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『孤島の王』公開記念 知られざる北欧・ノルウェーの魅力 トークショー ― 渡辺芳子さんが語る「北欧映画の魅力」。
- 2012年07月19日更新
マリウス・ホルスト監督の『孤島の王』 ― ノルウェーの孤島に実在した少年矯正施設を舞台に、1915年に実際に起こった衝撃的な事件が題材になっているサスペンスです。スウェーデン出身の名優ステラン・スカルスガルドが、高圧的な院長を恐ろしさ満点に演じたことでも話題になっている本作は、全国で順次、絶賛公開中。2012年7月21日(土)からは、静岡シネギャラリー、愛媛のシネマルナティックで、8月18日(土)からは沖縄の桜坂劇場で公開されます。
東京のヒューマントラストシネマ有楽町で上映された際、「『孤島の王』公開記念 知られざる北欧・ノルウェーの魅力 トークショー」が開催されました。5月2日(水)におこなわれたトークショーでは、北欧映画専門家の渡辺芳子さん(上の写真)が、「北欧映画の魅力」について、たっぷりとお話を聴かせてくださいました。
― 渡辺さんはスザンネ・ビア監督の『未来を生きる君たちへ』の字幕も担当なさっていますが、北欧映画関連のお仕事をなさるようになった経緯は?
渡辺芳子さん(以下、渡辺) もともとサンケイスポーツで音楽や映画を担当する芸能記者をしていました。今から10年ほど前に北欧へ行く機会があってスウェーデン語を勉強してから、北欧の映画や音楽を日本にご紹介する仕事をするようになりました。それをきっかけに、北欧映画の字幕等も担当させていただくようになったんです。
― 『孤島の王』を初めてご覧になったときのご感想は?
「若い登場人物のアンサンブルを描いた映画が、最近のノルウェーは得意」
渡辺 2011年にスウェーデンのヨーテボリ国際映画祭で観たのですが、「よい作品だけど、硬い内容で地味だから、日本では公開できないかな」と思っていました。(本作を買う日本の配給会社があって)びっくりです(笑)。
ラストシーン等、とても印象的でした。厳しい(状況を描いた)作品ですが、景色は美しく描かれています。こういった若い登場人物のアンサンブルを描いた映画は、最近のノルウェーが得意としているところですね。
「近頃のノルウェーでは、『歴史の埋もれた部分を映画化する』という傾向がある」
渡辺 近頃のノルウェーのかたがたは、「自分たちの歴史の埋もれた部分を、よいところも悪いところも含めて映画化する」ということを好む傾向にありますね。自分たちのアイデンティティーに誇りを持っていて、教育水準が高く、「悪いところに蓋をしよう」という意識はほとんどありません。「悪いところも、しっかり見せよう」という意識を感じます。たとえば、2008年に”Max Manus”(日本未公開)という映画が公開されたのですが、第二次世界大戦時にレジスタンス運動をしている若者たちを描いた、実話をベースにした作品でした。こういった社会的な作品が好まれるようですね。
とは言っても、硬いものばかりが歓迎されているわけではなく、たとえばゲイの歴史等も、しっかりとフォローされているんですよ。
― ノルウェーの映画事情や映画館事情は?
