『倫敦(ロンドン)から来た男』
- 2009年12月26日更新
鬼才タル・ベーラ監督による7年ぶりの新作は、第60回カンヌ映画祭のコンペティション部門に正式出品され、公開が待ち望まれた注目作品だ。
ナポレオンの出身地としても知られるコルシカ島で撮影された本作は、港で起きた殺人事件の物語。75年前に、文豪ジョルジュ・シムノンによって書かれた同名小説が原作となっている。
鉄道員マロワンは毎夜、港の制御室から一人、港と駅を見下ろしている。ある夜、彼は制御室の中で、ロンドンから来た男が港で犯した殺人事件の一部始終を目撃してしまう。殺された男が持っていたトランクを、海から拾い上げると、中には大量の札束が入っていた。一夜にして大金を手にしてしまった、マロワンの平凡な日常が少しずつ狂い始める…。
冒頭のカメラの長回しには、ハラハラさせられる。
仄暗い夜の港から漂ってくる、底知れない緊張感からなのだろうか…。
しかし、ある瞬間に気づかされる。「これは、マロワンの目線なのだ」と。
登場人物の視点からのショットというのは、そう珍しくはない。
でも本作の場合、マロワンの「視点」だけでなく、「意識の度合」もがスクリーンに投影されているのだ。画面に映し出される対象が、冒頭の港の光景から、次第に登場人物の執拗なまでのアップに変化したり、同じ場所にいながら、聞こえてくる音の大きさが変化する。マロワンの対象物への関心度が、少ないセリフを補うかのように、感覚的な部分からも伝えられる。
また、無音でまっ黒な画面と、まっ白な画面が挿入されているのは(上映中のアクシデントか?!と一瞬不安になった)、目の前が真っ暗になるとか、頭の中が真っ白になるという、脳での反応をあえて映像にした、ということなのだろうか。
モノクロームの画面から、妙な生々しさが伝わってくる。
昨年『フィクサー』でアカデミー助演女優賞をとった、ティルダ・スウィントンも出演。一見の価値ある作品です。
☆シアター・イメージフォーラムにて大ヒット上映中!同劇場で行われた公開記念トークイベント「監督タル・ベーラを語る」(ゲスト:田中千世子さん×市山尚三さん)のレポートはこちらから。
▼『倫敦(ロンドン)から来た男』作品情報
原題:The Man from London
ハンガリー・ドイツ・フランス/2007年/138分
監督:タル・ベーラ
配給:ビターズ・エンド
公式サイトはこちら
文:おすず
改行
- 2009年12月26日更新
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