『明日(アシタ)の空の向こうに』-子どもたちは国境の先にある幸せを夢見て走る。
- 2013年01月25日更新
2011年、日本で公開されたミニシアター系映画で最大のヒット作となった『木洩れ日の家で』。その監督であるポーランドの名匠ドロタ・ケンジェジャフスカの新作であり、第61回(2011年)ベルリン国際映画祭でジェネレーション部門グランプリと平和映画賞を受賞した『明日(アシタ)の空の向こうに』が、1月26日(土)からシネマカリテほかで公開される。住む家も食べ物もない孤児3人が、幸せな明日を探して過酷な冒険の旅に出る物語。あの手この手で困難を乗り越える彼らの逞しさと、その純粋な愛らしさに多くの人が魅了されるだろう。
過酷な状況を脱するため、子どもたちは国境を越える決意をする
現代。ポーランドと国境を接する旧ソ連某国の貧しい村。幼い3人の孤児、ヴァーシャとペチャの兄弟、その友達リャパは、住む家もなく鉄道の駅舎で寝泊まりし、物乞いや盗みをしながら毎日を過ごしていた。彼らは、「外国に行けばきっといい暮らしができる」と信じ、国境を越えようと大きな冒険の旅に出発する。だが、困難や試練にも負けず国境を越え、ポーランドの田舎町に辿り着いた3人を待っていたものは、思い描いていた“幸せ”ではなく、厳しい現実だった。
ペチャの愛らしさに大人たちも骨抜きに
子どもを主人公にした作品は数多いが、ケンジェジャフスカ監督がとらえる子どもたちの輝きは傑出している。食べるものにも事欠き、大人が道端に捨てた吸殻を口に加え、身なりもぼろぼろの3人だが、彼らのいきいきとした表情は少しもみじめさを感じさせない。主役のヴァーシャとペチャの兄弟を演じたのは、実の兄弟である10歳と6歳のエウゲヌィ・ルィバとオレグ・ルィバ、そして友人リャパ役は11歳のアフメド・サルダロフ。あまりにも素晴らしい自然な演技に有名な子役かと思いきや、全員演技は初体験とのこと。特にペチャ役のオレグは、ぶかぶかの服やつぶらな瞳が『キッド』のジャッキー・クーガンを彷彿とさせる。
旅の途中で大人たちに媚を売って同情を引き、食べ物を恵んでもらう術はペチャのお手の物。物売りのおばさんやリャパの知り合いの老人、結婚したばかりの花嫁、ポーランドの田舎町の警察官など出会う人々を魅了する。愛らしさと狡猾さ、その生命力は驚くほどだ。
電流が流れていると思われる金網をどうにかくぐり抜け、ポーランドに辿り着いた後、鳥が舞う広い空を見上げながら兄ヴァーチャは言う。「これからは俺たちの空だ」。この時の3人には、言葉もほとんど通じないポーランドで生きる不安はかけらもない。この笑顔がずっと続いてほしいと願わずにはいられない。
新しい一歩を踏み出す物語
エンドクレジットにかかるロシアの歌“鶴は翔んでゆく”はどこか郷愁を誘い、もの悲しい。だが、心に残るのは悲壮感ではなく、少年たちの屈託のない笑顔。国境を超えるという大冒険をした彼らは、将来きっと自分の道を見つけられる。これは“可哀想な子どもたちの悲しい物語”ではなく、“希望を持った子どもたちが明日への一歩を踏み出す物語”なのである。
▼ 『明日(アシタ)の空の向こうに』作品・公開情報
2010年/ポーランド・日本合作/カラー/118分
監督・脚本:ドロタ・ケンジェジャフスカ
製作・撮影監督:アルトゥル・ラインハルト
音楽:「鶴は翔んでゆく」アルカディ・セヴェルヌィ(1974・1978年録音)
ミハル・バイディヤク、ホンザ・マルティネク
出演:オレグ・ルィパ、エウゲヌィ・ルィパ、アフメド・サルダロフ
配給:パイオニア映画シネマデスク
宣伝協力;ブラウニー
© Kid Film 2010
●『明日(アシタ)の空の向こうに』公式サイト
※2013年1月26日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
文:吉永くま
- 2013年01月25日更新
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