【オムニバス映画『ワタシの中の彼女』】2人の関係性も表せた作品に―「ワタシを見ている誰か」菜葉菜さん&好井まさおさんインタビュー

  • 2022年11月25日更新

コロナ禍で大きく様変わりした日常の中で、孤独や不安を抱えながら希望を求めて生きる女性たちを描く中村真⼣監督によるオムニバス映画『ワタシの中の彼女』が、2022年11月26日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開となる。

4つの短篇からなる本作で、世代も生き方も異なる4人の主人公を演じた菜葉菜さんと、第二話「ワタシを観ている誰か」のメインキャストとして出演したお笑いコンビ「井下好井」の好井まさおさんにインタビューをした。廣木隆一監督や甲斐さやか監督の映画で共演し、プライベートでも仲がいいというお二人。作品の舞台裏や、実力派俳優として認め合うお互いへの想いなどもうかがった。


二人の関係性と好井さんの“キモかわいさ”で実現したキャスティング

― お二人はこれまで何度かご共演されていますが、普段から仲良がいいそうですね。

菜葉菜さん(以下、菜葉菜):出会いは『火花』(Netflixドラマ/2016/廣木隆一監督ほか)ですね。

好井まさおさん(以下、好井):僕、初めてのお芝居の仕事が『火花』だったんですけど、初日からもう菜葉菜氏の隣に座っていた記憶がありますね。撮影に行くと、「あの人、今日いるかな」って。芸人以外の業種で一番仲のいい異性の友人じゃないですか。

菜葉菜:えー、うれしい!

好井:マジでなんも気を使わずにしゃべれますね、性の話も。

菜葉菜:いや、一回もしてないでしょ(笑)!

― 本当に仲良しですね(笑)。今作は、お二人の関係性や共演歴を考慮されてのキャスティングだったのでしょうか。

菜葉菜:監督がこれまでの共演作を観ていてくださって、その中の『赤い雪』(2019/甲斐さやか監督)で、好井さんが私を陰からじっと見ている役だったんですが、監督いわく、「キモかわいくて、どこか憎めない感じがイメージしている役にぴったり」だったそうで(笑)。私も好井さんが出てくれたらうれしいので、ぜひご一緒したいと言いました。

好井:僕も「菜葉菜氏と出れるんやったら、ぜひ!」って返事をして、決めていただいたんです。

脚本作りで難航! 気まずい空気に……

― 4話とも、ある時点から急に視点が変わって見えるような意外性があったんですが、その中でも本作は異色な印象を受けました。ヒューマンドラマにも、ラブストーリーにも、サスペンスにも見えるというか。どんな風に作り上げたのか、お聞きしたかったんです。

菜葉菜:監督から、私たちのアドバイスを入れて脚本を書きたいというご要望があって、最後まで脚本を揉んだ作品なんです。

好井:結構大変な作業でしたね。僕は脚本は書いたことないけど、漫才はずっと書いているから、「それに似たような大喜利をしていきます」って言って、「このシーンを伏線にしてこう落とすのはどうですか」とか、めっちゃ案を出しました。

菜葉菜:うん、出した出した。

好井:それこそ、10個20個じゃなくて、とりあえず思いつくパターンを被らんようにバーっと出していったんですけど、なかなか決まらんくて。途中気まずい空気にもなって(笑)。

菜葉菜:なりましたね(笑)。好井さんはもちろん、私にとっても初めての経験で、最初の段階から大変だったんですけど、一緒にやるのが好井さんだったからこそ、何とかちゃんと作品になって、2人の関係性みたいなのも表せたのかなと思います。

好井:案を出しては却下されまくったんですけど、最終的な脚本を見たら結構採用されていましたね(笑)。 

コロナ禍で “大切な人が誰か” がより明確になった

― 好井さん演じるフードデリバリーの配達員、カズヤの見事な食べっぷりが印象的でした。

好井:とりあえず食事は抜いて撮影に行きました。昔、先輩の劇場の手伝をしていた時は3分くらいで飯食べんとあかんかったんで、「まあ、卵をかければ牛丼一杯3分でいけますよ」って監督に言ったら、「1分半で卵なしでいけます?」って(笑)。2口目まではスピードを意識したけど、3口目から無理やと思って普通に食べました。おいしゅうございました(笑)。

― おいしそうでした(笑)。このストーリーは、新型コロナの影響もあってフードデリバリーが広く定着したから生まれたものでもあるし、あらためて、食事を共にすることって人と繋がる手段として大きいんだなと思いました。お二人もコロナ禍で人との付き合い方は変わりましたか?

