映画の核となる部分は「自分の運命と尊厳をコントロールしようと奮闘する」という考え―『ジャンプ、ダーリン』フィル・コンネル監督インタビュー解禁!

  • 2024年01月15日更新

カナダの片田舎で暮らす祖母と、久しぶりに祖母に会いにきた孫との関係をクィア・カルチャーの中に描き、海外のLGBTQ+映画祭で多数の受賞とノミネートを獲得した話題作『ジャンプ、ダーリン』(2024年1月19日より全国順次公開)のフィル・コンネル監督のインタビューが届いた。


映画の核となる部分は「自分の運命と尊厳をコントロールしようと奮闘する」という考え

― 今作のテーマや伝えたいメッセージについて教えてください。

映画『ジャンプ、ダーリン』フィル・コンネル監督(以下、コンネル監督):この映画の核となる部分は、「自分の運命と尊厳をコントロールしようと奮闘する」という考えです。ラッセルとマーガレットのキャラクターはどちらも、人生のあらゆる場面で、全く異なるステージにおいて、闘っています。多くの家族と同じように、言葉にはできない深い愛と尊敬を持ちながら闘っているのです。

― この映画はご自身の経験をもとにされているとお聞きしました。脚本執筆中に苦労された点、困難に感じた点はありましたか?

映画『ジャンプ、ダーリン』コンネル監督:これは自伝的な作品ではないですが、亡き祖母との「エンド・オブ・ライフケア」についての会話や、アーティストとしての人生を選択しようともがいた自身の経験から着想を得ています。脚本は何度も書き直し、一から作り直した部分もあります。最初の草稿は、完成した映画からは想像がつかないと思います。私の経験不足が主な原因ですが、ラッセルの葛藤を理解するために、私自身の内面をどれだけ掘り起こす必要があったのかを表しているのだと思います。

― 主演にトーマス・デュプレシさんを選んだ経緯・理由をお聞かせください。

映画『ジャンプ、ダーリン』コンネル監督:演技力があり、一流のドラァグを演じられる多才な人材が必要だったので、公募にしました。最初の募集には60 本以上のテープが集まりました。その中にトーマスがいて、私たちはすぐに彼に魅了されたのです。シーンを完璧にこなしていて、自分のものにしていました。軽々とね。そして彼のドラァグパフォーマンスは正確で、愛らしく、生々しかった。私たちが見た中で、要求される演技の全領域をこなせる人はほとんどいませんでした。トーマスには気の毒ですが(そしてキャスティング・ディレクターにとっても)、ビギナーズ・ラックのようにも感じられたので、私たちはトーマスにこの役をオファーする前に、何週間か他のテープを見続けていました。彼は私たちにとても辛抱強く接してくれたので、非常に感謝しています。

クロリスはいたずら好きで、とても楽しい人。トーマスは新人ながら最高のプロフェッショナル。

― トーマス・デュプレシさん、クロリス・リーチマンさんと一緒に映画を制作してみていかがでしたか? 撮影前にはどんなお話をしましたか?

映画『ジャンプ、ダーリン』ンネル監督:マーガレット役にはスターを起用し、ラッセル役ではスターを発掘したいと思っており、実際にそうしました。93 歳のハリウッドのレジェンドが、私たちのちっぽけなセットを歩き回ってくれたことで、私たちのやっていることに説得力を与えてくれただけでなく、勉強もさせてくれました。あの年齢の人が、映画の主要な役を演じるということは、身体的に大変すごいことなのだと。そして、それを情熱と繊細さを持ちながら行うには、違う難しさがあります。クロリスは自分の仕事を心から大切にしていましたし、愛していました。また、とてもいたずら好きで、みなさんが期待している通りとても楽しい人でした。撮影前に話はしましたが、短時間でしたよ。彼女はFace Time(ビデオ通話)を好まなかったので。

映画『ジャンプ、ダーリン』トーマスに関しては、無名の新人でありながら、最高のプロフェッショナルであり、現場の誰もが毎日彼に畏敬の念を抱いていましたよ。クロリスとはすぐに意気投合し、全ての振り付けを自分でこなして、自信喪失しながらも進むべき道を見出そうようとするアーティストを作り上げていました。彼とは映画の撮影が終わってから付き合い始め、それ以来ずっと一緒にいるのですが、彼との関係性も映画にいい影響をもたらしたと思います。

― この映画は多くの魅力的な音楽であふれているように感じました。どのように選曲しましたか?

