『シーソー seesaw』― ささやかな日常を抱きしめたくなる、せつない愛の寓話。
- 2012年06月29日更新
シーソーは2人でバランスを取って乗る遊具。浮遊と着地を繰り返す動きはとても単調なものだけれど、そこには相手の確かな重みが存在する。2010年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭ほか世界10カ国の映画祭で上映され絶賛を受けた『シーソー seesaw』は、都会に暮らす若いカップルの揺れ動く感情や、微妙な気持ちのズレを描いた恋愛ドラマだ。手持ちカメラと即興演出で切り取られた風景は生々しく繊細でありながら、時に白昼夢のような雰囲気を漂わす。
日本語教師の真琴(村上真希)は、恋人の伸司(完山京洪)と同棲を始めて2年。たくさんの友人に囲まれ、仕事も充実している。友人の結婚に影響された伸司からは結婚話をほのめかされるが、真琴はまだまだ自分のことで頭がいっぱい。どこか夢見がちな伸司の言動に少し苛立ちを覚えている。しかしそんなある日、自分が妊娠していることに気づき……。穏やかな日々のなかで少しずつ傾いていく関係。しかしそれは、思わぬ出来事で一気にバランスを失う。
胸をえぐるような喪失感を通して見える、ささやかな日常のきらめき。
慣れ親しんだ空気、いつもそばに在る温もり。手を伸ばせばすぐに触れることができるもの。いつしか日常になった風景に少しだけ愛を忘れてしまった真琴。しかし、当たり前だと思っていた日々が一変する……。主演を務めるのはモデルとしても活躍する村上真希。この作品がスクリーンデビューとは思えないほどの瑞々しい演技で、真琴の深い喪失感と行き場のない悲しみ、そして再生を体現する。そんな村上の魅力を見出したのは俳優としてキャリアを積みながら、本作が監督デビューとなる完山京洪。自ら伸司役を演じ、脚本と製作も手掛けただけでなく、宣伝配給費の一部を一般から募るクラウドファンディングと呼ばれるプロジェクトを展開したことも一部で話題となった。
胸をえぐるようなせつない愛の寓話を通してあらためて気付かされる、ささやかな日常のきらめき。映画館を出たあと、いつもと変わらぬ景色が少しだけ愛おしく見えるに違いない。
▼『シーソー seesaw』作品・上映情報
2010/日本/70分
監督・脚本・製作:完山京洪
撮影・編集・製作:西田瑞樹
音楽:hidekatsu, TRACK MAGIC
出演:村上真希/完山京洪/SoRA/岡慶悟ほか
ロゴ&グラフィックアートディレクション:ドローイングアンドマニュアル
配給・宣伝:VESUVIUS ヴェスヴィアス
コピーライト:(C)Cinepazoo & Helpless Lunch
●『シーソー seesaw』公式ホームページ
※2012年6月30日より、ヒューマントラストシネマ渋谷にて2週間限定レイトショー
文:min
- 2012年06月29日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2012/06/29/seesaw/trackback/