映画に懸ける情熱を鼓舞したいー『ダイナマイト・ソウル・バンビ』松本卓也監督インタビュー

  • 2019年08月15日更新

主に自主映画のフィールドで、毎年2~3作品を精力的に発表し続けている映画作家がいる。松本卓也監督、42歳。最新作『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は、とある映画の撮影現場を舞台に、自主映画と商業映画、本編とメイキング映像といったさまざまな対立軸を、複数の視点による多重構造で描いた意欲作だ。劇場公開はまだ決まっていないが、2019年3月のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でお披露目された後、6~7月の富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭(韓国)に出品され、熱狂的に迎え入れられた。帰国した松本監督に、富川での歓迎ぶりに作品の狙い、映画作りへの思いなど縦横無尽に語ってもらった。(取材・インタビュー撮影:藤井克郎)


ほぼ毎日パーティー漬けの11泊

富川国際ファンタスティック映画祭でのQ&A— 富川では熱い思いに触れたそうですね。

松本卓也監督(以下、松本):3回の上映があって、300人くらいが入る劇場で7~8割は埋まっていましたね。上映後の質疑応答では、作品の内容にちゃんと突っ込んで質問をしてくる人が多く、ここまで細かく観てくれているということに感激しました。終わってロビーに出ると、またさらに話しかけられて、シャトルバスを待っているときも、これから僕らの映画を見る予定だという人に出会ってと、町全体で盛り上がっているんです。ああいう熱量は国内ではないですね。

― 出演者ら大勢で出かけたと聞きましたが。

松本:トータルで17~18人は行ったでしょうか。毎日、何らかのパーティーが開かれていて、11泊のうちパーティーに行かなかったのは2日くらい。出演者はみんなほとんどパーティー恐怖症になっていたけど、僕は自分の映画だし、ひたすら交流に努めました。海外の映画祭に出すようになったのは去年からですが、映画人同士の交流が国内よりも盛んな気がします。次につながる機会がすごくたくさん転がっていて、それをつかむかつかまないかは自分次第。ビビらないで極力行くべきだと思いましたね。

富川国際ファンタスティック映画祭会場 富川国際ファンタスティック映画祭で集合写真
富川国際ファンタスティック映画祭で舞台挨拶 富川国際ファンタスティック映画祭で逆取材
(写真提供:シネマ健康会)

松本監督のときは優しく「カット」

―作品は、松本監督演じる自主映画出身の山本監督が初の商業映画を手がけることになって、以前からの仲間とプロのスタッフや役者の混成部隊で臨む。その撮影現場の温度差、山本監督の暴走が巻き起こす悲喜劇を描いています。

松本:僕も年齢だけは中堅になって、映画祭で出会う若手監督を見ると、調子に乗っているというか、安直にバイオレンスに走っている人が多い。でもそれを否定するのではなく、結局みんな情熱を持ってやっているんですよ。ただ調子に乗っているだけではないよね、という激励、自分を含めて鼓舞するような作品を作れないかなと思ったんです。それと普段こつこつ仕事をしている人たちへの尊敬ですね。会社に通う毎日の中でいろんな葛藤があるでしょうが、そういう自分自身と照らし合わせて楽しんでもらえるような映画を作りたかったんです。

―自主映画の仲間にも商業映画のスタッフにも、どちらの描き方にも愛を感じます。

松本:お互いに頑張っているんだけど、どこかでぶつかってしまう。その対立は、商業映画と自主映画の両方を経験している中から編み出していきました。一番いやだったのは自画自賛になること。いくら情熱を持って取り込んでいるといっても、自主映画万歳にはしたくなかった。プロはプロで素晴らしいし、リスペクトもしています。それをしっちゃかめっちゃかにする主人公の山本は小鹿みたいな存在で、だから『ダイナマイト・ソウル・バンビ』なんです。

―メイキングと本編の映像を絡ませた入れ子の構造は非常に刺激的ですが。

松本:ここは劇中の映像で、ここで現実に戻って、といったことは、脚本に盛り込んでいました。DVDの特典でついているメイキングって、ときには本編よりも面白かったりして、絶対に観てしまう。そういえばメイキングと本編が混ざる映画は今まで見たことがないなと思って、ぜひやってみたかったんです。メイキングの映像もほぼ同時進行で撮っていて、僕はわかっていたけど、出演者は混乱していたみたいですね。「カット」というかけ声も、山本監督がカットなのか、松本としてカットなのか。だから僕がカットするときは優しくにこっと笑って「カット」と言うようにしていました(笑)。

アイデアが枯れるまで作り続けたい

―これまでも『サーチン・フォー・マイ・フューチャー』(2016)、『ミスムーンライト』(2017)と、撮影現場を舞台にした映画を撮っていますね。

松本:特殊なんですよね、映画を作る現場って。いろんな人がいて、それぞれ個性的で、大人がやっている文化祭みたいですごく好きなんです。普段、自分が触れている現場なので、得意技を出し渋るのはもったいないと思うんです。

―映画作りはいつごろから?

