『ヒューマン・ハイウェイ <ディレクターズ・カット版>』〜社会派ニール・ヤングの、まさかの放射能コメディ!

  • 2015年09月13日更新

ミュージシャン、ニール・ヤングが300万ドルの自己資金を投じ、自らメガホンをとった反核ブラックコメディ。1982年に公開されたオリジナル版をテンポアップしたディレクターズ・カット版。ロックバンドDEVOが演じる核廃棄物処理場の作業員はナニかを帯びて赤く光り、デニス・ホッパーはキッチンで巨大なナイフを振り回す。ニール・ヤングは見事な顔芸で存在感たっぷりの演技を披露。もちろん歌あり音楽あり、モーレツギャグあり、お色気アリ、反核精神あり、濃ゆい演技あり、もうなんでもアリアリの、お得なノンストップ社会派コメディミュージカル。ついにこの作品を、このご時世、このタイミングで日本公開!9/12(土)~新宿シネマカリテほか、まさかの日本初上映・ぶっ壊れレイトショー! SHAKEY PICTURES (C) MMXIV


とある核廃棄物処理場のある田舎街で、のんきにハイに暮らす人々。
原発作業員(DEVO)が働く核廃棄物処理場のある街が、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を歌えないほど放射能で汚染されている中、ガソリンスタンドで働くオタクの自動車修理工、ライオネル(ニール・ヤング)はネイティヴ・アメリカンと一緒に歌ったりコンサートを開く白日夢を見ている。隣接するダイナーのコック、クラッカー(デニス・ホッパー)はエキセントリックでいつもナイフをもてあそんでいる。原子力発電所の休憩室で歌謡コンテストが開かれるので、出場するウエイトレスは浮かれている。父親が亡くなり、新たにダイナーのオーナーに就任した二代目は、経営を立て直すふりをして、リーダー格のウエイトレスつるんでとデタラメな作戦を立てている。こうして今日も楽しい1日が過ぎていくと思いきや、ついに原発事故が勃発、地球に異変が…。

コッテコテに敷き詰められたおふざけ。もちろんロックなライブシーンも!
事前台本がなく、後日、出演者が口を揃えて「どんな作品なのか内容は全く覚えていない」と言ったという逸話がある本作。しかし、こののんきでゴキゲンなキャラクターたち、やることなすこと楽しそうで見飽きることなく、テンポ良くみっしり敷き詰められたギャグは実に緻密で職人的。ドリフ世代にはたまらない体を張ったボケや、いつまでも見ていたくなるネットリした顔芸には、始終ツッコミを入れたくなる。そしてやはりなんと言っても見どころは音楽シーン!繰り返し挿入されるのは、トラディッショナルフォークが原曲の『ウォーリード・マン・ブルース』。そのキャッチーでスピーディーなフレーズは心地よく、映画を観終わった後も耳に残る。さらに若きニール・ヤングが突如本気を出して自身の代表曲『Hey Hey, My My』をDEVOのメンバーと一緒に演奏するシーンも。ここでもなぜかDEVOのマスコットキャラであるブージー・ボーイが大活躍…音だけでなく視覚的にもアクが強く、しっかりと脳裏に焼き付けられるだろう。

現在の日本で「いや、これ笑えない…」と、ついつぶやくもよし。
最近も遺伝子組換え食品への姿勢を明らかにしたばかり、今も昔も社会的意識の高いニール・ヤング氏。こんな体をとってはいても本作はれっきとした反核映画なのだ。スリーマイル島原子力発電所事故は1979年に起こり、本作オリジナル版の公開は1982年。そして今、おバカ映画のスタイルをとことん貫いたこの物語を、日本人であるわれわれがしっかり楽しむことには、深い意義があるに違いない。劇中、陽気なDJに「今日の放射線量は当局の規定する範囲内、だから今日1日を楽しんで!」とか「政府が戦争の危機が昨日より増したと発表、詳しくは後ほど!」なんてこと言われて、ヒヤリとしたりニヤリとするのも、ある意味痛快なり…。



▼『ヒューマン・ハイウェイ <ディレクターズ・カット版>』作品・公開情報
2014年(オリジナル:1982年)/アメリカ/80分/カラー/スタンダードサイズ
原題:HUMAN HIGHWAY(人間の道)
監督:バーナード・シェイキー(ニール・ヤング)
出演:ニール・ヤング、ラス・タンブリン(『ウエスト・サイド物語』)、ディーンストックウェル(『パリ、テキサス』)、DEVO(マーク・マザーズボウ、ジェラルド・V・キャセール、ロバート・マザーズボウ、ロバート・キャセール、アラン・マイヤース)、ブージー・ボーイ、デニス・ホッパー、シャーロット・スチュワート、サリー・カークランド、ジェラルディン・バロン
脚本:バーナード・シェイキー、ディーン・ストックウェル、ラス・タンブリン、ジェームズ・ビシアーズ、ジャンヌ・フィールド
●『ヒューマン・ハイウェイ <ディレクターズ・カット版>』公式HP
提供・配給:キングレコード 宣伝:ビーズインターナショナル 配給協力:アーク・フィルムズ
9/12(土)~新宿シネマカリテ(レイトショー)公開ほか
SHAKEY PICTURES (C) MMXIV
文:市川はるひ

  • 2015年09月13日更新

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