と『爆裂都市 BURST CITY』(82)を発表してインディーズ映画界の寵児となった石井聰亙(現・石井岳龍)など、今なお世界に影響を与え続けるアーティストたちとその表現を、当時21歳の安田監督が時代の空気やエネルギーと共に8ミリフィルムに収めた記念碑的な作品でもある。

84年に文芸坐ル・ピリエで初公開されて以降、劇場やライブハウスでの上映を中心に延べ 5万人もの観客を動員した本作だが、94年を最後にスクリーンから姿を消し、ビデオ化されることもなく現在に至る。以来、さまざまな憶測が飛び交い、上映不可能とまで噂されたが、公開から34年を迎える今年、未公開シーンを追加したデジタルリマスター版としてついに蘇る。

いよいよ上映が始まり、映画のファーストシーンがスクリーンに映し出されたとたん、客席のあちこちから「わぁっ」と歓声が上がる。劇場の最前列に設けられた取材席からそっと振り向いてみると、会場を埋め尽くすパンクスまたは元パンクスと思しきたち観客たちが、少年少女のように瞳を輝かせながらスクリーンを見詰めていた——。


「小降りの日は“ちょっとの雨ならがまんっていうフレーズが頭に浮かぶ」(大根氏)
「今は亡き人たちの言葉が突き刺さって、涙が出てきそうだった……」(ISHIYA氏)

上映後の興奮もさめやらぬなか、大きな拍手に迎えられて登場した映像ディレクターの大根仁氏とハードコア界を牽引するボーカリストのISHIYA氏。映画公開当時は月イチでライブハウスに通うパンク好きの高校生だったという2人が、本作にまつわる思い出と当時のムーブメントを振り返った。
85年頃に、千葉の西武船橋店内にあったイベントスペース*で本作を観たという大根氏は、「えらいショックを受けました。以来、この映画のことはずっと頭の隅にあって、小降りの雨の日は『ちょっとの雨ならがまん』っていうフレーズが必ず頭に浮かぶくらい。また観たいとずっと思っていたんです」と述懐する。

*80年代後半〜90年代初頭、西武百貨店を中核とするセゾングループ(2001年に事実上解散)は、積極的に文化事業を展開し、さまざまなカルチャーの発信源でもあった。※西武船橋店は2018年2月末をもって閉店

ISHIYA氏は、「ライブハウスでこの映画のビラを渡されて、観たかったけど当時は高校生でお金もなくてさ。ライブには月に一回行けるかどうかだったけど、タダで入れてもらう手段としてバンドの人たちと仲良くなった。怖いんだけど、そうやって中に入っていくと、皆優しくて。どっぷりハマりました。今回、この作品を家で飲みながら観ていたら、GAUZEのヒロさんやG.I.S.M.の(RANDY)内田くん、マサミさんとか、今は亡き人たちの言葉が突き刺さって、涙が出てきそうだった……」と感慨を語る。

 

映画『ちょっとの雨ならがまん』寿町フリーコンサートGISM映画『ちょっとの雨ならがまん』TRASHシーンの中心人物たちのインタビュー映像に加え、83年の横浜「寿町フリーコンサート」、83年6月のSTUDIO JAM「エモーショナルマーケット」など、今なお伝説として語られる貴重なライブ映像が収められているのも本作の見どころだ。大根氏が「寿町フリーコンサートは、高校生の頃にこの映画で観て、なんて恐ろしい、そしてかっこいい空間があるんだろうと思った。客席には赤ん坊を抱いた女性や浮浪者もいて、カオスっぷりがスゴい! スケシン(SKATE THING)さんはこの時に警備していたらしいですよ」と興奮気味に語ると、ISHIYA氏も「横山(SAKEVI)さんを映像で観られるのはすごいよね!」と同調する。さらに大根氏が「当時、ハードコアパンクのライブはまだそんなに観ていなくて。時代は前後するけど、有頂天が好きでナゴム系はよく行っていました。あとは、THE WILLARDとかLAUGHIN’NOSEとか……完全に“宝島”世代。ただ、当時はイベント的なライブがいっぱいあって、84年に法政大学で開催された『東京バトルDAYS』には行きました。そこでチェーンソー持って追いかけられた記憶がある(笑)」と振り返ると、ISHIYA氏も「あのライブはマスト! いろいろ裏話は聞いているけど、公の場ではとても言えない(笑)」と続け、会場の笑いを誘った。