好井:なかなか人と会えんようになって、ほんまに仲いい人が明確になった気はしますね。例えば、めっちゃ一緒に飲んだのに次に会ったときにリセットされている人っておるけど、菜葉菜氏は何ヶ月ぶりに会ってもなんも考えずに話せるというか。そういう人を確認できる期間だったと思います。

菜葉菜:私もそうですね。好井さんとは今日も久しぶりに会ったんですけど、そういうことを考えずにスっと入れるんですよね。私はもともと友達の数は多くないし、地元の友人とか限られた人との時間を大切にするほうですが、コロナ禍で自分にとって大切な人がさらに明確になった気がします。

実はカズヤもメイもちょっと変!?

― コロナ禍で人との接触が絶たれて、特に一人暮らしだと孤独を感じた方も多いと思います。そんな中でフードデリバリーとか宅配業者の方とか、日常的に顔を合わせる人に親近感を抱くこともあると思うんですが、他人をどこまで信じ切れるか考えてしまうストーリーでもありました。お二人がメイ(菜葉菜)とカズヤの立場だったら、あり得る展開だと思いますか?

好井:お互いに「なんか、あの人ええなぁ」と思うシチュエーションが何回か重なったりしたらあり得るとは思いますし、実際に僕の周りにもフードデリバリーの人を好きになったって話も聞きました。僕自身も、観てくださる方に「こんなやつおらんやろな」と思わせたらあかんとは思いましたし、「あるある」とはいかなくても、「あるなし」くらいには思わせたいなと。

菜葉菜:うんうん、そうだね。

― メイとカズヤが、お互いに「悪い人じゃないな」とシンパシーを感じていることが分かったし、カズヤがどうにも悪い人間には思えなかったので、私もそこを信頼して観ていました。

菜葉菜:監督が好井さんの “憎めないかわいらしいキャラクター” を求めてこの役にオファーしたのは、そういう狙いだったと思います。好井さんじゃなければ、物語の印象もかなり変わっていたと思いますね。

― 本作を2回拝見したのですが、1回目は「男女の間に生まれるささやかで温かい物語」を感じたんですけど、2回目によくよくカズヤの表情を見ていたら、急に「あれ、この話ってサスペンスなのかな!?」と思って。メイの表情まであやしく見えて……。

菜葉菜:そうそう。実は2人ともちょっと変なんですよね。

― それも監督の“キモかわいい”の策略なのか、表情の作り方などはどう意識されたのですか。

菜葉菜:「もう少し目を見開いてください」とかは監督の指示ですね。

好井:僕はもう監督の思うままに動かしていただいたんですけど、あんまりリアリティを出してしまっても、お客さんが入り込めへんとは思ってやっていましたね。菜葉菜氏はそこをうまく作り上げてくれたと思います。

― 観る人や角度によってストーリーが違って観えるのも本作のおもしろさですね。映画のキャッチフレーズにもなっている「一人になってしまっても、ひとりぼっちじゃない」はカズヤのセリフだったんですね。

菜葉菜:いいセリフですよね。これも何度か撮り直したよね。

好井:どう言っていいのか難しかったので、音で覚えたんです。監督に言ってもらって聞き心地が良い言い方を選んで、それを何回か繰り返して。監督がGOを出せばそれが正解だと思ったので。

菜葉菜氏の演技から受けた衝撃は、ずっとそのまま


― 本作で、菜葉菜さんは20代から40代まで4人の女性を見事に演じ分けていらっしゃいます。好井さんは他の3話はご覧になりましたか?

好井:まだ観れてないんです。でも、予告編を観た時点で「すごいな」と思いました。本当にめっちゃ演技うまいですよね。体重が乗っかってんのよ。ちゃんと“人”が乗っかっている。

― おお! 素晴らしい表現!

菜葉菜:そんな表現をしてもらったの初めてです。うれしい!

好井:目の前でプロの芝居を見たのが、菜葉菜氏が1人か2人目とかやって、「いや、プロうまっ!」って思いましたもん。各現場ですごいなと思う人はいますけど、菜葉菜氏の衝撃はずっとそのままです。芸人同士で飲みに行くと、「誰の演技がすごかった?」って聞かれるんですけど、絶対に名前を挙げます。

ナチュラルな演技の中にちゃんと好井さんがいる

― 素晴らしい信頼関係ですね。菜葉菜さんから見た、役者の好井さんはどんな印象ですか。

菜葉菜:私、実は泣く演技があまり得意ではないんです。他のことを考えて泣いたりできなくて、不器用なタイプなんですけど。『火花』で好井さんが林遣都さん演じる主人公と最後の漫才をするシーンを見て、テストから自分でもびっくりするくらい号泣しました。

― わかります! 私もあのシーンで号泣しました!

菜葉菜:好井さんの演技は、ナチュラルな中にちゃんと好井さんがいるんです。好井さんが演じるからこそこのキャラクターなんだっていうのが嫌味なく出てきて、かつ自然に存在していて。毎回すごいと思います。

好井:そうなんかなぁ。

菜葉菜:芸人さんってお芝居も上手な方が多いけど、それを目の当たりにして「役者負けてられんぞ!」みたいな気持ちにもなりました。だからこそ、リスペクトしている好井さんに褒めてもらえるのは、すごくうれしいです。

好井:ありがとうございます。

ラストシーンをどう観る? 噛めば噛むほど味が出る映画!

