『息もできない』特別試写会に、ヤン・イクチュン監督が登場!

  • 2010年01月30日更新

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第10回 東京フィルメックスで、この映画祭開催以来初の、最優秀作品賞と観客賞の2冠に輝いた『息もできない』が、2010年・春、東京のシネマライズでロードショーされます。

公開に先立って、2010年1月28日に、韓国文化院・ハンマダンホールで特別試写会が開催され、ヤン・イクチュン監督が韓国から駆けつけました!

『息もできない』は、俳優としてキャリアを積んだヤン監督の初メガフォンで、監督・製作・脚本・編集・主演を担っています。ヤン監督の舞台挨拶と、観客のみなさまとの質疑応答の模様を、ほぼノー・カットでお届けします!

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まずは当サイト恒例の、「セレブの靴チェック」! カジュアルなファッションで登場したヤン監督の足元は、ブラウンが基調の落ち着いた印象のスニーカー。ペール・ブルーのラインがアクセントですね。

「この映画は、みなさんにとって、『友達が作った家族の映画』のように感じてもらえると思います」

インディペンデント・ムービー(自主制作映画)の『息もできない』。ヤン監督が本作の脚本を書き始めたのは、2006年5月だったそうです。「今は2010年の1月ですが、さまざまな逆境を乗り越えて、ここまで来ました」とヤン監督。「劇映画なので、もちろん、フィクションの部分はありますが、本作で描いた感情の部分には、0.1%も嘘はありません。言うなれば、『自分が30年間書きためた日記に、ちょっとだけフィクションを加味した』、そんな作品なんですよ」と話しました。本作を撮ったことによって、ご家族との関係も含めて、ヤン監督の抱えていた個人的な問題がいろいろと解決されて、自分自身と和解できたような思いがしたそうです。

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舞台挨拶のあとは、観客との質疑応答。満員の客席から、続々と手があがりました。最初の質問は、「キャスティングの経緯」について。

「キム・コッピさんの情緒的な精神世界に惚れこみました」

本作は家族を描いたドラマであり、ラヴ・ストーリーでもあります。中でも、ヤン監督が演じた主人公・サンフンの心に大きな影響を与える女子高校生・ヨニの存在が光っています。当サイトのライター・おすずも、このコラムで、ヨニに大注目しておりました。

ヨニを演じたのはキム・コッピさん。ヤン監督が彼女を知ったきっかけは、ある短編映画祭で上映された10分程度の作品に出演しているのを観たからだそうです。「その映画で、キムさんは台詞をひと言も話さなかったのですが、素晴らしい感情表現を見せていました。彼女の持っている情緒的な精神世界に惚れこんでしまったので、長編映画でも演技をしてもらいたい、と思って、出演を依頼したんです」とヤン監督は話しました。

「社長」ことマンシク役を演じたチョン・マンシクさんは、ヤン監督とは10年来の俳優仲間とのこと。劇中で、彼がいきなり頭を丸刈りにして登場するシーンがありますが、ヤン監督が指示したわけではなく、チョンさんが突然、髪を刈って撮影現場に現れたそうです。「役作りのために、髪型を変えてくれたんですか?」とヤン監督が訊ねたら、「いや、急に丸刈りにしたい気分になっただけ」と答えたとのこと。「結果的に、(マンシクがあのシーンで髪型を変えるのは)キャラクターに合っていたから、よかったんですけどね」とヤン監督は笑顔になりました。

「ヨニの弟・ヨンジェを演じたイ・ファンさんは、本作の脚本をたまたま手に入れて読んでくれて、『ぜひ出演したいから、オーディションをしてほしい』と申し出てきてくれたんです」とヤン監督。そのほか、ヤン監督がかつて共演した俳優や、演技学校にかよっていた際の先生も出演してくれたとのこと。また、端役の多くは、この映画のスタッフだそうです。

『息もできない』では、貧困に喘ぐ中での、家族に対する憎しみや、家族との軋轢が描かれています。「貧しさや憎しみは、絶ち切ることができると思いますか?」という質問に、ヤン監督はご自身とご家族との関係を例にあげて答えました。

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「希望を見いだすため、問題を解決するために、勇気を出して努力をして数年を費やしたとしても、その時間は、まったく惜しくないと思います」

「人間は、きっと誰でも、心のどこかに希望を持っています。ただ、心で思っていても、勇気を持って努力をしなければ、その希望を見つけることはできません」とヤン監督。ご両親との仲がよくなかったので、関係を修復するために、何年も努力をしたそうです。その結果、以前に比べると、ご家族と気楽に接することができるようになったとのこと。「家族との関係を修復できたのは、この映画を作ったおかげでもあります」と語って、「たとえ100%とはいかなくても、努力をした分だけ可能性が与えられて、希望は見えてきます。逆に、努力をしなければ、得られることはなにもありません」と力説しました。

