12月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2025年12月01日更新
12月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
| LINE UP 12/5(金)公開『手に魂を込め、歩いてみれば』 12/5(金)公開『ペンギン・レッスン』 12/13(土)公開『Good Luck』 12/19(金)公開『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』 12/19(金)公開『チャップリン』 12/26(金)公開『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』 12/26(金)公開『白の花実』 |
『手に魂を込め、歩いてみれば』
ガザの惨状を捉え続ける若い写真家とのビデオ通話
イスラエルの攻撃が続くガザ地区で写真を撮り続ける24歳のパレスチナ人フォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナに、イラン出身のセピデ・ファルシ監督がスマートフォンを通じて交信した映像記録。2025年のカンヌ国際映画祭ACID(インディペンデント映画普及協会)部門で上映され、大きな反響を呼んだ。ファルシ監督からのビデオ通話に、拙い英語で笑顔を絶やさずに応答するファトマは、だが祖母をはじめ多くの親戚や友人を失っていた。通話の頻度も徐々に少なくなり、電波の状況も悪化の一途をたどるが、それでもファトマは町の惨状や将来の夢などを精いっぱいの言葉で届けようとする。映画には、そんなファトマが命懸けで撮影した写真とともに、使命感からガザに残り続ける彼女の平和への思いが刻み込まれている。カンヌへの出品が決まり、ファルシ監督から「一緒に行こう」と呼びかけられて喜ぶファトマの生前最後の姿が脳裏から離れない。(藤井克郎)
2025年12月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/フランス、パレスチナ、イラン/113分)原題:Put Your Soul on Your Hand and Walk 監督:セピデ・ファルシ 登場人物:セピデ・ファルシ、ファトマ・ハッスーナ 配給:ユナイテッドピープル ©Sepideh Farsi Reves d’Eau Productions
『ペンギン・レッスン』
人生を諦めた男に小さな生き物が運ぶ希望
『フル・モンティ』のピーター・カッタネオ監督が、実話をもとにしたベストセラーを映画化。1976年、軍事政権下のアルゼンチン。人生を諦めていた英国人教師トムは、旅先で重油にまみれた瀕死のペンギンを発見し、思いがけず救うことに。この小さなペンギンになつかれてしまったトムは仕方なく自分の部屋に連れて帰るが、一風変わった同居生活は、周囲を巻き込みながら彼に人生の意味と希望を与えていく。短い足でよちよち歩く仕草が愛らしいペンギンの大半のシーンで本物が使われているが、撮影隊は予測不能な動きに苦労したという。その甲斐あって、俳優との間に生まれる偶然のリアリティが絶妙だ。権力に立ち向かう勇気を持てない主人公の自責の念や社会の閉塞感を描く一方、ユーモアもたっぷり挿入された硬軟合わせ持つ作品。自分ではコントロールできない厳しい状況下で見出された喜びは一際輝いて見える。(吉永くま)
2025年12月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/スペイン、イギリス/112分)原題:THE PENGUIN LESSONS 監督:ピーター・カッタネオ 出演:スティーヴ・クーガン、ヴィヴィアン・エル・ジャバー、ビョルン・グスタフソン ほか 配給:ロングライド ©2024 NOSTROMO PRODUCTION STUDIOS S.L; NOSTROMO PICTURES CANARIAS S.L; PENGUIN LESSONS, LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
『Good Luck』
主体性のない映画監督がたどるゆるゆるな旅
脚本家としても話題作を次々と手がける『喜劇 愛妻物語』などの足立紳監督が、自らの分身とも言える映画青年を主人公に、何ともゆるゆるで怪しげなロードムービーを作り上げた。自称映画監督の太郎は、自作が入選した映画祭に参加するために大分県別府市に向かう。だが上映後のトークで酷評され、意気消沈したまま豊後大野に足を延ばした太郎は、別府の映画祭で監督作を見たという若い女性の未希と出会う。ちょっとエキセントリックな彼女に戸惑いを覚えながらも、一緒に旅をすることになる太郎だが……。主体性のない太郎は、自由奔放な未希の振る舞いに最初は引いていたものの、なぜか次第に引かれていく。引くと引かれるの紙一重の関係性が、また実にゆるゆるな描写で紡がれ、見る側も戸惑いを隠せない。どころか足立監督自身も大いに戸惑っているふうの演出もあって、遊び心満載の映画の旅をゆるゆると堪能した。(藤井克郎)
2025年12月13日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/104分) 監督・脚本:足立紳 出演:佐野弘樹、天野はな、加藤紗希 ほか 配給:MAP © 2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)
『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』
事故現場に遭遇した彼女が選択する3つの結末
スイスの山あいの小さな町で裁縫の店を開いているバーバラは、年配の常連客、グレースの結婚式の準備に遅刻した上に、大切なボタンを紛失してしまう。ボタンを取りに急いで店に戻る途中、バーバラは道路に血まみれで横たわる男2人に拳銃と大金の入ったトランクが落ちているのを目にするが……。これが長編第1作となるアメリカ出身の新鋭、フレディ・マクドナルド監督は、この事故現場で3つの選択を観客側に提示する。完全犯罪に仕立てるか、警察に通報するか、見て見ぬふりをするか。それぞれを選んだバーバラがどのような結末を迎えるかという構成も奇抜なら、彼女が針と糸を駆使して紡ぎ出す多彩な仕掛けにも目を見張らされる。細かい針仕事の接写とアルプスの雄大な遠景との対比も見事で、はらはらどきどきの展開に拍車をかける。マクドナルド監督がこの長編の基となる同名の短編を制作したときは19歳だったそうで、何とも末恐ろしい監督が現れたものだ。(藤井克郎)
