『エレベーター』 - 密閉空間に閉じ込められる恐怖の中、人間の本性が剥き出しになる。
- 2012年09月18日更新
当然ながら、閉所が苦手な人におすすめできる映画ではない。狭く密閉された空間はほぼ満員状態。登場人物の一人は極度の閉所恐怖症で、その神経の昂りや緊張感にこちらまで息苦しくなる。そのうえ、あと少しで爆発する時限爆弾もエレベーターの中にあるという……。日常頻繁に使用するエレベーターで起こる恐怖は他人事ではない。
爆弾が持ち込まれた高速エレベーター。
ウォール街に立つ超高層ビルの最上階で、投資会社CEOかつビルの所有者、ヘンリー・バートン主催の豪華パーティーが始まろうとしていた。1台のエレベーターにパーティーへと向かう老若男女9名が乗り込んだ。しかし、順調に動き出したはずのエレベーターは、地上200メートルの高さで緊急停止。はじめは「すぐに動くだろう」と軽く考えていた乗客たちだが、いつまで立っても動かず救助も来ない状況に徐々にいらつき始める。そのうち乗客のうちの一人から、「時限爆弾を持っている」という衝撃的な告白が。インターフォンもつながらず、逃げる場所もなく、死への恐怖でパニック状態になった乗客たちだったが、必死に脱出方法を考え始める。
この閉ざされた狭い空間は、さながら社会の縮図のようだ。長時間エレベーターに閉じ込められるという状況下、経済的格差、人種間の軋轢、パートナーへの裏切りなどの問題が徐々に露呈してくる。普段腹の底に隠している鬱憤の爆発は、乗客の心をさらに尖らせ、不穏な雰囲気を増す。そんな中、どんなに追い詰められても、脱出しようと血眼になる人々の生存本能に圧倒される。
過去の名作を意識。
本作のノルウェー出身のスティグ・スヴェンセン監督は、アルフレッド・ヒッチコックの『救命艇』やシドニー・ルメットの『十二人の怒れる男』を意識したという。この2作に通じる隔絶された場所での息詰まる駆け引きや運命共同体のような感覚、そして前者に見られる極限下での恐怖や狂気は、確かにこの作品にも共通するものがある。
爆弾とともにエレベーターに閉じ込められた乗客は、自分たちを守るために、平常時なら絶対に行わない非人間的な行為にも手を出す。人間として生き延びるための手段が、人間らしさとかけ離れた行いであることの矛盾。だが、そんな人々を真っ向から否定することはできない。彼らの「生きることへの執着心」に強く共感するからだ。
それにしても、これからエレベーターに乗るたびに、無意識に脱出口を探してしまうかもしれない。
▼『エレベーター』作品・上映情報 ELEVATOR 2011年/アメリカ/84min/カラー 監督:スティグ・スヴェンセン 脚本・製作:マーク・ローゼンバーグ キャスト:クリストファー・バッカス、アニタ・ブリエム、ジョン・ゲッツ、シャーリー・ナイト、マイケル・マーキュリオ、アマンダ & レイチェル・ぺイス、デヴィン・ラトレイ、ジョーイ・スロトニック、ターミナ・サニー、ワリード・F・ズワイテル 配給:ミッドシップ、シンカ 提供:ミッドシップ、シンカ、パルコ コピーライト:© Quite Nice Pictures 2011 All Rights Reserved. ●『エレベーター』公式サイト ※9月29日(土)シネクイントにてレイトショー公開! |
文:吉永くま
- 2012年09月18日更新
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