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『ホーリー・モーターズ』-レオス・カラックスが惚れぬいた唯一無二、ドニ・ラヴァンの「行為の美しさ」
- 2013年04月19日更新
『ポーラX』から13年ぶりのレオス・カラックス監督待望の新作長編となる『ホーリー・モーターズ』。 早朝、“オスカー”なる人物(ドニ・ラヴァン)は白いストレッチリムジンに乗り込み、ファイルを見ながら「今日のするべき行為」を確認していく。平凡な父親から異常な殺人者、時にはバーチャルな怪物の動きを作り出すためのモーション・キャプチャーのスペシャリストなど様々な役を演じていく“オスカー”。演じ続ける彼を突き動かす原動力を問われて“オスカー”は『行為の美しさ』と答える。彼の身体に宿る様々な『行為の美しさ』を夜明けから深夜までたどるSFでありファンタジーなものがたり。渋谷・ユーロスペースにてロードショー 他全国順次公開© Pierre Grise Productions
白いリムジンに乗って「今日するべき行為」を確認する。ムッシュー・オスカーの一日が始まった。
作品は映画館の中から始まる。エティエンヌ=ジュール・マレーの撮影した裸の男の映像を観る観客がずらりと着席している。隣の部屋で寝ていたレオス・カラックスは物音に気付き、秘密の扉から顔の見えない観客であふれる劇場に入り込む。スクリーンは“オスカー”を映し出す。早朝、“オスカー”なる人物はセリーヌという美しい女性が運転するストレッチリムジンに乗りこみファイルを覗きこむ。ファイルには「今日するべき行為」が綿密にまとめられている。物乞いの女、モーション・キャプチャーのスペシャリスト、平凡な父親、異常な殺人者。次から次へと化粧鏡の前でこしらえをし、見事なまでに演じる“オスカー”。小柄な男の中に様々な全く新しい生命が宿り、人生を生き直しているような“オスカー”は次第に演じることに疲労を覚えていく。目の前にボスが現れ「君の仕事には満足している。仕事の言動力とはなにか?」と訊ねると“オスカー”は「行為の美しさ」と答える。オスカーを乗せた白いリムジンはオスカーを待つ次の役を演じる現場に向かってパリを走る。人間の体から生まれる「行為の美しさ」を“オスカー”なる人物を通じてたどるSFでありファンタジーなものがたり。
人間の行為の美しさはレオス・カラックス監督本人の聖なる原動力(ホーリー・モーターズ)
長編は実に13年ぶりというレオス・カラックスの新作『ホーリー・モーターズ』。「今日、生きていることとは何なのか?」と作品を通じて問いかけるレオス・カラックス監督は、映画の主人公をSF世界の住人に設定することでさまざまな年齢、さまざまな人間を描いていく。どんな心や立場を持った役にも、もれなく体というものはついてくる。多くの映画やドラマは、考え方やキャラクターなど目に見えないものを表現するために身体を存在させ、身体を使う。モーション・キャプチャーのように、目に見えないバーチャルな世界を描くために人間の動きだけを取り出すことだってある。しかし作品中で“オスカー”は仕事の言動力を目に見えないものではなく「行為の美しさ」そのものだと答えている。レオス・カラックス監督自身『映画作家は、画家と同じように人間の身体や顔を見ることを好みます。走っている人間の体、泣いている体、セックスをしている体など、何より人間の身体を見るのが好きです。』と語っているように人間の行為の美しさはレオス・カラックス監督本人の創作原動力でもある。“オスカー”が一日の間に行う『美しき行為』こそ、この映画の聖なる原動力(ホーリー・モーターズ)なのだ。
ドニ・ラヴァンはレオス・カラックスが惚れぬいた唯一無二の「行為の美しさ」
20年以上もレオス・カラックス監督と共に映画を作り続けた、ドニ・ラヴァンは実にこの映画の中で11役をこなしている。その11役どれもが同じ肉体からくるものだということに驚かされ、これほどまでに人間の想像力に沿った自由自在に動く肉体があること驚かされる。中でもレオス・カラックス監督の短編が収録された『TOKYO!』に登場する下水道の怪物メルドの動きに注目。東京で大暴れしたあのメルドが再びパリに出現する。“オスカー”の役をドニ・ラヴァン以外が演じることがあるか?という問いに、レオス・カラックス監督は「もしドニに断られていたら、ロン・チェイニー、チャップリン、もしくはピーター・ローレ、ミシェル・シモンにオファーしていたでしょう。」と答えている。現代に生きるレオス・カラックスが惚れぬいた唯一無二の「行為の美しさ」をじっくり見つめて欲しい。
▼『ホーリー・モーターズ』作品・上映情報
2012年/フランス・ドイツ/フランス語/115分/カラー
原題:HOLY MOTORS
監督・脚本:レオス・カラックス
撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カープ
キャスト: ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、
カイリー・ミノーグ、ミッシェル・ピコリ
配給:ユーロスペース
提供:ユーロスペース、キングレコード
4月6日(土)ユーロスペース、シネマカリテほかにて全国順次ロードショー
© Pierre Grise Productions
文:白玉
- 2013年04月19日更新
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