2025年12月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アメリカ、スイス/100分)原題:Sew Torn 監督・脚本:フレディ・マクドナルド 出演:イヴ・コノリー、カルム・ワーシー、ジョン・リンチ ほか 配給:シンカ © Sew Torn, LLC
『チャップリン』
孫娘が解き明かす希代の映画スターの出自と作品
誰もが知っている希代のスター、チャーリー・チャップリンをモチーフにしたドキュメンタリーで、孫娘に当たる俳優のカルメン・チャップリンが初の長編監督を務めた。ロンドンで芸人夫婦の元に生まれたチャーリーは、両親の離婚や母親ハンナの病気などで極貧の幼少期を過ごした。そのハンナは放浪民族のロマの出身だったが、晩年まで明かすことはなかったという。カルメン監督は、父親の作家、マイケル・チャップリンをはじめ、伯母、叔母、叔父ら親族に加え、ロマを題材にした作品で知られるトニー・ガトリフ監督やエミール・クストリッツァ監督ら多彩な人々にインタビュー。チャーリー本人はロマの血を引いていることを誇りに思っていたことなど、出自と作品の関連性、トレードマークだった山高帽にちょび髭のキャラクターに隠された意味などを解き明かす。『キッド』や『独裁者』など、ふんだんに登場するチャップリン映画の断片を用いた謎解きも興味深い。(藤井克郎)
2025年12月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/スペイン、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、イギリス、フランス/90分)原題:CHAPLIN SPIRIT OF THE TRAMP 監督・脚本:カルメン・チャップリン 出演:マイケル・チャップリン、ジェラルディン・チャップリン、ジョニー・デップ ほか 配給:アンプラグド ©The Caravan Trail, A.I.E, Kwanon Films Limited, and Submarine Sublime 2024
Charlie Chaplin™ © Bubbles Incorporated SA
『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』
障害者のサマーキャンプに紛れ込んで大騒動
宝石店に押し入ったパウロとその父親の2人組は、障害者スペースに駐車していた逃走用の車が移動されてしまい、途方に暮れていた。ちょうど知的障害者のサマーキャンプに出発するバスが待機中で、新しい入所者とその介助者に間違われた2人は、一緒にバスに乗り込んで身を隠すが……。障害者を装ったパウロが他の仲間や引率の職員らと繰り広げるどたばたを描いたコメディーで、パウロを演じるフランスで人気の喜劇役者、アルテュスが初監督に挑んだ。実際に障害のある俳優たちの演技は一人一人個性にあふれ、自然なやり取りには目を見張る一方、果たして笑っていいものかどうか悩ましい。中でもパウロが障害者に成りすますコツを教わる場面など、ここまで笑いのネタにするのかと驚くが、作品を通して見ると、思い込みやタブーこそが差別や偏見を助長させるということを伝えようとしていることが分かる。改めてフランスの人権意識の高さに舌を巻いた。(藤井克郎)
2025年12月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/フランス/100分)原題:Un P’tit Truc en Plus 英題:A Little Something Extra 監督・脚本:アルテュス 出演:アルテュス、クロヴィス・コルニアック、アリス・べライディ ほか 配給:東和ピクチャーズ © 2024 CINE NOMINE – M6 FILMS – AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINEMA – SAME PLAYER – KABO FILMS – ECHO STUDIO – BNP PARIBAS PICTURES – IMPACT FILM
『白の花実』
自分はどう生きるのかを問いかける少女たち
周囲になじめず転校を繰り返してきた杏菜は、母親に無理やり入れられたキリスト教の寄宿学校でも孤立していた。学校行事のダンスの発表会が近づく中、踊りの上手な優等生のルームメイト、莉花とは心を通わせるようになっていくが、そんなある日、莉花が屋上から飛び降りて命を絶つ。これが初長編となる坂本悠花里監督は、自分はどう生きるのかという思春期ならではの悩みをテーマに、悩みを抱えきれなかった莉花、その思いを受け止めることになった杏菜、莉花の思いに気づけなかった親友の栞という3人の少女に投影して詩的につづる。音楽を伴わないダンス、見えそうで見えない魂など、みずみずしい感性に裏打ちされた表現が鮮烈で、大人になってうまく折り合いがつくようになる前に何とか十代の心情を映像作品にしておきたいという坂本監督の意志がまぶしい。友人同士だけでなく教師や親との関係性もきちんと押さえていて、深みのある青春映画に仕上がっている。(藤井克郎)
2025年12月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/110分)英題:White Flowers and Fruits 監督・脚本・編集:坂本悠花里 出演:美絽、池端杏慈、蒼戸虹子 ほか 配給:ビターズ・エンド ©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO
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