《『枯れ木に銃弾』司慎一朗監督インタビュー》 年齢に夢の限界はない。75歳の新人監督が【シニア・ノワール】に描く、怒りと愛と現代日本
- 2026年02月19日更新
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若い頃から映画監督を志し、紆余曲折の末に75歳にして初の長編映画が劇場公開を迎える司 慎一朗監督。2026年2月20日(金)より公開される『枯れ木に銃弾』は、現代社会からこぼれ落ちた高齢者夫婦の“怒り”と“愛”を【シニア・ノワール】という新ジャンルを掲げて描く衝撃作だ。司監督自身が年齢を重ねる中で、身をもって感じた社会からの疎外感や自己価値への問いかけを、人生の終盤における挑戦と再生の象徴として撮り上げた本作。作品に込めた想いと、その人生の片鱗に迫った。
(取材:富田旻)
学生運動の時代が育てた、既成概念を壊す熱き魂
― 75歳を目前にして、長編映画の監督に挑戦した理由を教えてください。
司 慎一朗監督(以下、司監督):スーパー映画オタクだからです。
― シンプルで素敵な理由ですね! これまでも製作という立場などで映画に関わられてきたそうですが。
司監督:本業の会社経営のかたわら、工藤夕貴さん主演の『春よこい』(2008)や、時代劇作品の『小川の辺』、薬師丸ひろ子さん主演の『わさお』、赤塚不二雄さんの人生を描いた『これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫』(いずれも2011年製作)など、東映作品に関わってきました。でも本格的に挑戦したといえるのはこの作品が初めてです。
― 「司 慎一朗」さんは、監督としてのお名前なんですね。
司監督:30代の頃にコピーライターをやっていた時のペンネームなんです。昔の名前を復活させました。
― 大学生時代に監督された短編映画が、寺山修司氏に激賞されたこともあるそうですね。映画研究会などに入られていたのですか。
司監督:映画研究会に入っていました。とはいえ、私が入学した昭和44年は東大紛争が激化していた年で、私自身は早稲田の学生でしたけど、ほとんどの大学がバリケード封鎖されていたんです。教授が教壇に立つと学生活動家から突き上げられて、自己批判を要求されて授業にもならない。映画研究会に入ったらいきなり鉄パイプを渡されて、目の前の木に向かって「これを機動隊と思え!」って闘争訓練をさせられる。「あれ? 俺、映画作るために入ったのに、どういう関係があるの?」って。
― 今とは、若者のエネルギーの向き方が全然違いますね。
司監督:若者たちが、それまでの大人の文化、国家観、体制に対してネガティブな時代でした。でも、そこから自分たちの新しい価値を作ろうという時代だった。毎週末に新宿駅に集合して、フォークゲリラが始まって、圧倒的な学生の数で新宿駅を占拠して、山手線も止めてしまうみたいな。ありとあらゆる既成概念が破壊された時代だったんです。
その中で、既成の価値観に対してクエスチョンをもつ習性が身につきました。大学卒業後は家の事情で映画監督の夢はあきらめ、一般企業に就職しましたが、人生の終わりが見えてきた今だからこそまた夢に挑戦してみたいと思いました。今作を監督した理由も、そんな時代の影響からきていると思います。
― 司監督の社会への眼差しと、創造的な感性が醸成されたご体験だったのですね。幼少期はどのような環境にいらしたのですか。
司監督:北海道の原野で育ち、小学2年生の時に、家族で東京に引っ越してきたんです。原野から大都会、環境の違いにまったく馴染めず、当時は非常に孤独でした。生活も貧しく、両親と妹との家族4人で赤羽の四畳半一間に住み、狭いので私と妹は押し入れで寝ていました。そんな幼少期から少しずつ都会にも慣れていきましたが、大学時代の強烈にすべてを破壊してしまうような体験をして、それがカオスとなって今のような考え方の人間になったのだと思います。
冷酷非情なデジタル化社会への怒りを銃弾に込めた——【シニア・ノワール】の誕生
― 今作のストーリーは、どのように生まれたのですか。また、今この作品を撮ろうと強く思ったきっかけはなんでしたか。
司監督:歳をとって、同年代や少し先輩の方々に会うと皆同じことを言うんです。「老いると体力も落ちるし、知り合いも減っていく」って。自分自身も75歳目前にして、「こんなに大変なことだったのか」というのがリアルにわかってきたんです。いろんな面で落ちていく実感がある。だけど、昭和の時代はまだ社会に温もりがあったからよかった。
