9月公開映画 短評 ―New Movies in Theaters―

  • 2025年08月30日更新

9月公開映画の中から、ミニシアライターが気になった作品をまとめてピックアップ! あなたが観たいのは、どの映画!?

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9/5(金)公開『九月と七月の姉妹
9/5(金)公開『DREAMS
9/5(金)公開『ふつうの子ども
9/12(金)公開『風のマジム』 ※沖縄では9月5日(金)先行公開
9/12(金)公開『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー
9/19(金)公開『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画
9/20(土)公開『揺さぶられる正義
9/26(金)公開『ピアノフォルテ
9/26(金)公開『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男


『九月と七月の姉妹』

一心同体だった2人がいじめ事件をきっかけに……

ヨルゴス・ランティモス監督の妻でギリシャ出身のフランス人俳優、アリアン・ラベドの初監督長編。イギリス人作家、デイジー・ジョンソンの小説を原作に、仲がよかったはずの姉妹の不穏で屈折した日々を研ぎ澄まされた映像と驚きの作劇でつづる。いつも一心同体の10カ月違いの姉妹、セプテンバーとジュライは、学校でのいじめがきっかけで引っ越しを余儀なくされる。母と3人でアイルランドの寂れた海辺の町に移り住むが、やがて姉が妹を支配するようになり……。なぜ2人はいじめに遭っているのか、なぜ妹は姉の言いなりなのか、など一切の説明的な描写は排除して、ただじっとりと姉妹の関係性を見つめる視線が異様でもあり、16ミリと35ミリのフィルムを使い分けて撮影された深みのある画面にどんどん引き込まれる。終盤の意外すぎる展開にあっけに取られていると、ラストに超弩級のショットが控えていて、ラベド監督の驚異的な映像センスに脳天を撃ち抜かれた(藤井克郎)

2025年9月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/アイルランド、イギリス、ドイツ/100分/PG12)原題:September Says 監督・脚本:アリアン・ラベド 出演:ミア・サリア、パスカル・カン、ラキー・タクラー ほか 配給:SUNDAE ©Sackville Film and Television Productions Limited / MFP GmbH / CryBaby Limited, British Broadcasting Corporation,ZDF/arte 2024


『DREAMS』

教師への恋の顛末をつづった手記を巡る熱い議論

17歳の高校生、ヨハンネは、新任のフランス語教師、ヨハンナが気になって仕方がない。恋心であることに気づいて悶々と苦しむ彼女はある日、思い切ってヨハンナの家を訪れる。1年後、事の顛末を手記に収めたヨハンネは、詩人の祖母に相談するが……。小説家でもあるノルウェーのダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督が3部作として発表した1本で、2025年のベルリン国際映画祭では最高賞の金熊賞に輝いた。前半は異様とも思えるほど長いヨハンネの独白で展開し、時にはスクリーンに映し出されている映像とは無関係のことまで語り尽くす。と後半に入ると一転、祖母や母との間で愛や文学について家族の枠を超えた熱い議論を繰り広げ、これがめちゃめちゃエキサイティングで飽きさせない。言葉の洪水を巧みに乗り越えたヨハンネ役の若いエラ・オーヴァービーの役者魂にも感銘を覚えた。3部作の他2作『LOVE』『SEX』とともに特集上映『オスロ、3つの愛の風景』として公開。藤井克郎

2025年9月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/ノルウェー/110分)原題:Drømmer 英題:Dreams(Sex Love) 監督・脚本:ダーグ・ヨハン・ハウゲルード 出演:エラ・オーヴァービー、セロメ・エムネトゥ、アネ・ダール・トルプ ほか 配給:ビターズ・エンド ©Motlys


『ふつうの子ども』

地球環境を悪化させた大人への普通ではない戦い

毎日をのほほんと生きている小学4年生の唯士は、作文発表の授業で環境問題について激しい持論を展開していた心愛に興味を抱く。彼女が放課後を過ごす図書館に通って気を引こうとする唯士だが、クラスの乱暴者、陽斗が2人の間に割って入ってきて……。『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の呉美保監督が、『きみはいい子』などで組んだ脚本家、高田亮のオリジナル脚本で映画化。地球環境の悪化をもたらした大人たちに対する「ふつう」の子どもたちの「ふつう」ではない戦いを、たっぷりのユーモアとぴりっとした皮肉を込めて描く。目を見張るのは、30人学級の一人一人の子どもたちが全員、きちんと役を生きていることで、クラス全員を捉えたロングショットや些細な会話まで収めた録音など丁寧な作りに呉監督の覚悟を感じた。唯士役の嶋田鉄太のとぼけた表情と消え入るようなぼそぼそ声を筆頭に、子どもたちの自然すぎる演技にも注目だ。(藤井克郎)

