活弁に行こう―弁士:澤登翠さんインタビュー
- 2009年12月24日更新
無声映画に弁士が語りをつける活弁は、映像、弁士の語り、楽団の演奏の調和によって生み出される、映画を超えたエンターテイメント。今回は12月29日にリサイタルを控えた弁士、澤登翠さんに活弁の魅力を熱く語っていただきました。
ライブ感満載。なにが出てくるのかわからない、一度きりのお楽しみ
活弁の面白さは何と言っても弁士の語り。その語りを構成する弁士の台本はとてもユニークである。なんと、それぞれの弁士が自分の解釈のもと、台本を書いていくのだ。
「弁士の台本はあらすじを書いたものスタッフ、キャストを書いたものと間にでる字幕を書き写したものしかないんです。肉付けは弁士がします。その肉付けはすぐ浮かぶ時もあるんですが、何週間かかってもかけなくて、結局どうしても書けない時は1時間位アドリブでしゃべっちゃったりするんです。集中してやるんですけど、次に自分がなにをいうのか、瞬間までわからない。(笑)」
時にはアドリブまで飛び出る活弁。同じ作品でも、語る人、語るタイミングによってスリリングに変化する。映画は何度見ても同じなんて思っていたら、大間違い。一度見逃したらもう二度と見られない映画が活弁だ。
ライブ感を高めるのが音楽を担当する楽団。多彩な音楽がどう、絡んでいくのか?
「5名の楽団の楽長の湯浅ジョウイチさんが編曲してくださっています。楽器はフルート、バイオリン、キーボード、パーカッション、それにギターと三味線が入る予定です。」
語りと音楽が合わさるのは本番当日。どんなセッションになるのか澤登さんもまだわからないんだとか。
90年前の問題作、現代でも問題作
今回の上映される作品は3本。その中でも注目は「イントレランス」(画像提供=㈱マツダ映画社)。
「イントレランス」はユダヤ篇、バビロン篇、中世フランス篇、現代篇の4つの異なる時代の物語がめまぐるしく同時進行する、1910年代としては画期的な構成。弁士にとっては4つの話を語り分けるのは至難の技と思われるが、
「転換部分をわかりやすく、客観性を持ちつつも、歴史ドラマとしても楽しんでいただけるような荘重な語りや、軽妙な語り、悲劇的な語り、その違いを出していきたい」澤登さんの語り分け、ぜひ劇場で確かめてみたい。
90年前の作品であるが、そのテーマ「不寛容」は普遍的で今なお、私たちが立ち向かわなければならない問題である。
「映画の父と呼ばれるD・W・グリフィスが製作、監督し、1916年に公開された作品です。古代から現代(1910年代)までの、憎しみ、反発、排斥、人間の不寛容の歴史がテーマ。21世紀の現代にあって、不寛容は今でも続いている。90年前にグリフィスが訴えたことをかみしめたい。」と澤登さんは現代に通ずる「不寛容」というテーマに対する熱い思いを語った。
美しい言葉で語られる極上の映画エンターテイメント
弁士の語るリズムある活弁は美しい。
「紫紺の空には星乱れ、緑の地には花吹雪。」インタビューの間にすらすらっと澤登さんが語る語り口は軽快な音楽のようだ。
「映画創成期の映画は外国では映像には主に音楽が付いていたけれど、日本では最初から語り手と音楽が付いていたのです。無声映画時代、昔の人はなにが楽しかったかというと映画そのものも大事だけれど、映像の脇に弁士がいたり、舞台の下に楽団がいたり、映像に人間が介在して、声なき映像と見ている人の現在をつなげる世界を楽しんだのではないでしょうか。」映画の中の遠い世界と自分が住んでいる現実の世界を結びつけるのは弁士や楽団達。弁士は観客にとって、憧れの世界の息吹を運ぶ超一級のエンターテナーだったのだ。だからこそ、大正、昭和初期の人気弁士の月給は首相のお給料よりも高かったというのも、うなずける。それほどに活弁の需要は高く、人々はその音楽のような節回しに酔いしれたのだろう。ぜひ、澤登さんの上映会でその雰囲気を楽しんでいただきたい。
最後に上映会にいらっしゃる皆さんへの澤登さんからのメッセージが寄せられた。
「楽しみつつも映画の魅力を伝えたいと思っていますので、皆さんが楽しんでみていただくことを期待しています。」
第21回澤登翠活弁リサイタル
12月29日(火)午後6時開演
会場:新宿紀伊国屋ホール 全席指定:2500円
出演弁士:澤登翠
楽団:カラード・モノトーン 楽長=湯浅ジョウイチ
「イントレランス」(1916年)
監督:D・W・グリフィス
出演リリアン・ギッシュ
「公債」(1918年)
監督、出演:チャールズ・チャップリン
「弁天小僧」(1928年)
監督:衣笠貞之助
出演:林長二郎
お問い合わせ:マツダ映画社内 無声映画鑑賞会事務局 電話03-3609-9981(平日10:00~18:00)
取材、文:白玉 撮影:細見里香
改行
- 2009年12月24日更新
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