それが今、デジタル化の波の中で失われ、誰も助けてくれないんです。個々人は良い人だけど、それぞれが孤立していて。極端な話、飲食店に入るのも怖い。ラーメン屋ですらタブレットで注文、居酒屋はQRコードで読み取ってください……。そこにシニアは完全についていけてない。この孤立感と恐怖に、シニアはみんな怒っているんです。「俺たちはこんなに国のために働いて、社会のために貢献したのになんなんだ!」と。時代的な流れは仕方がないけれど、あまりに救いがない。そんなリアルな想いを、怒りとして映画で表現しようと思ったんです。
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― 劇中には、監督の実体験や切実な叫びが多数描かれているのですね。
司監督:実体験の連続です。シニアの苦しみには、病気とかいろんなことがあるけれど、今の時代の流れに対する絶望感がものすごい。だけど街中にも頻繁に出るわけじゃないから少数意見になって発信されない。先日、80代の先輩が「兄貴が死んで身寄りが自分しかいないから、手続きを一人でやらなければならなかった。ものすごく大変だった」と嘆いていました。銀行だの証券会社だの駐車場の解約だのすべてデジタル。さらに行政までデジタル化されていて、対応にものすごく苦しまれたと。本当に冷酷非情な社会になっているなと。
― SNSで発信される方も若年層に比べて少ないでしょうから、ますます少数意見のように扱われてしまいますね。
司監督:この生々しい怒りを表現するには、自分で映画を作るしかないと思いました。脚本から演出、どういうアクションを撮るのかまで、自分の手で発信しようと思ったんです。今後、どうなるかわかりませんけども、私としては年に1本長編映画を作る“ブチ切れ老人”になろうと決めたんです。
― 年1本の長編! 並々ならぬ決意ですね!
司監督:「このジジィ、狂ってんな」と言われるところまで執念で作り続けようと。老人のためのノワール映画【シニア・ノワール】というジャンルを、超奇人変人になって創り出してやろうと。怒りを作品として残して、「なんか変な老人がいたよね」みたいなところで発信力を継続させようと思って。
75歳の監督が見つけた、積み重ねた時間の証と老いの中の美しさ
― この作品は、怒れる老人の物語であると同時に、主人公である喜一郎(鷲田五郎)とあかね(田所ちさ)の夫婦愛を描いた物語でもあります。そこには、監督ご自身の家族への感謝も込められているそうですね。
司監督:傍から見たらわからなくても、長く連れ添った家族であれば、共に育てた時間や歴史というか、それぞれの深みがあるはずだと思い、その絆を夫婦愛として描きました。ああいう極限状況になればなるほど、その愛の真実というものが露出してくるのではないかと。
― 喜一郎とあかねのささやかな幸せを回想するシーンがとても美しく見え、それだけに追い詰められていく姿が悲しかったです。ふたりの生々しい表情が印象的で、ほぼノーメイクでしわやシミなどをあえて捉えて映しているような印象を受けましたが、いかがですか。
司監督:そうですね。年輪が刻まれた顔の美しさは、メイクさんがいくら頑張っても出せない味です。積み重ねたものが今の顔になっているわけで、その表情、しわの美しさは素晴らしいものだと思うんです。どんなにささやかに生きている人にも、シニアの一人ひとりに重い真実と人生がある。その重みと美しさがわかるようになったのも年齢だと思いますが、そこへのリスペクトで映画を作っていきたいと思っているんです。
「用意スタート!」の瞬間に居眠り—— 12時間以上の撮影を乗り越えた気合いの映画道
― 初めて長編映画に挑戦されて、現場でのご苦労や今だから言えることなどはありますか。
司監督:初めての撮影の時は緊張しまくっていました。皆さんプロで、私だけがド素人という状況でしたから。いろんなことに疲労困憊しました。
司監督:今回はちょっとすさまじかったですね。撮影時間が大体1日12〜14時間だったんですよ。当時74歳の老人としては信じられないほどの過酷な状況でした。
― それはかなりハードですよ。短期間でガッと集中して撮られた感じですか? どうやって乗り越えられましたか?
