『スプリング・フィーバー』-中国で制作を禁止されたロウ・イエ監督が描く、むせかえるように濃密なラブストーリー
- 2010年11月10日更新
前作『天安門、恋人たち』で中国政府から5年間の映画制作の禁止令を言い渡されている最中、ロウ・イエ監督が中国国内でゲリラ的に撮影した作品、『スプリング・フィーバー』。中国での検閲をせずに、カンヌ国際映画祭で上映され、脚本賞を受賞。家庭用のホームビデオによって描き出される、ホモセクシャルのカップルを中心とした5人の男女の人間関係はドキュメンタリー映画のように生々しく、むせかえるように濃密。現在、中国での制作を禁止されたロウ・イエ監督が、それでもなお、描きたかった純粋なラブストーリーに触れてみよう。
始まりはどこにでもある男の恋の物語から
現代の南京。どこにでもあるような夫婦の疑念から物語は始まる。女性教師リン・シュエは、夫ワン・ピンが浮気をしているのではないかと疑い、その調査を探偵ルオ・ハイタオに依頼。尾行の結果、夫の浮気相手は女性ではなく、ジャン・チョンという”青年”であることが判明する。一方、尾行するうちに美しいジャンのことが気になり始めた探偵のルオは、彼に惹かれていくが、ルオにはリー・ジンという恋人がいた。ジャン、ルオ、ワン、リー、リン。それぞれが惹かれあい、反発しあい、複雑に絡み合う人間関係。さまよい、移ろう恋人達の行き場を求める旅が始まっていく。
ゲリラ撮影が生んだどこまでも濃密な日常。
前作『天安門・恋人たち』で、中国電影局の許可が降りなかったにもかかわらず、カンヌ国際映画祭で上映し当局より5年間の映画製作・上映禁止処分を受けたロウ・イエ監督。禁令中に家庭用のホームビデオでゲリラ的に撮影された本作品は、セットの撮影ではうまれない自然な光と闇の中にある南京の日常が映し出され、登場人物の息遣いがダイレクトに伝わる、ドキュメンタリーのような仕上がり。まるで濃密な恋人たちだけが所有する空間をのぞき見ているような錯覚に陥る。同性愛の過激な性描写に注目が集まりがちであるが、監督が描こうとしたのは同性愛、異性愛を超えた、普遍的で広義な愛の形。劇中、朗読される中国の作家郁達夫(ユイ・ダーフ)の詩、『春風沈酔の夜』のように中国の体制下で、街に生きる人々を集団ではなく個人としてくっきりと描きだした愛の形を堪能していただきたい。
▼『スプリング・フィーバー』
中=仏 /2009年 / 115分
監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン(カンヌ国際映画祭脚本賞受賞)
出演:チン・ハオ、チェン・スーチョン、タン・ジュオ、ウー・ウェイ、ジャン・ジャーチー、チャン・ソンウェン
配給・宣伝:UPLINK
●『スプリング・フィーバー』公式サイト
11月6日より渋谷シネマライズ他、全国順次ロードショー
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文:白玉
- 2010年11月10日更新
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