『女神の見えざる手』-“勝利依存症”の女性ロビイストの奇策とは? 予測不能の政治サスペンス

  • 2017年10月21日更新

裏切りや罠が日常茶飯事の世界で生きるロビイスト、エリザベス・スローン。銃規制法案を巡るロビー活動の熾烈な攻防と、勝利に固執する彼女の強烈な生きざまが描かれる。

『恋に落ちたシェイクスピア』や『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』のジョン・マッデン監督作。


手段を選ばない戦術が想定外の事態を招く

大手ロビー会社に務めるエリザベスは、ロビイストとしての腕を見込まれ、銃擁護派団体から仕事を依頼される。新たな銃規制法案に対し、女性の銃保持を認めるように働きかけ、廃案に持ち込んでほしいというのだ。彼女は信念に反する仕事はできないと言い放ち、部下とともに銃規制派のシュミットの小さなロビー会社に移籍する。

奇策を打ちながら形成を有利に進めていくエリザベスだが、巨大権力を持つ敵陣営の反撃により、彼女の過去のスキャンダルが暴かれてしまう。さらにスタッフに命の危険が迫るなど、事態は思いもかけない展開になっていく。

徹底した鉄の女ぶりに注目
ロビイストという職業は日本ではあまりなじみがないが、依頼主である利益団体のために、政党や議員、官僚などに働きかけ、政治的決定に影響を及ぼす活動を行う専門家を指す。

「ミス・スローン」と呼ばれ、ロビイスト界でも一目おかれるエリザベス。ワーカホリックの彼女は、戦闘モードの真赤な口紅、スーツ、ハイヒールを身に付け、眠る時間が惜しいため眠気止めの薬を服用している。友人も恋人も持たず、性欲を満たすために高級エスコートサービスを利用という徹底ぶりには唖然とするばかり。

若干線の細さはありながら、意志の強さを感じさせるクールな美貌を持つジェシカ・チャステインは、鋭い切れ者のエリザベス役に打ってつけだ。勝ちにこだわり続ける彼女への感情移入は難しい。だが、彼女がふと弱気になる瞬間、その空虚さや悲しさがこちらの心になだれ込む。

タイムリーな題材が「見えざる手」への懸念を呼ぶ
今回ロビー活動は、銃規制法案に絡むものだ。先日起こったラスベガスでの銃乱射事件もまだ記憶に新しく、銃擁護派に対して複雑な思いを抱かざるを得ない。ただ、ここでは擁護派も規制派も時に姑息に見える手段を繰り出し、世論に影響を与える。その様子を見ると、様々な「見えざる手」に操られることで、何か大切なものを見失うのではないかという懸念が湧いてくる。

頭脳派同士の息詰まる駆け引きや、疾走感にあふれるスリリングな展開が魅力の良質エンタテインメント。ラストのどんでん返しの先に見えてくる真実には、きっと言葉を失うだろう。新たなヒロインの誕生を見届けてほしい。

▼『女神の見えざる手』作品・公開情報
(2016年/フランス=アメリカ合作/132分)
原題:MISS SLOANE
監督:ジョン・マッデン
出演:ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ググ・バサ=ロー、ジョン・リスゴーほか
日本語字幕:松浦美奈
配給:キノフィルムズ
© 2016 EUROPACORP – FRANCE 2 CINEMA

●『女神の見えざる手』公式サイト

2017年10月20日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

文:吉永くま

  • 2017年10月21日更新

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