くだらないことの積み重ねがちょっとした出来事で深い意味を持つ日常を-『ももいろそらを』小林啓一監督インタビュー

  • 2013年01月12日更新


女子高校生のいづみはある日、大金の入った財布を拾うがお金に困っている印刷屋にお金を貸してしまう。一方、財布の持ち主の写真に一目ぼれした友人の蓮実は財布を返しに行くと言ってきかない。いづみは困りながらも蓮実、薫を連れて財布の持ち主である佐藤に会いに行く。東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞、スペインのヒホン国際映画祭にて日本映画初のグランプリを受賞した『ももいろそらを』は16歳の日常がテンポよく転がるように変化し最後まで観る者を惹きつけ続ける。ステレオタイプではない悩める人間としての女子高生を描く小林啓一監督にたっぷりとお話を伺いました。2013年1月12日(土)より 新宿シネマカリテ ほか全国順次ロードショー。


受賞を伝えられた時は実感がありませんでしたが、お酒を飲んでいるうちに実感がわいてきました

-ヒホン国際映画祭グランプリおめでとうございます。

(小林啓一監督、以下小林):映画祭にはうかがっていませんでしたが、発表の前日、(原田)プロデューサーに(グランプリ受賞の)メールが来ました。ヒホン国際映画祭は周りが強敵のようで、6時間の議論の末に(グランプリが)決まったそうです。受賞を伝えられた時は実感がありませんでしたが、お酒を飲んでいるうちに実感がわいてきて、ひょっとしたらすごくない?という感じで話していました。

-海外の映画祭でなく東京国際映画祭のある視点部門で作品賞を受賞されています。

小林:(東京国際映画祭は)取らなければならないと思っていました。取らなきゃ駄目だと思っていました。ですから、受賞できて良かったです。

蓮実(小篠恵奈さん)から「佐藤のことが好きな蓮実の詩」を書いてもらっていました

-二ヶ月間のリハーサルを経て撮影をされたと伺いました。リハーサルはどのような内容だったのでしょうか。

小林:演技経験の少ない出演者にはテレビでよく見るシーンを演じさせていました。例えば、ためてものを言うとか、突然思いだして「ああ!」というとか。日常生活にはない動作を演技させるとどうしても「演技をしています」というオーラが出てしまいます。その(オーラを)取る作業をしました。それから、演じる役の人物の考え方を理解してもらう訓練をしました。発想の仕方ですね。(その人物が)どういうアプローチでものを見るのかという練習をしてもらいました。例えば蓮実(小篠恵奈さん)には毎回、「佐藤のことが好きな蓮実の詩」というのを書いてもらっていましたね。

-携帯でコミュニケーションを取る女子高校生が一般的な今、新聞というアナログな媒体を読んでそこに点数をつけるといういづみという女子高校生が登場します。

小林:特にアナログを意識したわけではなく、面白いと思って書いたものです。演じている彼女達も面白いと言っていました。高校生は普段から携帯でニュースを読んだり、2チャンネルを見たりしているので、(文字を読むことには)慣れています。(媒体が)新聞に変わっても抵抗はないようでした。ただ、いづみ役の池田愛さんは毎日学校で新聞を読んで採点をしてということをやっていたので周りの人から可笑しいんじゃない?といわれていたみたいです。

2チャンネルやネットで発言する、「的を得ているけれどズレている人」を具現化したかった

-新聞を読む高校生いづみに込められた監督の思いというのをお聞かせ下さい。

小林:2チャンネルとか、ネットで色々言っている人がいますよね。社会に対して一人前のことを言っていて、なんとなく的を得ているけれど、なんとなくズレている人がいますが、そういう人を具現化するにはどうすればいいのかなと思っていました。新聞はその内容を全て信じている人と内容に批判する人の両方がいる媒体です。信頼度が不安定という点でちょうどいいかなと考えました。自分達が信じてきたものが崩れてきている時代、いづみはアナログ(新聞)にしがみついているというのはあると思います。そういう時代だから自分を変えていかないと追いつけないですよね。

くだらないことを言っていることの積み重ねがちょっとした出来事で深い意味を持つのが日常

-テンポ良く転がるように物語が進んでいく作品です。

小林:テンポは半歩前を歩くように意識していますね。いづみという人を追っていくと面白いことに出会うというスタンスで脚本を書いて、撮影もしています。日常生活はポンポン喋っている人が多いのに、そこが描かれていないことにフラストレーションを感じていました。映画の中では、ものを語る人がいないとか、もしくは語り始めると熱いことしか語らないことが多いですよね。もうちょっとくだらないことを言っていてもいいかなと。くだらないことを言っていることの積み重ねがちょっとした出来事で深い意味を持つのが日常ではないかと。そういうアプローチをしてもいいかなと思いました。

「女子高生というのはこんな感じ」そんなステレオタイプではない人をピックアップしたい

-作品をモノクロにしたというのはどのような理由からでしょうか。

小林:「過去になってしまう今」を意識していきましょうというのがテーマとしてあります。冒頭に2035年にいづみが過去を振り返ります。2035年という年から見たら(2012年は)過去なので白黒でもおかしくないわけです。じゃあ今、白黒にしてしまえと。ひとつ、自分の中でもやもやしているものがありました。それは一人の人間が抱える悩みやコンプレックスというのは(人生を通じて)ずっと変わらないのではないかということです。(外からみると)悩みは世代によって変化をするように見えます。しかし若い時も大人になっても、悩んでいることに大差はないように思えて、未来のいづみと過去のいづみでは「(悩みというのは)あんまり変わらないんだよ」と言いたかったのです。

-悩みは女子高生だから、社会人だからといった世代で決められるものではないということですね。

小林:そこで壁を作らないで、偏見でものを見なくなったらいいなと思っています。日本映画はステレオタイプにものを作りすぎている感じがします。女子高生というのはこんな感じ、サラリーマンと言ったら、エリートがいて、ダメな人がいて。中間がいない。(中間には)サラリーマンでも、もっと元気な人はいるのに、なんでそこをピックアップしないのかなと思います。極端にふれていない中間の人数のほうがずっと多いはずですし、その人たちが社会を支えていますから。

 

<恒例の靴チェック>
小林監督のシューズは男前なレザーシューズ。

「ももいろそらを」はモーションギャラリー(クラウドファンディング)にて配給資金を募集しています。
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詳細はこちら→ http://motion-gallery.net/projects/momoiro
(※現在は終了しています)

▼『ももいろそらを』作品・上映情報
日本/2011年/113分
監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:池田愛 小篠恵奈 藤原令子 高山翼 桃月庵白酒
製作:michaelgion
プロデューサー:原田博志
マネージメント:宮崎紀彦
製作担当:松島翔
録音:日高成幸
題字:土屋浄
配給・宣伝:太秦
配給協力:コピアポア・フィルム
コピーライト:(C)2012 michaelgion All Rights Reserved.
『ももいろそらを』公式サイト

※2013年1月12日(土)より新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー

 

文、編集:白玉 スチール撮影:篠原章公

  • 2013年01月12日更新

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