『花筐/HANAGATAMI』〜大林宣彦監督が自身を投影した、戦争と死に飲み込まれていく若者たちの葛藤と魂の物語〜
- 2017年12月16日更新
80年代を代表する青春映画の金字塔『転校生』『時をかける少女』等、数多くの作品を撮ってきた大林宣彦監督による “戦争三部作”の最終章。コマ落としや合成といった映像技術が駆使された”大林ワールド”も健在。檀一雄の同名小説をベースに、当時の若者たちが力強く生きる様を描き、美しさと泥臭さが混在した圧倒的な世界観が突きつけられる。舞台となった唐津の、幻想的な祭り風景も壮観だ。
12月16日(土)、有楽町スバル座他全国順次公開 ©唐津映画製作委員会/PSC 2017
【あらすじ】1941年。親元を離れ、佐賀県・唐津に暮らす美しい叔母(常盤貴子)の元に身を寄せることになった17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)。肺病を抱えた従妹の美少女・美那(矢作穂香)に恋心を抱きつつ、新たな地で、個性的な3人の学友と出会う。アポロ神のように雄々しい鵜飼(満島真之介)、虚無僧のような吉良(長塚圭史)、お調子者の阿蘇(柄本時生)たちだ。さらに、あきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)ら女友だちも加わり、“不良”なる青春を謳歌するようになる。しかし、戦争の足音は徐々に近づき、彼らもその渦に飲み込まれていく…。
『この空の花』『野のなななのか』に続く、 “戦争三部作”の最終章となる本作。しかし単純に「戦争反対」と叫んだりする作品ではない。若者が自分の生を生きようとする、その強い意志を描き切ることで、戦争の愚かさを伝えるのだ。登場する若者たちの、孤独と苦悩のエネルギーはすさまじい。熱のこもった内面をのぞかせる各人の演技が素晴らしく、若者たちの壮絶な生き様によって生まれるうねり、その奥からじわじわとメッセージが浮かび上がってくるようである。合成、コマ落とし、シークエンスなどを多用した大林ワールドも全開。圧倒的な映像がひたすら続き、やがて「当時、自分は軍国少年だった」という、大林監督自身の苦しみと悲しみが胸に響く結末へとつながっていく。
三島由紀夫も大いなる影響を受けたという檀一雄の同名小説「花筐」。若い頃、この小説を読んで衝撃を受けた大林監督は「映画化するのは終生の夢であった」と語っている。念願叶って映画化が決定、クランクインしたものの、大林監督はこのタイミングでがん告知を受けたため、病の苦痛と戦いながらの撮影となった。身を切られるような激しさがひしひしと感じられるのは、そうした日々が作品に投影されているからなのかもしれない。戦争のさなかにはなくとも、孤独や葛藤の中で生きることと無縁ではない現代。そんな時代を生きる私たちに通じる「己のあるべき生を求める壮絶さ」が、観客に勇気と共感を与えるはずだ。佐賀の海岸や大祭「唐津くんち」の壮大なる風景、そして個性的で見目麗しい女性たち。それらの美しさと、迫り来る戦争の恐怖との対比が胸に迫ってくる。本作は、観た者の「生きる姿勢」に大きな影響を与えるであろう、非常に重要な作品だ。
(2017/カラー/DCP/アメリカンヴィスタ/169分/PG12)
監督:大林宣彦
脚本:大林宣彦、桂千穂
音楽:山下康介
原作:檀一雄「花筐」(講談社・文芸文庫)
出演:窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、柄本時生、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子、
(以下登場順)村田雄浩、武田鉄矢、入江若葉、南原清隆、小野ゆり子、岡本太陽、根岸季衣、池畑慎之介、細山田隆人、白石加代子、大川竜之助、片岡鶴太郎、髙嶋政宏、原雄次郎、品川徹、伊藤孝雄 ほか
配給:新日本映画社
12月16日(土)、有楽町スバル座他全国順次公開
©唐津映画製作委員会/PSC 2017
文:市川はるひ
- 2017年12月16日更新
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