『カミーユ、恋はふたたび』-今の記憶を持ってタイムスリップしたら人生をやり直せる?
- 2015年10月31日更新
今年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で、1985年からデロリアンが到着した記念すべき未来の年。この作品は(2012年製作だが)、人生に失望した中年女性が逆に現代から1985年にタイムスリップし、亡くなった両親や友人、そして自分を捨てた夫に再会する物語だ。人生をやりなおす機会を得た彼女は、軌道修正できるのか。切ないながらも、彼女の今後の人生の幸せを予感させるファンタジーだ。時計屋の主人役ジャン=ピエール・レオーがさすがの存在感を示している。
中年の姿のまま1985年にタイムスリップ!
25年も一緒に過ごした夫に浮気され、離婚を言い渡されたカミーユ。彼女を慰めてくれるのは猫とお酒だけ。娘はすでに独立している。人生に失望した彼女は友人の主催するパーティーで大はしゃぎするが、そこで酔っ払って転倒し、意識を失う。
目が覚めると中年女性の姿のままティーンだった時代にタイプスリップしていた! でも周囲には10代に見えているらしい。今は亡き両親や仲良しの友達と2度目の青春を楽しむが、やがて夫となるエリックが現れ彼女は動揺する。
亡くなった両親との再会シーンは涙もの
“ロックバルーンは99”をカセットテープで聞きながら、80年代のちょっと恥ずかしいファッションに身を包む。懐かしい時代に戸惑いながらも順応していく不惑を過ぎたおばさんは、とても複雑な生き物だ。四半世紀後に傷つきたくないために、高校生のエリックを避け続ける姿は繊細そのもの。だが一方で、未経験の男の子を大胆にベッドに誘い、当然のように主導権を握り恐れられてしまう。カミーユを演じるのは監督・脚本も担当したノエミ・ルヴォウキー。10代と40代の自分がひとつの身体に同居するという、一見滑稽な役柄を自然体で演じている。
それにしても、もう2度と会えない両親と束の間の幸せな時を過ごす描写。大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(’88)にも似たようなシーンがあったが、(良い意味で)反則技だろう。涙腺が崩壊するのは必至。
「あのときやり直せたら」という夢が現実になっても
だれでも一度は「あの日違う選択をしていたら」と考えたことがあるだろう。何の保証もないのに、別の人生では幸せになれると思い込んでいるのだ。ただ、「失ったものにすがりつくから心がすり減る」ことを学ばなければ、何度人生を生きても不毛な状況は繰り返されてしまう。
カミーユは10代の頃の人生を2度生きて自分を見つめ直すが、そこで得たものはかなり大きい。そして、彼女の時間旅行を通して、私たちも自分自身の過去に向き合える。そんな贈り物もまたうれしい。
▼『カミーユ、恋はふたたび』作品・公開情報
原題 Camille Redouble
2012年/118分/DCP/カラー/フランス
監督・脚本:ノエミ・ルヴォウスキー
出演:ノエミ・ルヴォウスキー、サミール・ゲスミ、ジュディット・シュムラ、ヨランド・モロー、マチュー・アマルリック、ジャン=ピエール・レオー
公式サイト:camille-futatabi.com
配給:ノーム
© 2012 F comme Film, Ciné@, Gaumont, France 2 Cinéma
10月31日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
文:吉永くま
- 2015年10月31日更新
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