『ブルー・リベンジ』〜ストイックな復讐心が疾走する。ムダのない緻密な描写に心奪われるバイオレンスムービー〜
- 2015年02月14日更新
両親の命を奪われた「おとなしい男」が“復讐”という暴力に手を染め、深みにはまっていく。その行動と心理状態を、緻密かつムダのない、贅肉を削ぎ落したような乾いたカメラワークで映し出す。そのストイックさは、主人公の青年ドワイトの孤独な人間像を際立たせ、作品そのものを高みへと押し上げた。息づかいと視線で静かに殺意を高ぶらせてゆく主人公の心理が、観るものの胸に迫り、突き刺さる。2013年カンヌ国際映画祭で大きな注目を集めた、傑作インディペンデント作品だ。
2月14日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
© 2013 by Scavenger, LLC. All Rights Reserved.
復讐だけが生きる理由。家族を殺され、うつろなホームレスとなった男を怒りで蘇らせた、衝撃の知らせ。
ビーチの傍らに止めたボロボロの青いセダンで、ひっそりと暮らすホームレスの男、ドワイト(メイコン・ブレア)。ある日セダンの窓をノックされ、ドワイトは警察に呼び出される。そして「あなたの両親を殺害した犯人が釈放された」と告げられる。刑期満了前に、司法取引が行われたのだ。ショックを受けたドワイトは、釈放された犯人の元に向かい、犯人が家族に迎えられる姿を目撃してしまう。その光景は、何もかも失ったドワイトを衝動的な行動へと駆り立てる。そして激しい復讐劇が幕を開ける……。
おとなしく善良だった男が、戸惑いながら変貌してゆく姿に引き込まる。
おとなしい男が怒りを引き金に凶暴に変貌していく、ストイックな復讐劇というとダスティン・ホフマン主演『わらの犬』(1972年公開、サム・ペキンパー監督)を思い出すかたも多いだろう。もともと暴力とは縁のなかった主人公が、復讐のため変貌して行くという共通点はあるものの、本作の主人公ドワイトは、我慢を重ねた末に限界に達した『わらの犬』の主人公よりもかなり衝動的だ。意志の力ではなく、コントロールできない自分に翻弄されるやや頼りない男として描かれている。しかしそれゆえに観ている者は、一線を越えたドワイトに感情移入してしまう。両親を殺害されて以来、世捨て人として無気力に生きてきたドワイト。子どもたちという、守るべき存在を抱えている姉からも距離を置き、孤立無援。やがて偶然も手伝い、ドワイトは避けがたい運命に捕らえられてゆく。武器を手にしたドワイトは単身、命の取り合いのような争いへと突き進んでゆく。一方の犯人の家族はある秘密をかかえ、固く結束しているのだが、その怪しく歪んだ団結心が、彼らの不気味さを際立たせている。
控えめかつエモーショナルな演技を託された主演俳優メイコン・ブレア。
ジェレミー・ソルニエ監督は、本作で自身の才能をフルに活かし、静寂を緊迫に変える力強い作品作りを果たした。ソルニエ監督の演出に見事に応えたドワイト役の俳優は、メイコン・ブレア。監督曰く「最も献身な俳優」だという。メイコン・ブレアはソルニエ監督とは旧知の友、バージニア州生まれの幼なじみ。本作に至るまでに、あらゆる映像プロジェクトを共に手がけてきた。本作の危険できつい撮影にも耐え、ソルニエ監督の求めるエモーショナルな表現や演技を深く理解したという。本作を機に、ソルニエ監督は自分の実力だけでなく、親友メイコン・ブレアという俳優の魅力も世間に知らしめた。インディペンデント作品からの二つの才能。今後の活躍にも注目していきたい。
▼『ブルー・リベンジ』作品・公開情報
2013年 / アメリカ・フランス / 英語 / カラー / DCP / 91分 /
原題:Blue Ruin
配給:トランスフォーマー
監督・脚本・撮影:ジェレミー・ソルニエ(『MURDER PARTY』)
製作:リチャード・ピート、ヴィンセント・サヴィーノ、アニシュ・サヴィアーニ
出演:メイコン・ブレア、デヴィン・ラトレイ、エイミー・ハーグリーヴス、ケヴィン・コラック、
イヴ・プラム、デヴィッド・W・トンプソン ほか
●『ブルー・リベンジ』公式サイト
2月14日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
© 2013 by Scavenger, LLC. All Rights Reserved.
文:市川はるひ
- 2015年02月14日更新
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