「同年代のパンクシーンの人たちが亡くなっていくなか、時代的なアーカイブとして次の世代に見せたいと思った」(安田監督

ここからは安田監督もトークに加わり、さらに映画制作の核心に迫る。
ISHIYA氏から「いつ頃から(ハードコア・パンクシーンを)撮り始めたの?」と聞かれると「1982年頃かな。19歳か20歳くらいの時。シーン自体を体験したのはもう少し前ですね。雑誌『DOLL』の読者で、ハードコアも観てみようと思って、ライブに行ったらとんでもなかった(笑)。最初は、東京ロッカーズの時代にライブを観て、あまり同世代性を感じなかったんだけど、町田(町蔵)とかG.I.S.Mが出てきた時に、『コレはスゴい!』と思ってのめり込んでいった。海外のパクリものじゃなくて、シーン自体のエネルギーが突出していたし、横山とかGAUZEとかTHE EXECUTEとか、発しているエネルギーが被写体としておもしろかった」と当時の衝撃を語る。大根氏から「今観ると不思議な構成の映画ですよね」と突っ込まれた安田監督は「構成を言われると辛いけど。なんせ、20歳くらいに8ミリで撮ったものを、こうして皆さんに観ていただくのは、公開処刑みたいで(笑)。今日も悪い汗をかきながら観ていましたよ」と苦笑いした。

映画『ちょっとの雨ならがまん』町田町蔵映画『ちょっとの雨ならがまん』SHIN_GAUZEさらに大根氏が「当時の記憶ではライブシーンの印象が強かったけど、今観るとインタビューシーンがこんなに多かったんですね」と続けると、安田監督は「これまで何度も再上映の話をいただいたけど、バンドの音がちゃんと撮れて、きちんと演奏を見せているのかと言われたら、1/10も撮れていないと思った。次の世代の人が観てかっこいいと思ってほしいのに、音が悪いとか、撮影が下手だから彼らの良さが伝わらないというのがストレスで。でも、出演してくれた同世代のパンクシーンの人たちがどんどん亡くなっていくなか、時代的なアーカイブとして次世代に見せたいと思った。YouTubeで単に拡散されるのも違うと思っていたら、今回silver gelatinさんから上映企画の話をいただいて。稚拙で恥ずかしいけど、こういう機会を得たので最後まで観ていただければ……」と、再上映のいきさつと新たな意気込みを真摯に語った。

『ちょっとの雨ならがまん』という映画タイトルは、本作のエンディング曲にも使用されているGAUZE の「戦場」の歌詞から引用したという。公開当時はこの曲を含め、某アイドルの曲や某アニメソングなど、上映の度にエンディング曲を変えていたそうだ。しかし、この日の上映では最初のバージョンに立ち返り、「戦場」がエンドロールを彩っていた。

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『ちょっとの雨ならがまん』予告編映像

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▼『ちょっとの雨ならがまん』作品・公開情報
映画『ちょっとの雨ならがまん』EXCUTE映画『ちょっとの雨ならがまん』ZELDA(1983年/日本/スタンダード/DCP)
監督:安田潤司
出演:GAUZE、G.I.S.M.、THE EXECUTE 、THE COMES、THE TRASH、CLAY、GASTUNK、町田町蔵、石井聰亙、サヨコ(ZELDA)、佐藤幸雄(すきすきスウィッチ)、マサミ ほか
宣伝美術:佐々木暁
配給:P.P.P.project + silver gelatin
© 2018 P.P.P.project

『ちょっとの雨ならがまん』『ファー・イースト・ベイビーズ』公式サイト

※2018年8月18日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

  • 2018年07月27日更新

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