『ぼくらの家路』―大人になるしかなかった10歳の少年は、旅の果てに何を悟ったのか

  • 2015年09月19日更新

子どもの目線を通して描く、身近に起こりうる“ネグレスト”

突然消えた母親を捜して、ベルリンの街をさまよい歩く10歳と6歳の兄弟。お金も食べ物も眠るところもなく、頼る大人もいない。たった二人、寄り添い合って懸命に過ごした3日間の旅の果てに、兄のジャックが下した切な過ぎる決断とは――?

子どもへの愛情をもちながらも、自分の恋愛や遊びを優先させてしまう若いシングルマザー。そんな母親の温もりを一心に求める子どもたち。社会派の巨匠と称されるケン・ローチやダルデンヌ兄弟を彷彿させると絶賛された本作は、幼い子どもが母親に向ける無条件の愛情をシンプルに描きながら、親の未熟さゆえの無自覚な虐待や身近に起こりうるネグレストを、子どもの目線を通してリアルに見つめる。
第64回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された本作。監督を務めるのは、ドイツ出身のエドワード・ベルガー。女優でもあるネル・ミュラー=ストフェンと共に脚本を手掛け、ヨーロッパ各国の映画祭で観客賞や審査賞を受賞したほか、権威あるドイツ映画賞では作品賞、監督賞、脚本賞にノミネート。見事、作品賞銀賞に輝いた。

10歳と6歳の兄弟が消えた母親を探してベルリンの街を旅する3日間

ジャック(イヴォ・ピッツカー)は10歳。若くて優しいママ(ルイーズ・ヘイヤー)が大好きだけれど、ママは恋人との時間や夜遊びに忙しい。だから、6歳になる弟のマヌエル(ゲオルグ・アームズ)の世話はジャックの仕事。食事の用意にお風呂、着替えと毎日が大忙しだ。しかし、ある事件をきっかけにジャックは施設に預けられることになる。

施設になじめず、孤独を募らせるジャック。夏休みの一時帰宅だけを心待ちにしていたものの、ママから迎えに行く日が遅れると電話が入る。落胆したジャックは施設を飛び出し、夜通し歩き続けて家に着く。しかし、家のカギは閉まったまま。ママの携帯電話は留守番メッセージばかり。ジャックは預け先までマヌエルを迎えに行き、二人はママを捜してベルリン中を駆け回る。仕事場、妖しげなナイトクラブ、昔の恋人の職場…危ない思いをしながらも、マヌエルを必死で守ろうとするジャック。小さな肩を寄せ合う幼い兄弟は、再びママに会えるのか……?

主人公ジャック役のイヴォ・ピッツカーの演技に絶賛の嵐!

作品への賞賛と共に各国の映画祭で絶賛され「彼を観るための映画」とまで言わせしめたのが、ジャック役を務めたイヴォ・ピッツカー君の演技。オーディションで数百人の中から選ばれたというのは納得だが、本作が俳優デビューというから驚嘆せずにいられない。大人になりきれない母親と小さな弟のために、大人になるしかなかった10歳の少年。孤独を押し殺して健気に振る舞う姿に、何度も何度も胸を締め付けられる。マヌエル役のゲオルグ・アームズ君の無邪気な姿(特に寝姿)もたまらなくかわいらしい。スクリーン越しに二人を見守り続けた観客にとって、ジャックが最後に下した決断にはさまざまな思いがよぎるだろう。ジャックの真意を知ることはできない。しかし、大人になるしかなかった少年が、初めて自らの意思で大人になることを決めた瞬間に、彼らの幸福な未来を願わずにはいられない。

 

▼『ぼくらの家路』作品・公開情報
(2013年/ドイツ/103分/PG12)
原題:JACK
監督:エドワード・ベルガー
脚本:エドワード・ベルガー、ネル・ ミュラー=ストフェン
出演:イヴォ・ピッツカー、ゲオルグ・アームズ、ルイーズ・ヘイヤー、ネル・ ミュラー=ストフェン、ヴィンセント・レデツキ、ヤコブ・マッチェンツほか
配給:ショウゲート
コピーライト: © PORT-AU-PRINCE Film & Kultur Produktion GmbH

『ぼくらの家路』公式サイト

※9月19日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

文:min

  • 2015年09月19日更新

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