『君を想って海をゆく』
- 2010年12月14日更新
2008年2月、イラク国籍を持ったクルド難民の少年がある決意をした。
17歳のクルド難民ビラル(フィラ・エヴェルディ)は、イラクから3ヶ月間歩いてフランス最北端の地「カレ」にたどり着く。彼の最終目的は、海峡を渡ってロンドンに住む恋人のミナに会うこと。難民であるビラルは、正規の手段でイギリスに行くことは出来ない。カレの港では、ビラルと同様にイギリス渡航を望む多くの難民が生活していた。ビラルは仲間と共に密航を試みるが、失敗に終わる。母国への送還を免れた彼は、英仏海峡を泳いで渡ることを決意したのだった。
フランス人のシモン(ヴァンサン・ランドン)はかつて水泳選手だったが、今は市民プールのコーチをしており、別居中の妻とは離婚調停中の身。そんなシモンに、ビラルがクロールのコーチを依頼してきた。ビラルの目的を知ったシモンは、真冬の海峡を泳いで渡るのは無理だから諦めるよう忠告する。しかし、シモンの言葉を聴きいれようとせず、ビラルは練習を続けるのだった。しかたなく彼を手助けするシモンだったが、実のところ、その目的は、難民支援活動をしている妻の心を取り戻すためだった。しかし、やがてシモンとビラルの間に父子にも似た感情が芽生えるようになってくる。不法入国者に手を貸すことは犯罪行為だと警察に忠告をうけても、シモンはビラルへの手助けをやめなかった。
果たしてビラルは海峡を泳ぎ切って、無事にイギリスの地を踏むことは出来るのだろうか。そして、ロンドンにいる恋人に会えるのだろうか。
難民問題 ― 現在、難民として、また受け入れ側として、この問題に直面している人々が世界中にいる。日本で暮らしていると難民に対する意識が浅くなるせいか、彼らの苦悩を目の当たりにして戸惑うと同時に、どうしようも出来ない現実にもどかしさを感じずにはいられない。しかし、国籍や年齢が異なっても、人を好きになる感情や人を思いやる心は共通していると再確認することが出来る。
また、中年男性と少年が繰り広げる親子の関係にも似たやりとりを見ていると、心にあたたかいものがこみ上げてくる。フィリップ・リオレ監督が「娯楽としての映画の役割を果たすだけでなく、観客の意識を目覚めさせることも出来るのではないかという期待を抱いています」とコメントしている通り、この作品は、観る人それぞれが、今まであまり身近でなかった問題について考えるきっかけを与えてくれるだろう。「イギリスとフランス間なんて、電車(ユーロスター)で3時間くらいだから近い」と思われているが、そういった簡単な手段を使うことができない状況に置かれている人もいる、という事実をぜひ知っていただきたい。
▼『君を想って海をゆく』
作品・公開情報
フランス/2009年/110分
原題:”WELCOME”
監督・共同脚本:フィリップ・リオレ
出演:ヴァンサン・ランドン
フィラ・エヴェルディ
オドレイ・ダナ 他
配給:ロングライド
コピーライト:(C)2009 Nord-Ouest Films-Studio37-France 3 Cinema-Mars Films-Fin Aout Productions.
●『君を想って海をゆく』公式サイト
※2010年12月18日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にてロードショー!
文:みのり
改行
- 2010年12月14日更新
トラックバックURL:https://mini-theater.com/2010/12/14/12958/trackback/