富田克也監督 × 写真家・吉永マサユキ @COFFEE&EAT IN toki トークセッションレポート-「ちゃんとしてる」人たちのマジメで不真面目なお話

  • 2015年11月15日更新


2011年10月9日(日)。東京・西荻窪のカフェ・バー兼輸入ポスターショップCOFFEE&EAT IN tokiで、『サウダーヂ』の公開が間近に控える富田克也監督と、『族』『若き日本人の肖像』などの写真集が高い評価を受けている写真家・吉永マサユキさんのトークショーが行われました。
tokiは、座り心地の良いソファやイス、貴重な輸入ポスター、優れた漫画や映画の本がたくさんあって、誰かの家のリビングで飲みながら話しているような雰囲気のお店。司会のサトウマコトさんが「tokiでやるイベントは映画館とは違って飲みながらみんなでいろいろ話したり聞いたりする感じなので、話の途中でもっと聞いてみたいことがあった場合は挙手すればいいので、楽しんでください」と挨拶してトーク開始。

数々の武勇伝をもつ吉永さん、地元山梨で有名なヤンキー学校に通っていたという富田監督。そのため(?)、しょっぱなから、やんちゃトーク炸裂。WEB再録できないことが多くて困ってしまいました。
ここでお届けするのは自主規制版ではありますが、それでもなお魅力的なお話が満載です。


街を描くために、あらゆる世代、人種、格差を捉えるべく作ってきた映画

富田克也監督(以下富田): ええと、じゃあ『サウダーヂ』の話を先にさせて頂きますが、僕らは「空族」と名乗って、自主制作映画集団ということで今までやってきました。例えば前作『国道20号線』は、いつからでしょうか、ヤンキーと呼ばれるようになった、しかし今となっては消えつつある若者達が主人公です。そんな彼ら、いわゆるヤンキーカップルが、地方都市のロードサイドに乱立する消費者金融のATMとパチンコ屋が併設された大型ショッピングセンター、そこを行き来するだけしかないという出口の見えない青春の終わりを描きました。そして新作が今回の『サウダーヂ』です。「土方」「移民」「HIP HOP」という三本柱をテーマに、『国道20号線』を撮った後、一年間カメラをもってリサーチをして、それをもとに作った映画です。

もともと、この映画に主演している、鷹野毅、伊藤仁が僕の小学校時代の友人で、彼らは実際に長年土方をやってきた。「疲弊した」とか「空洞化」とか言われている地方ですが、最近の彼らの話を聞くにつけ、土方や建築現場の仕事が急速になくなり、組はどんどん潰れていると。そして、そんな状況下にあって、ただ会社を維持する為だけの安い仕事をとってくるしかなく、それでも儲けを出す為には工期を短縮するしかないと。故に10時、3時の一服もなくなり、ただでさえきつい肉体労働が更にきつくなり、死ぬ思いをして働いている。報道などで垂れ流される常套句が、僕らの生活の実感としてどこに現れているのかという事から、まず土方というテーマを選んだわけです。そして一年間の取材の中で、ブラジル人やタイ人の移民たちとの出会いがあり、これほど沢山の移民の存在を抜きにして、もはや“街”は描けないなと、移民の問題も自然にストーリーの中に入ってきました。HIP HOPというテーマに関しては、実際に地元山梨で活躍しているstillichimiya(スティルイチミヤ)というグループがいて、彼らとの普段の交流の中で、是非一緒に何かをやりたいと常々思ってきたというのが大きな理由です。街を描くためには、あらゆる世代、人種、格差などを捉えなければならない、そう思って作った映画です。

そして、僕たちがなぜ自主制作映画という方法をとるのかというと、既存の映画というのは、やはり大きなお金が動くわけで、そのプロジェクトに人々を合わさせるのが主流ですが、僕らは、実際暮らしている人たちに映画の側から合わせに行くというスタイルなんで、これは自主制作でなくては中々出来ない事だと思います。要するに、僕たちが愛着を感じた人たちに合わせて映画を作ると。実際の生活者に合わせる為、撮影は、土、日、盆暮れ正月といった休日を利用しての撮影になる。なので撮影期間も長く、『サウダーヂ』は一年半かかりました。そういった意味で、吉永さんの写真と通底するものがあるんじゃないかと思っているんです。