2025年9月5日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/96分) 監督:呉美保 出演:嶋田鉄太、瑠璃、味元耀大 ほか 配給:murmur ©2025「ふつうの子ども」製作委員会


『風のマジム』

沖縄産ラム酒づくりに懸ける派遣社員の真心

那覇で豆腐店を営む祖母と母の3人で暮らすまじむは、通信会社の契約社員として雑用をこなす毎日だった。ある日、社内ベンチャーを募集するチラシを見つけた彼女は、沖縄産ラム酒の企画を思いつく。いつものバーで祖母と飲んだラム酒の原料がサトウキビだと知ったまじむは、サトウキビがたくさんある沖縄でも作れるのではないかと考えたが……。実話を基にした原田マハの小説を、これが初の長編映画となるCMディレクター出身の芳賀薫監督が映画化。ごく平凡な一人の女性が、祖母譲りの信念の強さと周囲の人々の協力で大仕事をやり遂げるまでを爽やかに描く。まじむ役の伊藤沙莉が、契約社員というコンプレックスを抱えながらも決して卑屈にはならず、頑固なのに誰もが応援したくなるという難役にもかかわらず、本当に存在しているとしか思えない人物として映画の中で生きていて、さすがの一言。マジムとは沖縄の言葉で「真心」を意味するそうだが、まさに真心が込められた誠実な映画に仕上がっている。(藤井克郎)

2025年9月12日(金)より全国順次公開。5日(金)、沖縄県先行公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/105分) 監督:芳賀薫 出演:伊藤沙莉、染谷将太、高畑淳子 ほか 配給:コギトワークス ©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社


『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』

大都会で暮らす夫婦の闇を見つめる破天荒な視線

『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也監督が、オリジナルの企画、脚本を基に全編ニューヨークで撮影した意欲作。廃墟の研究をしている日本人の賢治と、年老いた父親が経営するストアを手伝いながら人形演劇の創作に取り組んでいる台湾系アメリカ人のジェーンの夫婦は、お互いを気遣いながらも日々の生活に疲弊していた。ある日、ジェーンが幼い息子のカイと店番をしている最中、強盗グループに襲われ、金品を奪われる。だがそれからしばらくして、カイが行方不明になり……。主人公夫婦を西島秀俊と中華圏を代表する台湾の名優、グイ・ルンメイが扮し、多様な文化を背負った人々がさまざまな思惑で暮らす大都会の闇を、家族と血の関係を絡ませてスタイリッシュに描き出す。廃墟と化した劇場の跡地や巨大な人形を操る聾者の劇団など、象徴的な素材がストーリーを超越して示され、真利子監督の破天荒な視線を垣間見た気がした。(藤井克郎)

2025年9月12日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本、台湾、アメリカ/138分) 監督・脚本:真利子哲也 出演:西島秀俊、グイ・ルンメイ ほか 配給:東映 ©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.


『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』

緻密な設定と映像美でつづる大富豪父娘の葛藤

『グランド・ブダペスト・ホテル』や『犬ヶ島』など、他に類を見ない独特の映像世界で知られるウェス・アンダーソン監督が、またまた個性あふれる空想奇譚を紡ぎ出した。1950年代のヨーロッパ。大国フェニキアの大富豪、ザ・ザ・コルダは、計画中の大事業を阻止しようとする者たちによって命を狙われる。もしものために、後継者として修道女見習いをしている一人娘、リーズルを指名するが、彼女は父親に不信感を抱いていた。緻密に作り込まれた設定に原色を際立たせた美術や衣装、計算され尽くしたカメラ位置と、おなじみのアンダーソン色にさらに磨きがかかっていて、目くるめく世界観にただただ圧倒されるばかり。ザ・ザ・コルダ役のベニチオ・デル・トロに加え、トム・ハンクス、マチュー・アマルリック、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチらちょい見せの大物俳優らが実に楽しそうに演じていて、映画を見ることの多幸感に包まれた。(藤井克郎)

2025年9月19日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/アメリカ、ドイツ/102分)原題:The Phoenician Scheme 監督・脚本:ウェス・アンダーソン 出演:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ ほか 配給:パルコ、ユニバーサル映画 ©2025 TPS Productions, LLC. All Rights Reserved.