― 最後にあらためて、本作を観る方にメッセージを。

菜葉菜:ラストシーンは、私の表情を見せずに終わっているんですけど、どんな表情をしていると思うか、きっと観る方によって違うと思います。ぜひそこも楽しみにしてほしいですね。

好井:もやもやして終わるのか、それとも答えが出るのか、観る方によってきっと違うと思います。実はこの映画、3回見ると最後の菜葉菜氏の表情がわかるようになっています。

菜葉菜:なってない、なってない(笑)!

好井:3回観ると、菜葉菜氏の最後の表情が “何となく”分かる映画になっています(笑)。噛めば噛むほど味が出てくる映画です。

菜葉菜:あ、それはいいね! 本当に何度も観ていただけたらうれしいです!

― まさに “スルメ映画”ですね! 本日は、貴重なお話をありがとうございました!

(取材:富田旻 インタビュー撮影:ハルプードル)

プロフィール

菜 葉 菜(なはな)

2005年、映画『YUMENO ユメノ』(鎌田義孝監督)で主演デビュー。以後、『夢の中へ』(05/園子温監督)、『孤高のメス』(10/成島出監督)、『ヘヴンズ ストーリー』(10/瀬々敬久監督)、『64-ロクヨン-』(16/瀬々敬久監督)、『百合子ダスヴイダーニヤ』(11/浜野佐知監督)、『ラストレシピ~麒麟の下の記憶~』(17/滝田洋二監督)、『後妻業の女』(16/鶴橋康夫監督)など多数の話題作に出演。12年には『どんづまり便器』(小栗はるひ監督)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭最優秀主演女優を、近作では主演作品『赤い雪 RedSnow』(19/甲斐さやか監督)で第14回Los Angeles Japan Film Festival 最優秀俳優賞を受賞した。他『モルエラニの霧の中』(21/坪川拓史監督)、最新作は『夕方のおともだち』(22/廣木隆一監督)、『ホテルアイリス』(22/奥原浩志監督)、『夜を走る』(22/佐向大監督)などがある。2022年は「クボタ」のCM出演がSNSで話題を集めたほか、同年10月10日より放送のNHK夜ドラ「つまらない住宅地のすべての家」に出演。


 好井まさお(よしい・まさお)

1984年4月27日生まれ。大阪府枚方市出身。芸人。
2007年、井下大活躍とともにお笑いコンビ「井下好井」を結成。
EX「アメトーーク!」出演やCX「人志松本のすべらない話」に出演しMVSを獲得。ドラマNetflix「火花」(16)を始め、TBS「せいせいするほど、愛してる」(16)、 TBS日曜劇場「小さな巨人」(17)、WOWOW「竹内涼真の撮休」(20)や、映画『PとJK』(17/廣木隆一監督)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17/廣木隆一監督)、『ザ・ファブル』(19/江口カン監督)、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(21/江口カン監督)に出演。俳優としても活動の幅を広げている。

作品・公開情報

▼『ワタシの中の彼女』(2022年/日本/69分)
出演:
第一話「4人のあいだで」菜葉菜、占部房子、草野康太
第二話「ワタシを見ている誰か」菜葉菜、好井まさお
第三話「ゴーストさん」菜葉菜、浅田美代子
第四話「だましてください、やさしいことばで」菜葉菜、上村侑

監督・脚本:中村真夕
企画:中村真夕、齋藤浩司 プロデューサー:浅野博貴
撮影監督:辻智彦  録音:菅沼緯馳郎、古谷正志
制作:姫田信也、紫木風太 グレーディング:池田圭
衣装:越中春貴 ヘアメイク:升水彩香
製作/配給:ティー・アーティスト
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
©️T-artist

『ワタシの中の彼女』公式サイト  公式Twitter

【STORY】第二話「ワタシを見ている誰か」
フードデリバリーのバイトをしている写真家のカズヤ(好井まさお)。ある晩、マンションに食事の配達に行くと、リモートワーク中の30代後半のOL・メイ(菜葉菜)が出てくる。自分は食べられないから、カズヤに注文した食事を食べてくれと泣きながら言うメイ。仕方なく玄関先で食べるカズヤ。何度かそのような注文が繰り返され、ある晩、カズヤはメイのマンションの部屋に招かれる。長年付き合っていた恋人に去られ、一人で食事が食べられなくなり、カズヤが食べる様子を見ることに癒しを見出すメイ。一方、配達をしながら写真を撮り、メイの姿を密かに撮っていたことを明かすカズヤ。
お互いに見つめ合うことで、コロナ禍の孤独を癒す二人の男女の姿を描く。

※2022年11月26日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー

  • 2022年11月25日更新

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