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『最愛の子』-3年前に誘拐された息子が母と慕うのは、犯人の妻だった
- 2016年01月16日更新
中国では、年間20万人の子どもが行方不明になっているが、その背景には国内に広がる経済格差や、昨年廃止が決定された一人っ子政策があるという。『最愛の子』は、そうした状況下で起こった実際の事件をもとに作られた。大切な息子を誘拐された両親、犯人の妻であり育ての母親。その双方の愛情の深さ、葛藤、苦しみの大きさに圧倒されるだろう。『ラヴソング』『ウォーロード/男たちの誓い』のピーター・チャン監督作品。
愛する子を奪われた親たちの慟哭
中国・深圳で暮らすティエンと3歳の息子ポンポン。ある日ポンポンが行方不明になる。ティエンと別れた妻ジュアンは必死になって息子を探すが、寄せられるのは報奨金狙いの偽情報ばかりで全く手がかりがつかめない。2人は誘拐当時の状況に後悔の念と罪悪感を抱きながらも、あきらめずに捜索し続けていた。
そして3年後、とうとう深圳から遠く離れた安徽省の農村に暮らすポンポンを見つけ出す。ポンポンを大切に育てていたのは、誘拐のことなど何も知らなかった犯人の妻ホンチン。彼女から半ば強奪する形で息子を取り返すが、6歳になった息子は実の両親を覚えておらず、大好きな「母ちゃん」と別れるのが嫌で泣き叫ぶ。
ホンチンはもう一人、捨て子であった「娘」も育てていたが、その子は児童施設に収容されてしまう。半年後、ホンチンは子どもを奪われた母として、わが子を探しに深圳にやって来る。
生みの親と育ての親、両者の深い愛情に違いはない
ここに被害者と加害者という二極構造は成り立たない。生みの親ティエンと育ての親ホンチンが、同じ言葉を発することからもそれは見て取れる。ティエンはインターネットを通じて「息子を買った」相手に、そして深圳に来たホンチンは眠っているポンポンを抱えるティエンに、「桃を食べさせないで、アレルギーだから」と訴えるのだ。自ら育てることができない息子への揺るぎない愛情に何ら違いはない。
ピーター・チャン監督は、ポンポンの「親」たちはもちろん、「行方不明児を探す会」の会長ハンや、リンチンの弁護士カオの繊細な感情まで丁寧に掬い取る。切ないシーンの連続に心が痛くなるが、彼らが抱える想像を絶する苦しみや悲しみが、これからのその人生を支える強さになると信じたい。
公開後の反響が刑法改正の後押しに
世界第2位の経済大国のもとで、慎ましい生活を送る市井の人々の姿を捉えた本作。ここではそんな中国が抱える問題が浮き彫りになるが、公開後、とくに児童の誘拐問題が注目集め、誘拐された女性や子どもを買う行為に関する刑法の改正に影響を与えたという。映画の底力を見た気がする。
▼『最愛の子』作品・公開情報
(2014年/中国・香港/カラー/130分)
原題:親愛的
英題:DEAREST
監督:ピーター・チャン
出演:ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、
ハオ・レイ、チャン・イー、キティ・チャン
配給:ハピネット+ビターズ・エンド
●『最愛の子』オフィシャルサイト
コピーライト:© 2014 We Pictures Ltd.
※2016年1月16日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー!
文:吉永くま
- 2016年01月16日更新
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