『モーターズ』〜「空回りで、ちょうどいい」不器用な40男の愛すべき日々を綴った、渡辺大知第一回監督作品〜

  • 2015年11月14日更新

うだつの上がらない40男が恋に落ちた…!どこともしれない郊外の工場で働く男たち、その日常をオフビート感覚でみせる出会いと別れの物語。主演に実力派俳優・渋川清彦。監督は、ロックバンド・黒猫チェルシーのフロントマンであり、映画『色即ぜねれいしょん』『くちびるに歌を』などで俳優として高い評価を得ている渡辺大知。本作はPFFアワード(ぴあフィルムフェスティバル)2014で審査員特別賞を受賞している。
11月14日(土)~11月27日(金)新宿武蔵野館レイトショー上映!全国順次公開
(C)2014 team モーターズ

不器用でお人よし、独身40男が抱いた淡い恋心。果たしてその行く末は…?
郊外の整備工場で働く冴えない男、田中(渋川清彦)は、同僚・村田(川瀬陽太)ら工場の仲間となんとなく楽しい日々を過ごしている。可愛がっている新入りのタケオ(犬田文治)は「工場を辞めバンドをやりたい」と田中に打ち明けるが、そんなタケオも田中は暖かく認めている。そんな折、フリーターの前田(前田裕樹)と化粧品会社で働くミキ(木乃江祐希)のカップルが、車の修理のため工場にやって来た。ミキに淡い恋心を抱いた田中は、ミキに去らないで欲しいという思いから、修理に必要な車のパーツを隠してしまう。田中はミキと交流を深めながら、同時に彼氏である前田とも友情を深めていく。どうやら前田とミキの仲は微妙な状態らしいとわかるが、果たして田中の恋心はどこに向かうのか…。

どこかにいそうな男たちの日常を暖かく描きつつ、出会いと別れの切なさも漂ってくる。
先輩後輩や同僚との男同士の心地よい関係。日本のどこかに、あるいはあちこちにこんな男たちがいるんじゃないかな、と思わせるゆるゆるとした日常が、最初から最後まで描かれている。なんとなく進んでいくような力の抜けた展開なのだが、出会いと別れという、ほろ苦い普遍的なテーマがきっちりと織り込まれている。また、郊外という設定のだっぴろいひなびたような風景が多く映され、暖かい目線の人間関係とは違う方面から、哀愁や寂しさを印象付けている作品だ。

不思議なバランス感覚と、渋川清彦の新たな魅力。
大学の卒業制作として撮影されたというだけあって、自由さや若さがほとばしっている。また、演技未経験者が重要な役どころで出演するなど、インディペンデント作品らしい要素もある。しかしそんな中で主人公が40男という設定であり、かつ演じているのが実力派俳優・渋川清彦というバランスが、なんとも不思議だ。しかもこの作品は、ベテラン俳優に頼りきることなく、むしろ新たなキャラクター性で渋川氏の魅力をみせてくれる。20代の学生の世界観の中で無邪気な役どころを演じる渋川氏もこの作品を楽しんでいるであろう。その空気が作品の味を濃くしているようだ。本作は俳優、ボーカリストであることを渡辺大知氏の監督作品として注目を集めているが、どちらかといえば、数多くの映画に親しみ、映画という存在そのものを愛してきた映画青年の匂いを感じさせる。「この時期」に「このメンバー」が集まったことが、この作品を輝かせているのだろうか。

▼『モーターズ』作品・公開情報
(2014年/83分/カラー)
監督・編集・音楽:渡辺大知
脚本:渡辺大知、磯龍介
出演:渋川清彦、犬田文治、木乃江祐希、前田裕樹 、川瀬陽太 ほか
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)2014 team モーターズ
『モーターズ』公式サイト
11月14日(土)~11月27日(金)新宿武蔵野館レイトショー上映!全国順次公開

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文:市川はるひ

  • 2015年11月14日更新

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