大らかさを排除していく世の中に対する抵抗

吉永マサユキさん(以下吉永):土建業のことを良く撮れたなって。僕も日雇いのバイトをしたことがあって。そういうことを思い出しました。映画でスーパーロングをはいてきた若者に「土方はそんなの着ない」っていう場面があって。僕も左官屋にいたんでわかるんですが、世間の人ってみんな、建築っていうとスーパーロングのイメージをもっているけど、大工とか鳶とか基礎を作る人はああいうので、内装業や土方の人がスラックス、左官屋やタイル屋、ペンキ屋など仕上げ工はニッカポッカみたいのをはいているんですよね。運動靴と長靴の違いもある。映画を見て、ああ、現場を知っている、と思いました。
『サウダーヂ』は混沌としてる現状を伝えようとしている。いかがわしい宗教とか水の販売とか、今の日本社会を違う側面から伝えようとしている。 映画では俳優さんは使ってないんですか?

富田:『国道20号線』まではそうでしたが、これを見て「おもしろい」と言ってくださったプロの俳優さんがいて『サウダーヂ』では何人かプロの方にも入ってもらっています。基本は山梨の人にやってもらっています。

吉永:山本政志監督もそういうやり方をされていて。監督はあなたのこと買ってるんです。

富田:ありがたいです。

吉永:今回のトークの話が来るまで、あなたのことを知らなくて、山本さんに聞いたら「ちゃんとしたやつだから、ちゃんとしてやってくれよ」と言われて(爆笑)。それで試写を見たんです。

富田:(爆笑)。吉永さんの写真を見て思うのは、すごく僕らの思ってることと近い気がして。世の中がどんどん変化していく中で、愛着のあるものを撮っている。消えつつあるものや、排除されがちな人々。それは、大らかさを排除していく世の中に対する吉永さんの抵抗に思えてならない。

吉永:でも一緒でしょ?

富田:吉永さんが先ほど「隙間」とおっしゃったんですけど、今ってそういう隙間をなくしてキチキチに詰めている気がして。

吉永:僕ね、以前佐川急便で働いたことがあって。最初はきれいな箱だけそろえて積み上げていたの。そしたら先輩たちに、選ばないで、来たものを順番に積んでいけって言われたんですよ。なんでかっていうと、トラックが発進する時、止まる時にGがかかる。その時、キレイで同じ大きさのものだけを積んでいると崩れやすい。いびつなものがあったほうが崩れにくい。それはなんとかして崩さないように積む工夫をするからなんですね。キレイな箱だと積む工夫をしなくなるから、いろんな形があったほうがいいんですよ。

富田:なるほど。

吉永:今の社会は個性と言いながら結局は他者を許さない。別に誰もを認める必要はないけど、叩くことはない、許すっていうことが必要。

富田:ゲッツ板谷さんとトークした時も、作家の道に進んだきっかけが西原理恵子さんに「あんたはなんか書けばいいのよ」と言われたことなんですって。その当時、板谷さんは何も書いたことなんかなかったのに、西原さんが出版社の担当者に「この人は既にいろんなものを書いてきていて、かなり書けるのよ」って大嘘をついたと。それで連載が決まってしまったんですって(笑)。当の板谷さんは「何言ってんだこいつ!」と慌てていたと。なんというか、そういう大らかさ。今の世の中、何事も四角四面にやろうとする。映画を撮る時もきっちり役割分担しようとしたり。僕らはそういうのがイヤで、なんでもやればいいじゃないって思うんです。

僕らの青春時代(’72生まれ)は、ワルで学校ドロップアウトしても、勉強出来なくても、最後は土方をやればいいんだからって時代でした。その最後の砦みたいに思ってた、そういう受け皿もなくなっていこうとしている。かつては社会に必ず理解者たちがいた。そういう人の存在があまりにもわかりづらくなってしまっているんじゃないかと思うんです。吉永さんの写真は、社会にはこれだけ多様な人がいるんだってことを訴えかけてくる。

吉永:学校の先生は僕らに何も教えてくれないけれど、例えば僕が写真を撮ってきた暴走族の集団では、先輩が後輩に教えるんです。僕らを守ろうとしているから厳しいんですね。でも今はたぶんそういう接触が薄くなっている。
人は何かに属して、そこで忠誠を尽くすじゃないけれど、一生懸命やるっていう、その行為を見てくれればいいだけの話であって、自分が理解できないから排除しようとする。暴走族にひどいことされたの?って聞くと、たいてい、されてない。ただうるさいからっていうくらいで、排除しようとするんです。

