10月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―
- 2025年09月28日更新
10月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?
LINE UP 10/3(金)公開『アフター・ザ・クエイク』 10/10(金)公開『グランドツアー』 10/17(土)公開『さよならはスローボールで』 10/17(金)公開『次元を超える』 10/24(金)公開『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』 10/31(金)公開『火の華』 |
『アフター・ザ・クエイク』
意味深長な人物が鮮烈な映像で織りなす災害と喪失
村上春樹の短編連作『神の子どもたちはみな踊る』の中の4編を基に、原作の1995年の時代設定を2025年までの30年間の時の流れに置き換えて、災害と喪失の人間模様を大胆な映像と繊細な演出でつづった。NHKで放送された4話からなるドラマ『地震のあとで』を再構築している。1995年、阪神淡路大震災のニュースを見続けていた妻に置き手紙を残して出ていかれた小村は、同僚の佐々木から「釧路まで運んでほしい」と白い小さな箱を預かる。NHK時代、『あまちゃん』などの人気ドラマを手がけた井上剛監督は、脈絡のない4つの物語を白い箱という自己の象徴でつなぎ、過去と現在、他人と自身のつながりの深淵をのぞき込む。血塗られたようなホテルの赤い廊下をはじめ、東北の海辺、新宿の地下水道、さらには冷蔵庫の中など、渡邉寿岳撮影の映像があまりにも鮮烈で、多彩な役者陣による意味深長な人物像を含め、映画だからこその陶酔感に全身が包み込まれた。(藤井克郎)
2025年10月3日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/132分) 監督:井上剛 出演:岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市 ほか 配給:ビターズ・エンド ©2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ
『グランドツアー』
100年の時を超えて紡がれる倒錯感あふれる旅情
時は1918年。イギリス人のエドワードは婚約者のモリーとの結婚から逃れたいとアジア各地を転々としていた。さまざまなトラブルに巻き込まれながらも大阪から上海に上陸したエドワードだが、モリーからの「到着する。会いたい」との電報を受け取り、再び船に乗って重慶へと向かう。一方、エドワードを追って上海にたどり着いたモリーは、もう重慶への船は出ないと言われ、小舟を調達して危険な旅を続ける。ポルトガルの鬼才、ミゲル・ゴメス監督が4年の月日を費やして編み上げた意欲作で、2024年のカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いた。モノクロとカラーの画面を効果的に用い、逃げる男、追う女の2部構成で、ミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本、中国にまたがる虚々実々の追走劇を映像化した。現代のアジアの都市の喧騒や各地に伝わる伝統人形劇の実演など、100年の時を超えた倒錯感あふれる旅情に酔いしれた。(藤井克郎)
2025年10月10日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/ポルトガル、イタリア、フランス、ドイツ、日本、中国/129分)原題:Grand Tour 監督・共同脚本:ミゲル・ゴメス 出演:ゴンサロ・ワディントン、クリスティーナ・アルファイアテ、クラウディオ・ダ・シルヴァ、ラン=ケー・トラン ほか 配給:ミモザフィルムズ © 2024 – Uma Pedra No Sapato – Vivo film – Shellac Sud – Cinéma Defacto
『さよならはスローボールで』
ぐだぐだの試合を通して流れるかけがえのない時間
アメリカの片田舎にある古い野球場が取り壊されることになる。最後の試合は地元の草野球チームの対抗戦。どちらも選手たちは年寄りやら飲んだくれやらで、先攻のチームに至っては9人のメンバーがそろわず、危うくラストゲームが行われないまま球場が閉鎖になるところだった。何とか試合は始まったものの……。球場とその周辺だけを舞台に、試合開始から終了までをただただ見つめた作品で、試合の模様もぐだぐだなら、ピザの移動販売車など周囲の人たちとの絡みもぐだぐだという異色作。原題のEephusとは球速80キロに満たない超スローボールのことで、何もしていない時間の多い野球という競技の中でも、とりわけ時が止まっているかのような象徴として描かれる。それでも人生は確実に前に進んでいて、こんな遊びのような勝負でも流れる時間はかけがえのないものなのだ。これが初の長編映画となるカーソン・ランド監督のそんな思いが、作品自体ぐだぐだのスクリーンから漂ってきた。(藤井克郎)
2025年10月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アメリカ、フランス/98分)原題:Eephus 監督・脚本・編集:カーソン・ランド 出演:キース・ウィリアム・リチャーズ、ビル・“スペースマン”・リー、クリフ・ブレイク、フレデリック・ワイズマン(声の出演) ほか 配給:トランスフォーマー © 2024 Eephus Film LLC. All Rights Reserved.
