『淵に立つ』〜家族とは何かを問う、衝撃のヒューマンサスペンス〜
- 2016年10月08日更新
ある平穏な家庭が、一人の男が通り過ぎたことにより、凄まじく崩壊していく、衝撃のヒューマンサスペンス。家族を翻弄する男を演じるのは、浅野忠信。監督は、一作ごとに新たな切り口で人間の生き様を描く、深田晃司監督。第69回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞に輝いた問題作。10月8日(土)より、有楽町スバル座ほか全国ロードショー
©2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS
平穏だった家族の運命を狂わせる男
郊外で小さな金属加工工場を営む鈴岡家。大黒柱の利雄(古舘寛治)、クリスチャンの章江(筒井真理子)、オルガンを習っている10歳の娘・蛍(篠川桃音)は、地味ながら平穏に暮らしていた。ある日、工場に利雄の友人である八坂草太郎(浅野忠信)が現れると、利雄は章江に断りなく、八坂を住み込みの働き手として迎え入れてしまう。はじめは戸惑う章江だったが、八坂に「服役していた」と過去を懺悔しながら打ち明けられると、クリスチャンゆえに心が動き、八坂に好意的な関心をもつようになる。しかし八坂は、ある日突然、残酷な爪痕を残して姿を消した。それから8年、工場では、従業員の設楽(三浦貴大)が辞めるのと交代に新人の山上孝司(太賀)がやってくる。両親がいないうえに、人柄のいい孝司は、すぐに鈴岡家に受け入れられる。だが孝司とかかわることにより、利雄と章江は急速に、過去、そして自分の心の闇と対峙することになっていく……。
家族であるために必要な、犠牲と努力
まさにタイトル通り、淵に立って、家族をのぞき込まされるような作品だ。家族という形でいるために、多くの犠牲と努力が必要なのは、世の多くの人が感じていることだろう。本作はそんな、家族から受ける、あるいは家族に与えるかもしれない過酷な「負の面」を濃縮したような、破壊力に満ちた物語だ。しかし同時に、人間のやるせない愚かさ、たくましく生きることへの温かいまなざしも感じる。完全に真っ黒な悪意も悪人も、存在しないのかもしれない。ただ、それがむしろ、たちが悪いともいえるのだが……。
筒井真理子、太賀らが演じる8年後の人々
本作では、前半は幼い娘のいる鈴岡家、後半はその8年後の鈴岡家が描かれる。妻・章江は、幼い娘がいる若やいだ主婦からすっかり様変わりしている。それは時間や加齢だけではなく「事件」を背負った8年後の姿である。その変貌ぶりが、この物語の前半と後半をしっかりと結びつけている。章江を見事に演じたのは、舞台女優出身で、今や映像界へと活躍の場を広げている筒井真理子だ。その繊細かつ大胆な居住まいは、本作の見どころのひとつだろう。また、後半から登場する山上孝司を演じた太賀も素晴らしい。この物語に登場する、複雑に絡み合う罪と罰をつまびらかにしながら、他人の罪までも体の内側に詰め込んだような「沈鬱な青年の快活さ」を圧倒的な存在感で体現している。個々の俳優を表現者として尊重するという深田晃司監督。その鷹揚な器によって、俳優たちが力を存分に発揮しているのも、本作の魅力といえるだろう。
▼『淵に立つ』作品・公開情報
(2016年/日本・フランス/日本語/ヨーロピアン・ヴィスタ/DCP/119分)
監督・脚本・編集:
深田晃司(『歓待』『ほとりの朔子』『さようなら』)
出演:浅野忠信、筒井真理子、太賀、三浦貴大、篠川桃音、真広佳奈、古舘寛治 ほか
制作プロダクション:マウンテンゲートプロダクション
助成:文化庁文化芸術振興費補助金
配給:エレファントハウス、カルチャヴィル
●『淵に立つ』公式HP
10月8日(土)より、有楽町スバル座ほか全国ロードショー
©2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS
文:市川はるひ
- 2016年10月08日更新
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