『若葉のころ』-セピア色の初恋が、あの映画の名曲とともに色づき始める

  • 2016年05月28日更新

初恋の人から「会いたい」というメールが届いたら? そんな胸がときめく状況にひとひねり加えてみせるのは、これが長編初監督作となる台湾のジョウ・グータイ。『小さな恋のメロディ』の挿入歌でもあるビージーズの「若葉のころ」の旋律とともに、30年前の母親の初恋の思い出と、今を生きる娘の恋愛を交錯させながら描き出す。これまでMVを手掛けてきた監督の美しい映像とともに、甘く切ないストーリーは、一服の清涼剤のように爽やかな印象を残すだろう。

未送信メールを母の初恋の人のもとへ
台北の女子高生バイは、離婚した母と祖母と暮らす学校生活を楽しむ笑顔の可愛い女の子。ただ、最近親友のウエンと男友達のイエとの三角関係に悩んでいる。一方、バイの母のワンは、ある音楽会で17歳のときの初恋の人リンを見かけるが、彼は別の女性と一緒だった。

そんなある日、ワンが交通事故で意識不明に。悲しみに暮れ不安に苛まれるバイは、母のパソコンでリン宛の未送信メールを発見する。そこには自分と同じ年ごろだった母の彼への思いが綴られていた。母の青春時代の切ない思いを知ったバイは、母の名で「会いたい」というメールをリンに送る……。

母と娘をつなぐ17歳の“小さな恋”
『若葉のころ』サブ2いつも元気で明るいバイだが、実際の彼女の人生は穏やかではない。両親は離婚し、親友に気になる男の子を取られそうになる、さらに母親は交通事故で昏睡状態。主人公がそんな多くの悩みを抱える状況にあっても、清々しい余韻が残るのは、初恋という名のマジック、そしてバイと若き日のワンの2役を演じるルゥルゥ・チェンの透明感あふれる魅力が大きい。台湾版ドラマ「美男<イケメン>ですね」や「GTO」などの出演で注目された彼女。ここでは現代っ子の娘と青春時代のシャイな母親を、見事に演じ分けている。

それにしても、ワンが昏睡状態にならなければ、娘のバイは彼女のメールを送ることなく、初恋は思い出のままで終わっていた。ワンとリンの人生は交わることはなかったかもしれない。人生は時に皮肉で、時に想像もできないような展開になる。

現代の台湾、特に台北は日本の大都市と変わりないが、80年代前半の描写には“懐かしさ”よりも戸惑いを覚えてしまう。たとえば、直線に切りそろえたおかっぱと坊主頭の高校生。“聖子ちゃんカット”やゆるいウェーブが人気だった当時の日本の高校生とはだいぶ趣が異なる。これは、台湾で1987年まで40年近く敷かれていた戒厳令の影響だったのだろうか。台湾という国が辿った厳しい歴史が垣間見える気がする。

人生は未来に開かれる
『若葉のころ』サブ5原題は「五月一号」(5月1日)。5月は陽光に映える若葉が美しい季節だ。17歳は人の一生でいえば、まぎれもなく“若葉のころ”。友情や恋に傷つき、人生に悩んでも(母親のことは別にしても)、それがどんなに貴重なものか、そして美しいものなのか、今の年齢のバイには今は知る由もない。

一方、人生の盛夏を過ぎ、秋を迎えたリンとワンの世代にとって、ノスタルジーに浸り、17歳の頃を思い出すのは、疲れた現実世界から逃避できる魔法のようなもの。だが、ジョウ監督はただそれだけでは終わらせない。だれのものであっても、人生は過去のものではなく、未来に開かれていることを確信させてくれるのだ。

 

▼『若葉のころ』作品・公開情報
(台湾/2015年/中国語・台湾語/シネマスコープ/カラー/110分)
原題:五月一号
英題:FIRST OF MAY
製作総指揮:リャオ・チンソン
監督・原案:ジョウ・グータイ
脚本:ユアン・チュンチュン
出演:ルゥルゥ・チェン、リッチー・レン、シー・チー・ティエン、シャオ・ユーウェイ、アンダーソン・チェン、アリッサ・チア
提供・配給:アクセスエー、シネマハイブリッドジャパン
後援:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター
配給協力:ニチホランド
©South of the Road Production House

『若葉のころ』公式ウェブサイト

※5月28 日(土)より、シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次公開

文:吉永くま

  • 2016年05月28日更新

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