『次元を超える』
怪しげな宗教を巡る異次元の世界観を既存の表現で創出
行方不明になった修行者、狼介の捜索を恋人の野々花から依頼された新野は、宗教家の阿闍梨の家を訪ねて彼の邪悪な実態を調べ始める。やがて狼介の居場所を突き止めた新野は、次元を超えて鏡張りの洞窟で相対することになるが……。『ポルノスター』『泣き虫しょったんの奇跡』などの豊田利晃監督が、窪塚洋介、松田龍平という超個性的な2人を主役に据え、物語も映像も映画の次元を超えたぶっ飛んだ表現で作品化。真面目なのかふざけているのかもよく分からない怪作に仕立てた。怪しげな宗教や輪廻転生などの死生観といった映画を貫く精神性は副産物のようなもので、スローモーションなりアフレコなり既存の技術でどれだけ異次元の世界観を創出できるかに挑みたかった感がある。その意図にノリノリで応えた窪塚、松田をはじめとする出演者のはっちゃけぶりが楽しい。中でも邪悪な宗教家を演じた千原ジュニアの怪演は見ものだ。(藤井克郎)
2025年10月17日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/96分/PG12) 監督・脚本・エグゼクティブプロデューサー:豊田利晃 出演:窪塚洋介、松田龍平、千原ジュニア、芋生悠 ほか 配給:スターサンズ ©次元超越体/DIMENSIONS
『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』
誰彼構わず当たり散らす女性の滑稽で複雑な人間模様
パンジーは常に苛立っていた。引きこもり気味の無職の息子に口うるさく小言を言い、配管工の夫には「役立たず」とののしる。外に出ればスーパーの店員に歯科医、医師と誰彼構わず当たり散らすが、そんな彼女の唯一の理解者である妹から、母の日に亡き母の墓参りの誘いを受ける。しぶしぶ出かけたパンジーだったが……。カンヌやベネチアなど、世界の名だたる映画祭で最高賞に輝いてきたイギリスの至宝、マイク・リー監督が、『秘密と嘘』で組んだマリアンヌ・ジャン=バプティストを主役に迎え、おなじみの即興的な手法で人間関係の滑稽さ、複雑さをえぐり出した。とにかくパンジーの個性が強烈で、傍から見れば愉快で痛快だが、実際に身近にいたらこれほど厄介な人物はいるまい。それでも家族なら何とか折り合いをつけていかなければならない、というところを、ユーモアをまぶして味わい深く織り上げる。ラストは決して爽快というわけではないが、それもまた人間模様の一つの真実か。(藤井克郎)
2025年10月24日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/イギリス/97分)原題:Hard Truths 監督・脚本:マイク・リー 出演:マリアンヌ・ジャン=バプティスト、ミシェル・オースティン、デヴィッド・ウェバー、トゥウェイン・バレット ほか 配給:スターキャットアルバトロス・フィルム ©Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.
『火の華』
PTSDに苦しむ元自衛隊員が打ち上げ花火に寄せる思い
海外派遣部隊の日報を巡って自衛隊への信頼を揺るがした問題を題材に、『JOINT』の小島央大監督が完全オリジナルのストーリーで骨太な娯楽映画を作り上げた。PKOで南スーダンに派遣された2等陸曹の島田は、施設隊員の救出に向かった先で発砲してきた少年兵を撃ち殺してしまう。同僚の古川3等陸曹も命を落とすが、施設隊長からは絶対に口外しないよう命じられる。それから2年。PTSDに苦しむ島田は勤め先の鉄工場でトラブルを起こし、花火工場を紹介される。危険な武器ビジネスに美しい打ち上げ花火と、同じ火薬を扱いながらも両極端な素材を軸に、やがて国家規模の不穏な事態へと突き進んでいくさまをスリリングに活写。中でもスクリーンいっぱいに映し出される真下から見上げた花火が大迫力で、いつまでもこの平和的な情景を見ることができるようにと祈っていた。(藤井克郎)
2025年10月31日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/日本/124分) 監督・編集・音楽/共同企画・脚本:小島央大 出演:山本一賢、柳ゆり菜、松角洋平、伊武雅刀 ほか 配給:アニモプロデュース © animoproduce Inc. All Rights Reserved.
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