松本:高校1年のときにコンビを組んでお笑いをやっていたのですが、ネタになるようなものを書きためた中で、これは笑いじゃないなというものがあって、それを映像で撮ってみようと思ったのが始まりです。ホラーだとか暗いものが多く、それを仲間とハイエイトで撮影していましたね。そのころからマニアックなものは作っていなくて、テレビシリーズの「世にも不思議なアメージング・ストーリー」とか、日本の「世にも奇妙な物語」とか、とにかくエンターテインメントを意識していました。掘り下げていってワクワクドキドキできるのがエンターテインメントで、そこが原点だと思っています。

―その後、本格的に映画の道に進み、『グラキン☆クイーン』(2009)で商業映画監督デビューをします。

松本:2001年にお笑いコンビが解散することになり、翌年から映画を始めるぞと決意したのですが、趣味でやっていたときに、知り合いのCMカメラマンらが面白いと言ってくれた言葉が支えになっています。そのときに思ったのは、アイデアが枯れるまで作り続けたいということ。お笑い出身で、人に受けてなんぼ、という感覚が身についていたのがよかったなと思っています。ただ単純明快なエンターテインメントよりは、どこか斜めから描きたいです。キム・ギドク監督の作品なんかも、エンターテインメントだけどカンヌ国際映画祭にかかったりしていますよね。僕もどこかオリジナリティーのあるエンターテインメントを心がけて作っていきたいという思いでいます。

―『ダイナマイト・ソウル・バンビ』の日本公開は未定とのことですが。

松本:やりたいとは思っていますが、もうちょっと海外の映画祭で頑張ってみようと思っています。今は劇場公開や自主上映会以外にネットでの配信もあるし、全部食い尽くしたいという気持ちはあります。どうやったら観られるのと言ってくれる人が結構いて、それはすごくありがたいですね。

 

【松本卓也(まつもと・たくや)】
東京都出身。1976年生まれ。10年間、お笑いコンビで活動後、2002年から独学で映画制作の道を志す。シネマ健康会代表。2009年、初の商業映画『グラキン☆クイーン』で劇場公開デビューを果たす。ほかに、さぬき映画祭準グランプリ受賞作『花子の日記』(2011)、ちちぶ映画祭グランプリ受賞作『LR Lost Road』(2013)、田辺・弁慶映画祭観客賞受賞作『サーチン・フォー・マイ・フューチャー』(2016)、Kisssh-Kissssssh映画祭グランプリ受賞作『ミスムーンライト』(2017)など作品多数。映画のほかに、CMやプロモーションビデオなど多様な映像作品を手がける。

 

▼『ダイナマイト・ソウル・バンビ』作品情報
(2019年/日本/109分)
監督・脚本・編集:松本卓也
撮影(劇中劇『ダイナマイト・ソウル・バンビ』『猫と犬』):岩崎登
撮影(劇中劇『ウルフバイト』):とりやま先生
撮影(メイキングパート):増本竜馬
照明:宮本亮 録音:鈴木はるか
演出部部長:川井田育美 衣装:中條夏実、佐藤友美
制作部部長:青柳智 合成:岩崎友彦
音楽(劇中劇パート):マチーデフ、羽鳥惠介
音楽(メイキングパート):ヒの字(Hideki Inoue)
出演:松本卓也、岡田貴寛、イグロヒデアキ、後藤龍馬、マチーデフ、島隆一、石上亮、工藤史子、志城璃磨、芝本智美、新井花菜、松本美樹、木村仁、三浦ぴえろ、俊平、伊藤元昭、山下ケイジ、岩本聡、岩崎登、藤田尚弘、藤原未砂希、花、長尾光浩、美月ひなた、川井田育美、大木宏祐、森恵美
制作:シネマ健康会

【ストーリー】自主映画界で評判を呼んでいる若手監督の山本は、プロデューサーの天野に抜擢されて、初の商業映画『ダイナミック・ソウル・バンビ』を撮る機会を得る。それまでの自主映画仲間にプロのスタッフ、キャストが加わり、合同チームとして撮影が始まるが、徐々に山本の暴走が始まる。これを山本の先輩に当たる谷崎のカメラがメイキング映像としてとらえていた。

>>『ダイナマイト・ソウル・バンビ』トレーラー<<

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松本卓也 Twitter
映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ公式インスタグラム

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◎ゲストライター
藤井克郎(ふじい・かつろう) 1960年、福井県生まれ。85年、東京外国語大学卒業後、フジ新聞社に入社。夕刊フジ報道部から産経新聞に異動し、文化部記者として映画を担当する。社会部次長、札幌支局長などを経て、2013年から文化部編集委員を務め、19年に退職。文化部時代の1997年から1年半、映画ジャーナリズムを学びに米ロサンゼルスに留学する。共著に「戦後史開封」(扶桑社)、「新ライバル物語」(柏書房)など。
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