初メガフォンの本作で、ヤン監督は主人公を演じてもいます。「自分の演技を、監督として自ら演出するという体験のご感想は?」という質問があがりました。

「監督である自分自身がカメラの前に立つことで、共演者に『気楽な存在』として接してもらえたことが、よかったです」

「演技をしたときの印象を、監督に判断される前に、一時的に判断するのは俳優自身です」とヤン監督。「たとえば、普段の生活で自分が誰かと話しているときに、うっかり言い間違いをしてしまって、『あっ』と口を押さえたくなるときがありますよね。俳優の演技にも、それと通じる部分があるんです」と、ヤン監督は例をあげて説明をしました。

本作を演出するにあたって、最も大切にしたのは、自分以外の出演者に時間的余裕を与えて、納得のいくまで演技を発揮してもらうことだったそうです。「自分も出演者としてカメラの前にいて、ほかの俳優たちとコミュニケーションをとりながら演技をしたので、共演者たちに『監督だから』と距離を置かないで、自分と接してもらうことができました。とても楽しい現場だったんです」と、ヤン監督は撮影の当時を振り返りました。

残念ながら、質疑応答も終わりの時間が近づいてきました。観客からの最後の質問は、「暴力について、ヤン監督はどのように考えていますか?」というもの。本作には、暴力と流血のシーンも、多く含まれています。

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「世間から暴力が消えない限り、本作の主人公・サンフンのような人間は存在し続けるんです」

「私が本作で重点を置いたのは『家族の物語』であって、暴力を優先して伝えたいと考えたわけではありません」と、ヤン監督は前置きをしてから、「ただ、私の周辺にも、韓国の社会にも、暴力がたくさんあるのは事実です」と語りました。

本作には、家庭の父親が周囲の人間に暴力にふるうシーンがあります。「国家と社会が、まるで影武者のように姿を隠して、世の『父親』という存在にすべてを押しつけた、という部分が、韓国にはありました」とヤン監督は話します。社会構造が「家庭の父親」を圧迫した結果、彼らが暴力をふるわざるをえない状況になってしまった例が見られる、ということです。「父親であっても、一市民に過ぎないのに、社会でも家庭でも責任を負わされて、ストレスを発散できない状況に追いつめられました。その結果、暴力をふるってしまう父親もいます」とヤン監督は語りました。

また、本作の主人公・サンフンが暴力に訴えることについては、「サンフンは複雑な家庭環境で育ってきて、いわゆる『一般的な言語』を学んだことがありません。なので、周囲の人々と、どうやって意思の疎通をはかればよいのかがわからないため、相手を罵倒して、暴力という形でのコミュニケーションをとってしまうんです」と、ヤン監督は説明しました。

「もちろん、暴力が世界を作ってはいけません」

「健全な家庭と健全な心が世界を作らなくてはならないのに、世の中には相変わらず、暴力が蔓延しています」と、ヤン監督は続けます。「暴力を日常的に見続けている人々は、それに対して麻痺するか、快感を覚えるかの、2種類に分かれてきます。前者の『麻痺する人々』は、暴力に慣れてしまうんですね。この『慣れ』が、サンフンのような存在を生みだします。世間から暴力が消えない限り、サンフンのような人間は存在し続けるんです。こういった意図は、本作の前面には出しませんでしたが、私が密かに隠したメッセージです」、ヤン監督は、そう話しました。そして、「みなさまが既にご存知のように、暴力が地球の歴史を作ってはいけない、と私も考えています」と結びました。

観客のみなさまからの質問に、身振り手振りをまじえて、誠実かつ詳細に答えてくださったヤン監督。笑顔がこの上なくチャーミングな、親近感をそそられるそのお姿は、『息もできない』の雰囲気や主人公・サンフンのイメージとは対極にあるともいえます。しかし、接する人々を温かい気分にしてくれる深い人柄のヤン監督だからこそ、『息もできない』のような、「心にも体にも、『痛いけれどダイレクトに響く』」、そんな作品を産みだすことができたのでしょう。

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▼『息もできない』作品・公開情報
英語題:”Breathless”
韓国/2008年/130分
監督・脚本・出演:ヤン・イクチュン(Yang Ik-Jun)
出演:キム・コッピ イ・ファン チョン・マンシク 他
配給:ビターズ・エンド スターサンズ
『息もできない』公式サイト
※2010年3月20日より、シネマライズ他にて、全国順次ロードショー。

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勝ち気すぎる女子高生 ファイル001:ヨニ(韓国) ~『息もできない』より~

取材・文:香ん乃 撮影:柴崎朋実
改行

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