『カルテット!人生のオペラハウス』-“旧スター”は再び輝ける舞台へ向かうのか? 名曲オペラで彩る、名優ダスティン・ホフマンの初監督作品
- 2013年04月19日更新
英国の美しい田園風景の中にひっそりと建つ<ビーチャム・ハウス>。そこは老音楽家たちが暮らす、音楽と笑いで満たされた明るく優雅な老人ホーム。この<ビーチャム・ハウス>の存続をかけ、“旧スター”である住人たちの、喜びと感動に満ちた大いなる挑戦が始まる…。はがゆい関係を抱えながら、かつてのカルテット共演者たちが迎える「クライマックス」とは…? 英国スターたちの円熟味あふれる軽妙な演技と、宝石のような音楽がいっぱいにちりばめられた、心温まる人生賛歌。脚本は『戦場のピアニスト』(アカデミー賞脚色賞受賞)のロナルド・ハーウッド。70代の英国の名優4人を主演に迎えたこの作品で、同じく70代にして“監督デビュー”したのは、アカデミー主演男優賞を二度も手にした米国の名優ダスティン・ホフマン。その監督としての手腕は、スクリーンでとくとごらんあれ。4月19日(金)より、 TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー。
華やかな世界に生きたオペラ歌手たちの、引退後の生活。その人間模様は…?!
引退した音楽家たちが暮らす<ビーチャム・ハウス>。テノールのレジー(トム・コートネイ)、メゾソプラノのシシー(ポーリーン・コリンズ)、バリトンのウィルフ(ビリー・コノリー)かつてカルテット仲間だった3人は、悠々自適な余生を送っている。物静かなレジーは近隣の学生たちに音楽を教えることに生き甲斐を感じ、ウィルフは孫ほど歳の女性スタッフを口説くことが日課。いつもCDプレイヤーでオペラを聴いている可愛らしいシシーには、認知症が始まっていた。そこへ新たな入居者として、カルテット最後の一人、ソプラノのジーン(マギー・スミス)がやってきた。名プリマドンナだったジーンは<ビーチャム・ハウス>の住人たちの大歓迎を受ける。しかしレジーは「わずか9時間だけの夫婦」だったジーンを、はじめはかたくなに拒絶する。やがてエゴイストだったはずのジーンがレジーを追いかけ、歩み寄ろうとするうち、二人の間に変化が現われる。一方、<ビーチャム・ハウス>の内情は火の車。予定されている「ヴェルディ生誕200年記念ガラコンサート」を成功させ、資金を調達できない限り、存続すら危うい状態だ。そこでコンサートの準備を仕切っていたセドリック(マイケル・ガンボン)は名案を思いつく。「英国オペラ界を代表した“旧4大スター”で、オペラの金字塔『リゴレット』のカルテットを演れば、観客が呼べる!」。『リゴレット』に思い入れの深いシシーは大喜び。しかし、ジーンはもはや人前で歌うことを封印、しがらみ深い『リゴレット』なんてとんでもない! と、出演を激しく拒否。はたして、英国オペラ史にその名を刻んだ4大“旧スター”のカルテットは復活できるのか。そして、<ビーチャム・ハウス>に奇跡は起きるのか…?
脇を固めるキャストに、本物の音楽家たちをキャスティング。珠玉の音楽が満載!
オープニングからスクリーンを彩るのは、オペラ『椿姫』より「乾杯の歌」の、誰もが知る軽快なメロディ。主人公4人の過去を結びつける重要なオペラ作品『リゴレット』もまた、今年、生誕200年を迎えるヴェルディの名オペラ。そのほか、プッチーニ、バッハ、シューベルト…と、クラシックの名曲の数々が登場する。メインの4大俳優を支える<ビーチャム・ハウス>の住人には、実際のオペラ歌手や楽器奏者など、偉大な音楽家たちがこれでもか、というほど豪華にキャスティングされている。本作で監督デビューしたダスティン・ホフマンは、若い頃ピアニストになる夢を持ち、音楽大学に入学した経歴もある。彼は俳優をミュージシャンに仕立てるのではなく、本物の音楽家をキャスティングすることにこだわった。プリマドンナであるジーンの因縁のライバル、アン役には、ソプラノ歌手のギネス・ジョーンズ。劇中で見せ場となる素晴らしいアリアを披露している。他にも、ヌアラ・ウィリス(メゾソプラノ)やジョン・ローンズリー(バリトン)といった名高いオペラ歌手など、音楽史にその名を轟かせるアーティストがキャストとして出演。ピアニストや、トランペット、オーボエ奏者などによる演奏シーンが全編を通して盛り込まれており、<ビーチャム・ハウス>としての臨場感を生んでいる。
人生のオペラハウス<ビーチャム・ハウス>は実在する?!
2013年は実際にヴェルディ生誕200年である。その記念コンサートが世界中で開催されているだろう。『リゴレット』の作曲家であるヴェルディが残したのは、数々のオペラだけではない。ヴェルディは音楽家のための終の棲家“音楽家のための憩いの家”の建設にも情熱を傾けた。それはまるで、この作品の舞台である<ビーチャム・ハウス>そのもの。そこにはかつて大舞台で活躍した音楽家が何十人も暮らし、今も音楽に向き合っているという。ピークを通り過ぎ現役を引退してもなお、人生の最後まで音楽を続けようとすれば、多くの苦しみや困難も伴うことだろう。そして大いなる喜びもあるだろう…。本作品はそんな実在するホームの人々を思い起こさせる。すでに高齢である実際の音楽家たちの演奏や歌唱も見どころであるこの作品は、どこまでもリアリティにあふれている。見方によっては、ドキュメント性を強く感じる喜びもあるだろう。
▼『カルテット!人生のオペラハウス』作品上映情報
イギリス/98分
監督:ダスティン・ホフマン
出演:マギー・スミス/トム・コートネイ/ビリー・コノリー/ポーリーン・コリンズ ほか
脚本:ロナルド・ハーウッド
製作者:フィノラ・ドワイヤー/スチュワート・マッキノン
音楽:ダリオ・マリアネッリ
配給会社:ギャガ
『カルテット!人生のオペラハウス』公式サイト
4月19日(金)より TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー
(C)Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012
文:市川はるひ
- 2013年04月19日更新
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