『揺さぶられる正義』

冤罪事件をめぐる不確かな正義

映画『揺さぶられる正義』

関西テレビの上田大輔監督が、多くの冤罪を生んだ“揺さぶられっ子症候群(SBS)”事件を長年取材・報道し、それをもとに作り上げたドキュメンタリー。2010年代、赤ちゃんを揺さぶって虐待した疑いで、親などが逮捕・起訴される事件が相次ぎ、マスコミも実名で報じた。同社の企業内弁護士から記者に転じた上田監督は、取材を続けるうち、自分たちの報道姿勢に疑問を持ち始める。子どもの虐待を防ぎたい医師たち、冤罪をなくしたい専門家チーム、そして虐待を疑われ逮捕・起訴されるという何重もの苦しみを背負った被告とその家族。それぞれの立場の人々にさらに入念に取材を重ね、真摯に向き合っていく。白か黒か、世論の判断が報道による変わるという重責を背負いながらその在り方を模索する姿に、少しの光が見えた気がした。“正義”とは実体のない不確かなもので、時に多くの人の人生を崩壊させてしまう。そんな計り知れない恐ろしさが胸に刻まれる。(吉永くま)

2025年9月20日(土)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2025年/日本/129分)監督:上田大輔 プロデューサー:宮田輝美 製作:関西テレビ放送  配給:東風 ©2025 カンテレ


『ピアノフォルテ』

世界最高峰のコンクールに挑む若者たちの顔

5年に1度、ポーランドの首都、ワルシャワで開かれる世界最古にして最高峰のピアノコンクール、ショパン国際ピアノコンクールの舞台裏に迫ったドキュメンタリー。コロナ禍で1年延期になった2021年の決戦に挑む若者の葛藤を、ポーランド出身のヤクブ・ピョンテク監督が大スクリーン映えする魅惑の映像と音響で編み上げた。狭い部屋にアップライトのピアノという決して恵まれてはいない環境の中で才能を開花させた中国人のハオは、ショパンコンクールを断念したことのある先生と2人だけでワルシャワに到着する。一方、17歳のロシア系アルメニア人、エヴァは、ワルシャワに来てからも厳しい指導の毎日だった。カメラは主に6人の出場者に密着。ナレーションや字幕で説明することなく淡々とその表情を見つめる中から、ピアノの奥深さ、コンクールの意味などが浮かび上がってくる。音楽の素晴らしさもさることながら、改めてカメラは顔を撮る装置だと実感させられた。(藤井克郎)

2025年9月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2023年/ポーランド/89分)原題:Pianoforte 監督:ヤクブ・ピョンテク 出演:アレクサンダー・ガジェヴ、レオノーラ・アルメリーニ、エヴァ・ゲヴォルギヤン、ラオ・ハオ ほか 配給:コピアポア・フィルム ©Pianoforte


『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』

伝説を見ることなく去った男の生涯

映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』

今も多くの人々から愛され続けるビートルズを見出し、成功へと導いた敏腕マネージャーの32年の短くも濃厚な生涯が、60年代の空気感とともに描かれる。祖父の家具店に増設したレコード部門で働くブライアン・エプスタインは、ある日リヴァプールのクラブ「キャヴァーン」で駆け出しのバンド「ビートルズ」と出会う。その音楽に魅了されマネジメントを買って出た彼が苦労の末に売り出したバンドは、瞬く間に世界を席巻。だが、その輝かしい成功の裏で、彼にはある苦悩があった……。多忙な業務、バンドの方向性、そして当時の社会には受け入れられなかった“秘密”が彼の繊細な心を徐々に壊し、ユーモラスだったカメラ目線の独白シーンが翳りを帯びていく様に切なさがこみ上げる。常に主役であったビートルズの初期を支えたエプスタインを、“主役”として描く貴重な作品。バンドが伝説となることを見ずに去った男の人生を優しく掬い取る。(吉永くま)

2025年9月26日(金)より全国順次公開 公式サイト 予告編動画
(2024年/イギリス/112 分/PG12)原題:MIDAS MAN 監督:ジョー・スティーヴンソン 出演:ジェイコブ・フォーチュン=ロイド、エミリー・ワトソン、エディ・マーサン ほか 配給:ロングライド  ©︎STUDIO POW(EPSTEIN).LTD

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