『ロフト -完全なる嘘(トリック)-』-秘密の情事部屋と裸の女の死体。巧妙な罠が仕掛けられた心理サスペンス。
- 2012年04月20日更新
不倫という肉体的、精神的快楽の果てに、思いがけない落とし穴が待っているとしたら?
男同士5人で共有していた秘密の情事部屋に忽然と血まみれの女の死体が現れる。あわてふためく中年男性たちは、張り詰めた空気の中で心理合戦を繰り広げていく。本作は本国ベルギーで大ヒットを記録し、日本でも2009年に公開された『ロフト.』のオランダ版リメイク。オリジナルの持つ世界観や雰囲気をそのまま受け継いでいる。その予測不可能な展開には誰もが唖然とするだろう。
秘密の部屋で起こった不可解な殺人
建築家マティアス、精神科医バルト、エンジニアのロベルト、セールスマンのウィレム、実業家トムの5人は、家族ぐるみで付き合いのある友人同士。彼らは新築マンションの最上階にあるロフトルームを共有し、妻に隠れて情事を楽しんでいた。ある日ロベルトが、ベッドに手錠で繋がれ血まみれで死んでいる裸の女を発見する。ロベルトの知らせにあわてて集まった男たちは、死体を前にお互いのアリバイを探りつつ犯人捜しを始める。現場には、血のついたナイフ、綴りの間違った壁のラテン語の血文字、切られた警報機。誰が何のために殺人を行ったのか。やがて思いもよらない真相が暴かれ、あっと驚く結末へと向かっていく。
ロフトルームの共有者は、皆すでに社会的地位も家庭も手に入れた大人の男性。それぞれ平凡な生活に飽きていたり妻との生活に不満があったりするが、安易に外に刺激を求めた結果、とんでもない事件に巻き込まれることに。自分のしたことを棚に上げ、築いてきたものを失う恐怖に苛まれる様子は少し滑稽だ。いかにも世間の妻たちからの高笑いが聞こえてきそうな状況だが、その後の思いがけない展開に、そうしたベタな考えは打ち砕かれてしまう。
脚本の巧みさが面白さの鍵
この作品でキーワードとなるのは不倫だけではない。自己保身のためのさまざまな「裏切り」が交錯し、観客までもが騙される。秘密を共有しロフトルームでつながっていた連帯感は、真実が明らかになるにつれ不信感に変わり、やがて崩れていく。嘘で嘘を塗り固めても結局メッキは剥がれるものだ。この作品には、巧妙なトリック、二転三転するストーリー、そして驚愕の結末と観客の心を掴む要素が揃っている。その面白さはまさに脚本の勝利といえるだろう。
オリジナルは、ハリウッドでもカール・アーバン、ジェームズ・マースデン、ウェントワース・ミラー出演でリメイクされ、全米での公開が控えている。機会があれば、ベルギー版、オランダ版、ハリウッド版を見比べてみてはいかがだろうか。
▼『ロフト -完全なる嘘(トリック)-』作品・公開情報
2010年/オランダ/カラー/111分
原題:LOFT
監督:アントワネッテ・ベウメル
脚本:バルト・デ・パウ、サスキア・ノールト
出演:バリー・アトゥスマ、フェジャ・ファン・フエット、イェルーン・ファン・コーニングスブリュッヘ、チコ・ケンザリ、ハイス・ナベル
配給:クロックワークス
(C)2010 Woestijnvis, Millstreet Films and Pupkin Film. All rights reserved.
※4/21(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてレイトショー!【未体験ゾーンの映画たち2012】
文:吉永くま
- 2012年04月20日更新
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