『信さん・炭坑町のセレナーデ』

  • 2010年11月28日更新

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昭和38年 ― 福岡の炭坑町に、「綺麗なお姉さん」が現れた。

丸刈りの少年たちが、元気に駆けずりまわる。炭坑で働く男たちは、言葉も態度も荒っぽいが、心根は優しい。男たちを支える女たちは、胆が据わっていて、「たくましさ」を絵に描いたような存在。裕福からはほど遠いが、人々は肩を寄せあって、朗々と日々を送っている ― 福岡のそんな炭坑町に、周囲に溶けこめない少年がいた。信一という名の彼は、疎外感に苛まれながら暮らしている。

あるとき、ひと組の親子が東京から帰ってきた。小学生の守と、その母の美智代。悪童たちに絡まれていた守を助けた信一は、美智代からお礼と笑顔を贈られる。美智代は親しみをこめて、信一を「信さん」と呼ぶようになった。以来、信一は守と友情を育み、美智代には淡い恋心をいだく。

小学生にとって、同年代の友達の母親は「おばさん」であるのが普通だが、小雪が演じる美智代をそのように呼ぶのは、守の友人でなくてもはばかられるだろう。東京で暮らしていた美智代は、庶民的ではあっても洗練さが際立っている。だからといって、近寄りがたいわけではなく、親切で温かい女だ。まるで別世界から現れたような「綺麗なお姉さん」と接したら、信一でなくても憧憬を覚えて当然だろう。

少年時代の信一を子役の小林廉が、青年期の信一を石田卓也が、それぞれ演じている。成長した信一が炭坑で働くようになった頃、彼を我が子のように見守っていた美智代の気持ちにも、変化が訪れた。そんな感情の変遷もまた、「当然」と映って見えるのだ。

信一と美智代の関係を軸に、守が味わう思春期ならではの恋や、炭坑町だからこそ避けられぬ事件が、物語に起伏を与える。背景の昭和30年代を、「懐かしい」と思う人も、「まったく知らない時代」という人も、信一や美智代たちが垣間見せる「感情」には、世代を問わず共感するに違いない。

《『信さん・炭坑町のセレナーデ』公開初日舞台挨拶》

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2010年11月27日(土)、『信さん・炭坑町のセレナーデ』の公開初日舞台挨拶が、新宿ミラノ2にて開催されました。登壇者のコメントをご紹介致します。

小雪さん この作品を九州で撮影できたことはとても嬉しく、初日を迎えられて本当にありがたく思っております。私が演じた美智代は、さわやかな風が吹いているような女性。明るくて、女性らしさも母性愛にもあふれて、肝が据わっている魅力的な女性です。現場は、平山監督のおかげで、家族みたいに温かい雰囲気でした。是非、家族や大切な人と観ていただきたいです。

池松壮亮さん 小雪さんとの共演は『ラストサムライ』(2003年)以来6年ぶりだったのですが、会った瞬間に当時のことが甦ってきました。当時の僕は、本日の小林廉くんくらいの年齢だったと思います。小雪さんは、人を温かく包んでくれるので、再び共演できて懐かしかったです。

石田卓也さん 恋愛映画に出演するのは初めてに近いのですが、そのお相手が小雪さんという、すごいかたとの共演だったので、初めはとても緊張しました。しかし、僕が風邪をひいているときに風邪薬をくれるなど、さりげないやさしさは本作の美智代そのままで、とても素敵な人だな、と思いました。

小林廉さん 撮影時、僕は12歳でした。つらい人生を送る信さん役は難しく、何度も何度も台本を読んで、役作りしました。(川辺で美智代に背後から抱きしめられるシーンについて訊かれて)こんな美人の人がぎゅっとしてくれるなんて……。今だったら、顔を真っ赤にして逃げだしてしまうかもしれません!(「今も顔が真っ赤ですけど」と司会者が指摘して、会場は笑いに包まれました)

平山秀幸監督 CGを使わないロケ中心の、映画作りの原点のような撮影をおこなったので、役者には当時の格好で演じてもらいました。映画は、作り手だけでは成立しません。観客に観てもらって初めて成立します。是非多くのかたにご覧頂きたいです。

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▼『信さん・炭坑町のセレナーデ』
作品・公開情報

日本/2010年/108分
監督:平山秀幸
脚本:鄭義信
原作:辻内智貴 『信さん』(小学館刊)
出演:小雪 池松壮亮
石田卓也 柄本時生 小林廉
中村大地 金澤美穂 光石研 村上淳 中尾ミエ 岸部一徳 大竹しのぶ 他
配給:ゴールドラッシュ・ピクチャーズ
コピーライト:(C)「信さん・炭坑町のセレナーデ」製作委員会
『信さん・炭坑町のセレナーデ』公式サイト(注:音が出ます)
※2010年11月27日(土)より、新宿ミラノ、銀座シネパトスほか全国ロードショー!

《原作小説》

信さん (小学館文庫)

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文:香ん乃
改行

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