司監督:集中して撮り上げた感じですね。もう気合いしかなかったです。今だから笑い話として言えますけど、最後のシーンの撮影では疲労困憊しすぎて「用意スタート!」と言った瞬間にちょっと居眠りしてしまって……それくらい究極の状態だったんです。
― なんと! それだけ大変な思いもされたにもかかわらず、毎年1本撮っていきたいという強い思いはどこから出てくるのでしょうか。
司監督:シニアの一人ひとりの人生にもう少しだけ感謝や温かい目を向けてほしいという単純な怒りです。いろんなテーマを切り取っていけると思うので、まずは一つずつ、できる限りやってみたい。2作目はもう少し余裕をもって撮影できると思いますし、執念の老人監督に成りきってやろうと思って(笑)。まあ、命がある限りということですね。
【プロフィール】監督/脚本 司 慎一朗(つかさ・しんいちろう)1950年北海道生まれ。若い頃から映画監督を志し、早稲田大学在学中に監督した『ゼロの手記』は寺山修司に激賞されるも、家庭の事情にて映画監督の道を諦め一般企業に就職。人生の終わりが見えてきた中、自らの夢を叶えるため2025年に初の長編映画を監督。
予告編&作品概要
▼『枯れ⽊に銃弾』
(2026年/日本/17:9/5.1ch/60分)
出演:鷲田五郎、田所ちさ、板橋春樹、松原怜香、佐々木穂高、中野歩、野村啓介、安部一希、辻夏樹、冬由 ほか
監督・脚本 : 司 慎一朗
エグゼクティブプロデューサー:鈴木道男 プロデューサー:山口隆実
撮影:平野晋吾 照明:日比野博記 録音・整音・効果・ミックス:庄野廉太郎 音楽 : 小野川浩幸
美術・装飾 : 横張聡 ヘアメイク:くつみ綾音 衣装:中村もやし 特殊メイク:遠藤斗貴彦 助監督:中野歩、安部一希 スチール撮影 : 伊藤華織 アクションコーディネーター:雲雀大輔 VFX・銃器レンタル:遊佐和寿
制作プロダクション:バース・オブ・アート
宣伝・配給:スウィムインユニバース 製作 : ビジョンワン ©ビジョンワン
公式サイト : https://x.com/kareki_jyuudan?s=21
【STORY】東京の下町で暮らす74歳の喜一郎と62歳の妻・あかねは、静かに貧しい老後を送っていた。治療費で貯金を失い、社会からの冷遇と生活困窮の中で、「価値のない人間」とまで言われ絶望するふたり。最後の希望として、あかねは亡き父から受け継いだ猟銃を手に、富裕層の家を襲撃するが、計画は思わぬ惨劇へと変わる。
逃亡の末に辿り着いたのは、かつての憩いの場所・銭湯。血まみれの身体を洗い流し、もう一度「人間」として戻ろうとするふたりだったが、運命は彼らに最後の選択を迫る——。
これは、“老い”と“怒り”と“愛”を抱えたふたりの、破滅と祈りの物語。
※2026年2月20日(金)よりシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』ほか公開
- 2026年02月19日更新
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