『マジカル・ガール』〜魔法少女からフィルム・ノワールへ。愛ゆえの欲望が悲劇を招く衝撃のストーリ〜

  • 2016年03月12日更新

日本アニメの魔法少女に憧れる白血病の娘とリストラされた父。心に闇を抱える人妻と、その元教師。交わるはずのない2つの愛とエゴが交錯し、やがて大いなる悲劇が訪れる。独創的なストーリーと予想を裏切るスピーディーな展開。無垢な魂と妖艶な世界観が溶け合ってゆく。多くの映画通をうならせた、スペインの鬼才カルロス・ベルムト監督、衝撃の劇場デビュー作。3月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー!
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

魔法少女になりたい娘、彼女の願いを叶えたい父親。そこに現れたのは、内なる悪魔を抱えた女。
アリシア(ルシア・ポジャン)は日本のアニメ『魔法少女ユキコ』に憧れる12歳。彼女の願いはユキコの本格コスプレをすること、そして白血病に負けず13歳まで生きること。アリシアの父ルイス(ルイス・ベルメホ)は、娘の最後ともいえる願いを叶えてやりたいけれど、失業中。一流デザイナーが作った高額すぎるコスプレ衣装はとても買えない。思いつめたルイスが宝飾店で窃盗を働こうと石を振り上げた瞬間、空から嘔吐物が降ってくる。それは上階に住む精神的に不安定な人妻バルバラ(バルバラ・レニー)のものだった。この出会いを機に、ルイスは娘の願いをかなえるため、裕福そうなバルバラをゆすって金を手に入れることを思いつく。やがてバルバラの恩師で暗い過去をもつダミアン( ホセ・サクリスタン)を巻き込み、4人の運命は、思わぬ方向に暴走してゆく…。


日本文化に精通したスペイン人、カルロス監督の奇妙かつ高尚な世界観
作品の面白さをお伝えしたくも、まず抑えきれないのが「この作品、日本通過ぎる…」という衝撃。主人公が夢中になる架空アニメ『魔法少女ユキコ』(セーラー・ムーン以前の、単身魔女っ子!)は、薄紫色のクリーミィヘアに、魔法少女には不可欠な魔法ステッキを携え、主題歌として流れるのはブレイク前のアイドル・長山洋子(現在は演歌歌手)のデビュー曲。しかもなんとなくアニメ主題歌っぽく聴こえてくる曲なのだ。この付け焼き刃とは思えないチョイスの絶妙さ。さらに作品中には、日本人でなければ気づかぬような細やかさで、さまざまな有形無形の日本文化が盛り込まれている(やはり、さまざまなインタビューでカルロス監督には「日本は第二の故郷」と語っている)。一方、妖しい人妻バルバラのテーマ曲ともいうべきカンテ(スペイン歌曲)『炎の少女』も情熱的で印象深い。日本とスペインの2つの血脈が絡まり合うかのような世界観は、奇妙ながらとても心地がいい。

善意あるエゴが、奇妙にかみ合い、ねじれてゆく。
無垢な少女の時代は短い。白血病で死の近くにいるアリシアは、無垢なまま生涯を終えるのだろう。かつて少女だったバルバラは、女になり、たくさんの哀しみを抱えた存在だ。アリシアの願いは「魔法少女になりたい」という子どもらしいもの。そしてそんな薄幸な娘の、最後の願いを叶えたいという父ルイスの望みもまた、(エゴでもあり)純粋なもの…。それなのに、本格コスプレ衣装が大人でも手が出ないほど高額という展開、すでに悪意ムンムンである。ここでもうイノセンスは黒くコーティングされ始めているが、人妻バルバラが絡んでいくこれ以降の展開は、あっちこっちへと地鳴りを響かせ転がってゆく。恐ろしいが、とても魅惑的なエピソードの連続。観ている間、この映画の内に入りこんでしまうと「なぜここでそんな運命が待ち構え、ひどい目にあうんだ!」と 身を引き裂かれるような理不尽さを感じるかもしれない。しかし観終わって一歩引いて外側から見れば、そこには見事なパズル、味わい深いフィルム・ノワールが確立されている。ああ、人間は哀しく罪深い。だからこそ人生は美しく輝き、生きることは面白いのだろうか…?


▼『マジカル・ガール』作品・公開情報
(2014年/スペイン/カラー/127分/シネスコ)
監督: カルロス・ベルムト
出演: ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン ほか
●『マジカル・ガール』公式サイト
配給:ビターズ・エンド
3月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー!
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©
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文:市川はるひ

 

 

  • 2016年03月12日更新

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