渡辺 ノルウェーに限らず、北欧のかたがたは結構、映画が好きなんですよ。仕事が一段落する水曜日や木曜日になると、「じゃあ、今日は映画を観に行こうか」と映画館へ行くかたが多いです。金曜日や土曜日はお酒を飲む日にして。
ノルウェーの首都オスロの人口は45万~50万人くらいだと思いますので、神奈川県の横浜市より(人口的には)小さいのですが、オスロには8館の映画館があります。計32スクリーンです。
― つまり、横浜市に8館の映画館があるようなものですね。
「ノルウェーは石油と天然ガスで儲かっているので、(映画の)製作費にはこと欠かず、助成金も出る」
渡辺 ノルウェー全国だと、(2012年現在)映画館が245館で、計420スクリーンあります。2011年にノルウェーで作られた新作の長編映画は40本でした。2010年は36本、2009年は27本だったので、年々、作品数が増えています。ノルウェーは石油と天然ガスで儲かっているので、(映画の)製作費にはこと欠かず、国からの助成金も出ます。
映画の作り手の状況としては、1994年に国立映画学校が設立されました。ここの卒業生が育ってきて、よい作品の作り手が出てきています。ちょうど今、旬を迎えだしているということですね。
映画作りを学ぶかたがたは、みなさん、とても勉強家です。学費は無料ですが、勉強が大変だからアルバイトもできないので、家賃や生活費は奨学金で賄っています。講師陣は実際の映画人なので、無駄なく勉強できているようです。人口の少ない国なので、こういった点の効率はよいんですね。
渡辺 最近では、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督や、『ぼくのエリ 200歳の少女』・『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドソン監督が、アメリカに進出していますね。俳優では、『孤島の王』に出演しているステラン・スカルスガルドもハリウッドで活躍しています。また、ステランには、アレクサンダー、グスタフ、ビルと3人の息子がいて、お父さんと同じく俳優業をしています。アレクサンダーは既にアメリカで活躍していますし、三男のビルは今、本国のスウェーデンでとても人気を集めています。彼もハリウッドに進出すると思いますよ。
― かつて、スウェーデン出身のイングマール・ベルイマン監督が世界的に有名になりましたが、現代の北欧映画の魅力は?
「近年の北欧映画には、『史実に基づいた格調のある硬い作品』と『家族を描いた作品』が多い」
渡辺 近頃になってやっとベルイマン監督の呪縛のようなものが解けて、若いクリエイターたちが自由に映画を作るようになりました。「史実に基づいた格調のある硬い作品」と「家族を描いた作品」が、近年の北欧映画の特徴としてあります。「家族を描いた映画」が目立つ理由に、数年ごとにパートナーを変える人が多く、母子家庭や父子家庭もとても多い国だということがあります。
北欧出身の映画監督がアメリカに呼ばれて、オリジナルをリメイクする場合も増えました。そういったことをきっかけに、(観客のみなさまが)本国・北欧の映画をご覧になる機会があれば嬉しいと思っています。また、北欧を旅行なさったついでに、現地の映画祭や映画館をのぞいてみられるのもよいと思います。たいていの作品には英語字幕がついていますし、言葉がわからなくても、映像の綺麗な映画がたくさんありますので。
― 北欧映画には、ミステリー小説が原作の作品も多いですね。
渡辺 スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』3部作*が映画化されて話題になりましたね。
北欧が好きなかたに注目していただきたい小説家に、ノルウェーのジョー・ネスボがいます。”Harry Hole”という刑事のシリーズが人気で、その中の1作”The Snowman”の映画化権をマーティン・スコセッシが購入したので、いずれ映画化されて日本でも観られる機会があると思います。世界的にとても人気の小説家なので、日本でももっと注目されてほしいと思っています。
* スティーグ・ラーソン作の小説。『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』、『ミレニアム2 火と戯れる女』、『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』が、スウェーデン・デンマーク・ドイツの合作で映画化され、2011年にアメリカで『ドラゴン・タトゥーの女』が再映画化された。
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▼『孤島の王』公開情報
監督:マリウス・ホルスト
出演:ステラン・スカルスガルド(『ドラゴン・タトゥーの女』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』)/ベンヤミン・ヘールスター/クリストッフェル・ヨーネル
2010年/ノルウェー・フランス・スウェーデン・ポーランド/117分/デジタル/カラー/ノルウェー語/シネスコ/ドルビー/原題:Kongen av Bastøy /PG12/
配給・宣伝:アルシネテラン
コピーライト:(C) les films du losange
●『孤島の王』公式サイト
※ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて絶賛公開中(ヒューマントラストシネマ有楽町での上映は終了しています)。
取材・編集・文:香ん乃 編集協力:南天 スチール撮影:hal
- 2012年07月19日更新
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