富田:
漠然とした恐怖感ですよね。『サウダーヂ』でも問題があったんですよ。出演者のブラジル人が駐車場を借りに行ったら、いきなり「車上荒らしがあった」という話をして貸し渋るんです。明らかに偏見で見ているんです。

富田監督、吉永さんの海外体験が語られ、富田監督がロカルノ映画祭に行った時、会場の芝生に寝転んで叱られたという話などが語られました。

富田:すごい顔して「起きろ」って。うわー、この国こえー。二度と来ねーって(笑)。しかも、マクドナルドのビッグマック1800円…。

ここまでで1時間44分! 濃密なトークにお客さんも酸欠状態!? 一旦休憩です。

山本政志監督登場! さらに熱を帯びるトーク

休憩明けはまず、富田監督が所属する空族で制作された映画の紹介。
そこへ突如、山本政志監督が参加しました。『スリー★ポイント』が公開中の山本監督はインデペンデント映画の雄です。『RAP IN TONDO』を撮りにマニラに行った時に突然山本政志監督から電話がかかってきた、という話からはじまって、またしても過激な話題に。

山本:富田が吉永としゃべりたいっていうのは嬉しいもんな。やっぱりおまえは頭が恵まれてないって思う(笑)。

吉永:自主映画はどうやってやるんですか? 自分で製作費をつくって映画館にもっていく?

富田:そうです。しかも僕らは自主配給もします。映画館と交渉してかけてもらう。そういう意味では大先輩がいますので(山本を見て)聞きたかったんです。僕は田舎に住んでいたから山本さんの作品を劇場では見ることができなくてビデオレンタルで観たんです。『闇のカーニバル』(83)などを。映画ってこんなにむちゃくちゃなことやっていいのか!?って、とにかく衝撃でしたね。

山本:最初はサラ金で借りた(会場爆笑)。2本目は高校の時に世話になった先輩から出世払いで百万円くらい借りて。その映画が評判が良かったので3本目はプロデューサーがやらないかって言ってくれた。それが『闇のカーニバル』。その次の『ロビンソンの庭』(87)は手こずって、ある会社に営業にいったら、自分の会社を作ったほうがいいと言われて、その会社の出資で作った。先方は自分の会社の仕事をやらせようとしたけれど、やらないで、JAGATARAのアルバムを出したりイベントやったりしてた(笑)。そうしているうちに、祖母さんが死んでえらい遺産が入ってきて、それでそのお金を映画に出してもらった。

富田:映画館まで作ってませんでしたっけ?

山本:『てなもんやコネクション』(90)の時Club Asiaの前に半年間くらい。

富田:究極じゃないですか。自分たちで映画館まで作るなんて。

山本: 変わったことがしたかったんだよ。

山本監督の偉業が次々語られます。富田監督と吉永さんと観客は圧倒されっぱなしです。といっても山本監督のお話は富田監督や若い世代へのエールという感じがしました。

どこに自分が立って何を見るか

山本:そういうこといろいろやらないとダメだって。

富田:不景気故の映画業界の閉塞などなど言われてますけど、なんかこう、そもそも作り手自体に太っ腹さみたいのが感じられなくなってしまいましたよね。とにかく山本さんのその太っ腹さは…。

山本:今、みんな神経質過ぎるよ。

富田:この間、荒井(晴彦)さんに映画学校の授業の話を聞いたんですけど、教えるわけじゃないですか、まあ確かに荒井さんは口悪いけど、後でひとりの生徒が「荒井晴彦っていう人にいじめられた」って交番に駆け込んだんですって(爆笑)。

山本:なんかありえないな。

富田:とにかく、僕らが観て来たいい映画って太っ腹ですよ。そんでそういうの作ってきた人達って、へんなおじさんばかりじゃないですか(笑)。

山本:おれらの稼業を市民と同じにしてほしくない。おれら芸人みたいなものだから。だって普通なのに入場料もらったら申し訳ないじゃない。人ができないものをやってるんだから。それがおまえ、勤勉に朝から働いて「ほんと、あの人いい人ですね」って言われる人間が映画を作っているなんておかしいだろう? 俺が映画始めた時は、先輩に深作欣二さん大島渚さんがいて。そして若松孝二さんと……サファリパークみたいなものなんだよ(笑)。救われたなあ、わけのわからないことがいっぱいあった。

吉永:いろんな感覚があって、ちょっとくらい無茶しても、ものを作ることには真剣だったら、許される。そういうことなんじゃないかな。ところで、もうひとつ聞きたかったのは、自主映画って、今はデジタルですか? かつて山本さんはフィルムでやっていたでしょう。写真もデジタルになって様変わりしてしまったんですけど、そういうのってどうですか?

