『彼女が消えた浜辺』

  • 2010年09月14日更新

kanojokieta

ひとりの女性が忽然と姿を消した。いったい彼女は誰だったのか。そして私たちは、その浜辺で何を想うのか…。

カスピ海沿岸のリゾート地。3日間の旅行を楽しもうと集まった大学時代の仲間たち。家庭を持つ者、離婚をした者、子供を持つ者、状況はそれぞれだが、数年ぶりの再会を思いきり楽しんでいた。

予約していたヴィラが手違いで満室のため、急遽、海辺に建つ朽ちかけた別荘に泊まることに。建物は荒れていたが、目の前には美しい海が広がる最高のロケーション。子どもたちは海に夢中になり、大人たちもこの状況を楽しんでいた。

この小旅行を段取りしたセピデーには、余暇とともに別の思惑があった。それは、ドイツでの結婚生活に破れたアーマドと、セピデーの子供が通う保育園の先生エリに出会いの場を持たせること。エリと初対面の友人夫婦たちは躊躇しつつも、次第にエリの美しさと聡明な人柄に惹かれ、セピデーの思惑に賛同していく。当のアーマドもエリに夢中になっていた。

序盤で、イランの中流階級の男女がどのようなヴァカンスを過ごすのかを垣間見られるのもおもしろい。戒律が厳しいというイメージがあるお国柄ゆえ、社会的立場を忘れてリゾートではじける様子は新鮮だ。反面、伝統的な考え方も継承され、結婚や恋愛観を通してイランの文化を感じることもできる。

楽しい時間を過ごし全員のテンションがあがる中、エリは翌朝セピデーに帰りたいと告げる。しかし、アーマドとエリの関係をさらに深めたいセピデーは「あなたのためよ」とエリを無理やり引きとめるのだった。

そして事件が起こる。子供が海に溺れたのだ。男たちの必死の救助で九死に一生を得るが、子供の面倒を頼まれていたエリの姿が消えていることに気づく。

海に助けに出て溺れているのか? それとも、何も言わず別荘を後にしたのか。捜索が進むうちに、彼女の家族や連絡先はおろか、彼女の本名さえ誰にも明かされてないことが判明する。

携帯電話も通じない海辺の別荘という“密室”の中で、楽しいヴァカンスが一変する。

深まる謎、見え隠れする嘘、そして疑惑。それぞれの思惑とともに、少しずつ明らかになっていく秘密。彼女は一体誰だったのか?そしてその行方は…。

本作は、第59回ベルリン国際映画祭最優秀監督賞(銀熊賞)を受賞。セピデー役は『ワールド・オブ・ライズ』でレオナルド・ディカプリオと共演し世界的にブレイクしたゴルシフテェ・ファラハニー。彼女を筆頭に、この映画をいっそう魅力的なものにしているイラン女優たちの美しさも見逃せない。

静かな美しさの中に見える強い意思。彼女たちはそれをどこまで貫けるのか。そしてそれに伴う痛みと切なさを抱えた彼女たちの数奇な運命を見届けてほしい。

▼『彼女が消えた浜辺』作品・公開情報
イラン/2009年/116分
原題:”DARBAREYE ELLY”
英題:”ABOUT ELLY”
監督・脚本:アスガー・ハルファディ
出演:ゴルシフテェ・ファラハニー タラネ・アリシュスティ 他
配給:ロングライド
コピーライト:(C) 2009 Simaye Mehr.
『彼女が消えた浜辺』公式サイト(注:音が出ます)
※2010年9月11日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開(全国順次)。

文:那須ちづこ
改行

  • 2010年09月14日更新

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