『パティ・ケイク$』-“掃き溜めのディーバ”の魂の叫びが胸を熱くする
- 2018年04月27日更新
23歳の主人公・パティが、貧困、家族のしがらみ、体型へのハラスメントなど数々の苦悩や困難を抱えながら、ラップの世界で成功する夢を追いかける青春物語。パティの編み出す言葉とパフォーマンスが、暗くなりがちな要素をスカッと吹き飛ばす。クライマックスのパワフルなラップシーンは圧巻の一言!
サンダンス映画祭で争奪戦となったという本作は、ジェレミー・ジャスパー監督の初長編作。劇中音楽もすべて監督のオリジナルだ。
抑圧された心の叫びをラップに乗せて
掃き溜めのような地元ニュージャージーで、酒浸りの元ロック歌手の母と、車いすの祖母と3人で暮らす23歳のパティ。彼女は、憧れのラップの神様O-Zのように名声を獲得し、この街から出ることを切望していた。お金もない、仕事も上手くいかない。その外見からダンボと嘲笑される日々。そんなパティにとって、ヒップホップ音楽は魂の叫びであり、観る者すべての感情を揺さぶる奇跡の秘密兵器だった。
ある日、フリースタイルラップ・バトルで因縁の相手を渾身のライムで打ち負かしたパティ。このことが、あきらめかけていた“スターになりたい”という気持ちに火をつける。そんな彼女のもとに、正式なオーディションへの出場チャンスが舞い込んできた--。
監督が一目で気に入ったパティ役女優
場末のバーで働く主人公パティを演じるのは、オーストラリア出身のダニエル・マクドナルド。この役のためにラップとニュージャージー訛りのトレーニングを積んだ彼女は、逆境のなか必死に生きるパティが乗り移ったかのような演技を見せる。新作『Dumplin’』では、ジェニファー・アニストンの娘を演じるという。ダニエルの人生もまた、シンデレラ・ストーリーと言えるだろう。
ジャスパー監督は、「パティのような人物にスポットライトをあてた映画はそう多くはありません。面白い親友役やおどけ役としてはあてはまるかもしれませんが」と前置きしたうえで、「パティがだれかということは明白でした」とキャスティングの理由を語る。そして、「ラップが第2の天性となったほど」と、素人だった彼女の上達ぶりも称賛している。
鳥肌が立つクライマックスは必見!
この作品は、パティと彼女の仲間たちが作ったグループ・PBNJが成功を目指す音楽映画である一方、親子3代の物語でもある。美容師の母親バーブは、飲んだくれでパティの稼ぎをあてにするいわゆる“毒親”。期せずしてグループのメンバーになった祖母ナナは、パティの味方だが、今は病気で介護が必要な身。その医療費を支払うのもパティの役目だ。
それでもパティにとって母も祖母も大切な人。良いところがひとつもないバーブが、少しだけ母親らしさを見せるのは、気乗りしないながらも娘に頼まれて、髪の毛を切るシーンだ。彼らが住む荒んだ町の雰囲気の対極に、そんな温かさや優しさがある。
パティの家族への愛情は、圧倒的なクライマックスで結実する。音楽の中に、彼女の生きてきた証が確かに存在することがわかったとき、それは感動の嵐となって押し寄せてくる。
ラップが苦手な人にも観てほしい
実は作品を観る前に不安なことがひとつあった。私はラップに興味がないのだ。致命的である。しかしそんな心配は、パティやPBNJのパフォーマンスの前に吹き飛んだ。ラップの上手い下手はわからなくても、リズムに身を任せていると体が自然に揺れ始める。思いの丈をぶつけ、毒や希望を内包した彼女の歌詞に、自分の心も解き放たれたような気がした。
ここで描かれるパティと家族、そしてその仲間の物語は、彼らの内だけで完結することはない。この作品の世界を体感した人の心に、「何かを突き破りたい」という思いを芽生えさせるだろう。
>>>『パティ・ケイク$』日本版予告編映像<<<
▼『パティ・ケイク$(パティ・ケイクス)』作品・公開情報
(2017年/アメリカ/109分/カラー/PG-12)
原題:PATTI CAKE$
監督・脚本・オリジナル音楽:ジェレミー・ジャスパー
出演:ダニエル・マクドナルド、ブリジット・エヴァレット、シッダルタ・ダナンジェイ、ママドゥ・アティエほか
字幕翻訳:田村紀子
提供:フォックス・サーチライト・ピクチャー
配給・宣伝:カルチャヴィル×GEM Partners
© 2017 Twentieth Century Fox
・『パティ・ケイク$』公式サイト
※2018年4月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
文:吉永くま
- 2018年04月27日更新
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