富田:こじんまりしてしまったのはそういうところもあるかなと思うんですけど、そもそも人間が縮こまってしまっている気がして。山本さんなら、フィルムだろうがデジタルだろうが行くとこに行くでしょう。作る側の意識というものが大きく変化してしまったような気はしますね。

山本:日本だけだよ、こういう小さい世界しか作らないの。日常がね、毒に対して耐性がなさ過ぎるよ。アメリカだってシステムはでかいけど、アウトローやひどいやつをエンタメの主人公として描いている。日本はなくなっちゃったよねえ。

山本監督が最近人気の映画にダメ出しをしました。いやもう、本当に、文字にはできないことが多くて……。だからこそおもしろいのですが。

吉永:僕らの時代はフィルムだから、一枚で終らせるために、この一枚をどう撮るってことを考えるんです。

富田:思いをこめるってことですね。

吉永:煙草一本撮る時に、自分にとって、これが煙草っていうのを撮ればいいのに。デジタルだと全方向から抑えようとするんです。

山本:手探りで考えていって、腹をくくった時にはじめてつかむものってあるじゃん。今、その行程を省くんだよね。

富田:思い切りとかね。考えて考えて、えいや!っていう感覚がない。最近、若い人の作品を見る機会が増えたんですが、技術なんか僕らなんかよりずっとうまいと思うんだけど、さらっとしてて流れちゃう、残らないんです。しかし、フィルムの感覚っていうんですかね、そういうのが体感として沁みこんでいるかどうかって言うのはありますよね。なんか違いますよね。

山本:全然違う。フィルムを経験してる編集マンのほうが信頼できる。デジタルしかやってない人は、3コマの違いでまるっきり違うことがわからないんだよなあ。

富田:ペドロ・コスタの『あなたの微笑みはどこに隠れたの?』(01)っていう、ストローブ・ユイレ夫妻が編集について延々話しているってだけの映画なんですが、これが凄くて、「この一コマの違いについて君に説明するのに100年まではいかないが、80年はかかるね」とか言ってるんですよ。

山本:それはめんどくさくない? やだよ、そんな編集マン(爆笑)。

富田:そういう豊かさもあるってことなんですけど(笑)。

山本:どこに立って何をみようとするか、それがおざなりなんだよ。それができてからはじめて技術を考えていくものなのに。

「ちゃんとしてる」人たちのお話だなあ、と聞き入ってしまいました。映画や写真に対してはこんなにもマジメなのに、生活に関しては、眉を潜める人もいそうな体験をしていらっしゃるお三方。マジメから不真面目まであらゆるものを自分の中に抱えて、そういう自分に責任とりながら生きている。かっこいい!
トークはこの後も続きましたが、取材はここで終わりです。

▼『COFFEE&EAT IN toki』
住所 東京都杉並区西荻北3-18-10 2F
営業時間 平日18:00~24:00(L.O23:30)  土日祝 15:00~24:00(L.O23:30)
定休日 火曜日
※これから催されるイベント情報などはお店のホームページをチェックして!

吉永マサユキさん情報
写真集『SENTO』11月18日発売
今から20年ほど前、吉永マサユキが写真家となるきっかけとなった初期作品『SENTO』。
その内容から、日本では発売が困難でしたが、このたび海外販売用に限定1000部を製作。表装には手拭いを使用。全5種類の装丁から選べるようになっている。
取り扱いは個展会場および極一部の書店にて。

 

 

◯吉永マサユキ写真展
大阪ビジュアルアーツギャラリー
2011年11月18日(金)〜12 月16日(金)10:00〜19:00(最終日は15:00まで)日祝休み
住所:大阪市北区曽根崎新地2−5−23
詳しくはこちら

◯写真展『SENTO』GALLERY SHUHARI
2011年12月6日(火)〜12月26日(月)12:00〜20:00(最終日も20:00まで) 月曜休み(ただし26日は開廊)
入場料500円
住所:新宿区四谷3-13 大高ビル3F
詳しくはこちら

◯写真展『カタログ 45』
Place M
2011年12月19日(月)〜12月26日(月)
住所:新宿区新宿1-2-11 近代ビル3F
山本政志監督情報
◯2012年1月 『リムジンドライブ』DVD発売。
◯現在、新作『水のような女(仮題)』準備中
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取材・編集・文:木俣冬

  • 2015年11月15日更新

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