「パラダイス3部作」-図々しい裸体とぞんざいな愛撫が同居する欲望の天国

  • 2014年03月11日更新

3人のオーストラリア女性が経験したバカンスを描くウルリヒ・ザイドル監督『パラダイス三部作』。3つの物語は刺激的だ。50代の白人シングルマザーがアフリカ・ケニアで現地青年とのセックスにのめりこむ『パラダイス:愛』、イスラム教徒を夫に持つキリスト教徒が過剰なまでにイエス・キリストに愛情を向け、救いを求める『パラダイス:神』、ダイエット合宿で父親ほどの年の差のある男性に初めての恋心を抱く女子学生を描く『パラダイス:希望』。オーストリア、ウルリッヒ・ザイドル監督はフィクションをドキュメンタリーの手法で撮るため、架空の物語でありながら、登場人物から生々しく激しい欲望が浮かび上がらせる。2012年カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、2013年ベルリン国際映画祭と世界三大映画祭のコンペティション踏破した3部作。



気づいてしまった欲望。止められない欲望
中年でデブだけど、(セックス含む)本当の恋をしたいテレサ、夫はイスラム教徒だけど本気でイエス・キリストを愛しているアンナ・マリア、ダイエット合宿で父親くらいの年齢の先生に出会い、初エッチを考えてしまう、中学生メラニー。口にするのもためらわれるから、一度踏み込んでしまえば、もう止まらない欲望。過剰な欲望を抱えて突き進んだ彼女たちが、パラダイス(天国)で欲望を満たした後に待っているのはものはなにか?2012年カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、2013年ベルリン国際映画祭と世界三大映画祭のコンペティション踏破した3部作。



愛を求める図々しい裸体と金を求めるぞんざいな愛撫が同居する欲望天国。
ウルリヒ・ザイドル監督の映画製作メソッドはユニークだ。プロの俳優とアマチュアの両方を起用し、脚本を持ち込むことなく即興で撮影する。その結果、予期せぬリアリティが物語に食い込んでくる。『パラダイス・愛』では中年女性が恋人とベッドで過ごす愛に満ちた幸福な瞬間、でっぷりと脂肪を蓄えた中年女性の裸体が映し出される。若い黒人男性の甘いささやきが吹き飛ぶようなゆるぎない図々しいまでのリアリティだ。図々しい裸体を前に「愛している」という甘いささやきをしているアマチュアの青年の愛撫はあまりにも素朴でぞんざいでやらされている感じが満載だ。太った裸体とぞんざいな愛撫が同居する愛の天国の姿をザイドル監督は冷徹にとらえる。金を出して「愛している」という甘いささやきを味わってしまった図々しい裸体はいよいよ「本当の愛-無償の愛」を求め、ケニアの若者は「金の回収作業」を加速させる。愛の天国はどこにいきつくのだろうか?
欲望は個人的でひとりよがりだ。相手が存在していたとしても、相手がどうリアクションするかどうかを欲望は考えない、むしろ欲望を持つことによってその思考は停止させられる。ザイドル監督は欲望にまみれさせることによって、個人の欲望と世間との折り合いのつかない姿をより鮮明に浮き彫りにしていく。フィクションといいながら、鮮やかに現実そのものを普遍的にとらえる恐るべきザイドル作品。この際、三作一気に観てしまおう。もしこの作品の主人公に共感するのであれば、あなたも実は欲望の天国の住人なのかも?



▼パラダイス3部作 作品・上映情報
『パラダイス:愛』
2012年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/120分
原題PARADISE: Love
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング

『パラダイス:神』
2012年ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞/113分
原題PARADISE: Faith
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:マリア・ホーフステッター、ナビル・サレー

『パラダイス:希望』
2013年ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品/91分
原題:PARADISE: Hope
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:メラニー・レンツ、ジュセフ・ロレンツ

配給:ユーロスペース
ユーロスペースほか、全国順次ロードショー
© Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema

文:白玉

  • 2014年03月11日更新

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