映画『ジャンプ、ダーリン』コンネル監督:『ジャンプ、ダーリン』の制作で最も大変だったのは、おそらく音楽でしょう。ドラァグクイーンの映画である以上、象徴的なアーティストによる認知度の高い曲が必要でした。そして、各シーンにおける物語の中で機能しなければならないだけでなく、映画のクィア・カルチャーの中に溶け込むものでなければならなかったのです。それも、限られた予算の中でライセンスを取得する必要がありました。さらに私たちは、クィアでカナダ人アーティストを起用したいと思っていました。トーマスは、ミュージック・スーパーバイザーであるクリスティン・レスリーのことを、愛情を込めそして的確に “魔法使い”と表現していましたね。チーム全員がこの映画のサウンドトラックをとても誇りに思っています。

それは魔法のようでした。本物の魔法です。

― お亡くなりになったクロリス・リーチマンさんとの思い出深いエピソードを教えてください。

映画『ジャンプ、ダーリン』映画『ジャンプ、ダーリン』コンネル監督:たくさんあります。下品なジョークが好きで、すぐ人に色目をつかって、バカ騒ぎすることが好きでしたよ(笑)。時折、他のお年寄りと同じように嫌味を言ったり、トーマスに豆を飛ばしたり、人にあだ名をつけたり(嬉しいものもあれば、そうでないものもあった)。しかし、最も思い出深くて印象的なことは、彼女の真摯に演技へ向き合う姿と表現者としての誇りです。実際のクロリスは小さな女性で、弱々しく物静かでした。空間への出入りや階段の昇り降りには、身体的なサポートが必要でした。娘のダイナは毎日、「どこがいいかな」と言いながら、彼女を車椅子に乗せて撮影現場に連れてきてくれていましたね。そこでは本当にか弱さを感じさせました。でも、「アクション」と声がかかると、立ち上がって、強さと揺るぎない信念に満ちた姿になるのです。そして必要なだけテイクをこなしていました。彼女は正確に演じようとしていました(たいていの場合、撮影に⾧く時間がかかることはありませんでした)。それは魔法のようでした。本物の魔法です。

予告編&作品概要

【STORY】俳優から転身し、ドラァグクイーンの世界へ足を踏み入れたラッセル。大切なショーの直前、⾧年付き合っていたボーイフレンドに「俳優業に戻ってほしい」と伝えられ、ラッセルは舞台から逃げ出し、同棲していた家を飛び出したのだった。無一文、帰る家もない彼は、祖母のマーガレットのもとに身を寄せる。再会を喜びながらも、彼は久しぶりに会った祖母の様子がどこか違うことに気づいていく。その一方で、マーガレットは自分の衰えを自覚しつつも、娘・エネから勧められる地元の老人ホームへの入居を拒み続けていた。ラッセルは祖母のためにも、しばらく生活を共にすることに。一緒に過ごす時間のなかで、2 人が辿り着いた道とは……。

映画『ジャンプ、ダーリン』ポスター画像▼『ジャンプ、ダーリン』
(2020 年/カナダ/シネスコ/5.1ch/90 分)
監督・脚本:フィル・コンネル
出演:トーマス・デュプレシ、クロリス・リーチマン、リンダ・キャッシュ、ジェイン・イーストウッド、タイノミ・バンクス ほか
字幕制作:TOKYO CALLING
配給:ライツキューブ
© Big Island Productions (2645850 Ontario Inc.) ALL RIGHTS RESERVED

『ジャンプ、ダーリン』公式サイト

※2024年1月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

  • 2024年01月15日更新

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